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17.おんなのこ3
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ナツは言った。
「オキヨさんって、凄いんですねえ」
「あら、何が? 」
マリアは意外そうに訊ねると、ナツは力を込めて言った。
「こんな、こんな大きなショッピングモールの、あんな大きな店の店長を任されているなんて。私なんかスケールが違いすぎます。スーパーの花屋で働いているんですよ」
「まあ、お給料も随分違うでしょうね」
「そうそう。だから尊敬しちゃう」
二人はチェーン店のコーヒーショップへ向かって、モールの中をドタドタと歩いていた。ナツがその店のパンケーキを食べてみたいと言い出したのだ。マリアはふと足を止めて言った。
「ここの出口ね。この先にコーヒーショップがあるはず」
「行きましょ、行きましょう」
足並み揃えて出口から外へ出ると、すぐ目の前に目的の店が立っていた。ナツが感動的に言う。
「ずっとこのお店に来たかったんだあ。でも値段も安くないし、なかなか勇気が出なかったんですよね」
「今日、お金はあるの? 」
「あります、マリアさん。思いのほかオキヨさんの店で、お金を使わなかったので」
「なら、入るわよ。ナツの夢を叶えるために」
「夢って案外容易く叶うものなんですね」
二人はぞろぞろと店内に入っていって、テーブルの座席に座ってから、メニューを見始めた。マリアは目でメニューを追いつつも、こんな言葉を漏らした。
「オキヨ、元気がなかったのよね」
「えっ。全然そんな風に見えませんでした」
「違う違う。今日の話じゃなくて、この間電話を掛けた時のことよ」
「そうだったのか。どうしてだろう」
「仕事か、それとも恋愛の悩みか」
「私、オキヨさんに恋愛について、アドバイスを頂きました、前に電話を掛けた時に。そんなオキヨさんが、恋愛の悩みを抱えているなんて―」
「悩んでいるから分かることもあるでしょ。注文、決まった? 」
「はい」
マリアが主導して注文を済ますと、ナツはお財布を取り出し、所持金を確認しながら言う。
「私って恋愛の経験値も少ないし、太っているから、男ウケについて全く自信がないんですよね。仮に好きですって言われたとしても、どこを好きになったんですかって、相手に聞きたくなっちゃう」
「ま、女は年と体重に関して、男の言い分でがんじがらめにされているわよね。ババアは御免だ、デブは怪物、って具合に」
「怪物って言われたら……、さすがにテンション下がりますよね」
「私、すれ違った女子高校生に、笑いながら『痛い』って言われたことあるわよ」
「それって、年と体重とは別の話では。私は男性に、『首が太いな』と言われて、カチンときた記憶があります」
「どっちにしても、余計なお世話」
「ほんとそうです。外見のことをグチグチ言う男の人って、大概『じゃあ、自分はどうなのよ』って突っ込みたくなる人、ほんと、多いですよ」
「できるホストは、そこら辺を濁すのがうまいのよね。やっぱり上っ面だけでなく、人間性が深くないと、務まらない商売なんでしょうね」
そこでコーヒーとパンケーキが運ばれてきたので、二人は料理に手をつけながら、さらに話し続けた。
「マリアさん、ホストとリアルな恋愛をするって、有り得ることなのでしょうか」
「んー。うーん。客としては、難しいテーマよ、それ。両想いになったとしても、うまくいくかはそのホストの対応、もしくは決断次第というか」
「自分のために、ホストを辞めてくれるとか、あとは同棲するようになったとか? 」
「ま、正直私はそこまで話が進んだことがないのでね。男がそもそも私に、興味なんてないのよ……」
「オキヨさんって、凄いんですねえ」
「あら、何が? 」
マリアは意外そうに訊ねると、ナツは力を込めて言った。
「こんな、こんな大きなショッピングモールの、あんな大きな店の店長を任されているなんて。私なんかスケールが違いすぎます。スーパーの花屋で働いているんですよ」
「まあ、お給料も随分違うでしょうね」
「そうそう。だから尊敬しちゃう」
二人はチェーン店のコーヒーショップへ向かって、モールの中をドタドタと歩いていた。ナツがその店のパンケーキを食べてみたいと言い出したのだ。マリアはふと足を止めて言った。
「ここの出口ね。この先にコーヒーショップがあるはず」
「行きましょ、行きましょう」
足並み揃えて出口から外へ出ると、すぐ目の前に目的の店が立っていた。ナツが感動的に言う。
「ずっとこのお店に来たかったんだあ。でも値段も安くないし、なかなか勇気が出なかったんですよね」
「今日、お金はあるの? 」
「あります、マリアさん。思いのほかオキヨさんの店で、お金を使わなかったので」
「なら、入るわよ。ナツの夢を叶えるために」
「夢って案外容易く叶うものなんですね」
二人はぞろぞろと店内に入っていって、テーブルの座席に座ってから、メニューを見始めた。マリアは目でメニューを追いつつも、こんな言葉を漏らした。
「オキヨ、元気がなかったのよね」
「えっ。全然そんな風に見えませんでした」
「違う違う。今日の話じゃなくて、この間電話を掛けた時のことよ」
「そうだったのか。どうしてだろう」
「仕事か、それとも恋愛の悩みか」
「私、オキヨさんに恋愛について、アドバイスを頂きました、前に電話を掛けた時に。そんなオキヨさんが、恋愛の悩みを抱えているなんて―」
「悩んでいるから分かることもあるでしょ。注文、決まった? 」
「はい」
マリアが主導して注文を済ますと、ナツはお財布を取り出し、所持金を確認しながら言う。
「私って恋愛の経験値も少ないし、太っているから、男ウケについて全く自信がないんですよね。仮に好きですって言われたとしても、どこを好きになったんですかって、相手に聞きたくなっちゃう」
「ま、女は年と体重に関して、男の言い分でがんじがらめにされているわよね。ババアは御免だ、デブは怪物、って具合に」
「怪物って言われたら……、さすがにテンション下がりますよね」
「私、すれ違った女子高校生に、笑いながら『痛い』って言われたことあるわよ」
「それって、年と体重とは別の話では。私は男性に、『首が太いな』と言われて、カチンときた記憶があります」
「どっちにしても、余計なお世話」
「ほんとそうです。外見のことをグチグチ言う男の人って、大概『じゃあ、自分はどうなのよ』って突っ込みたくなる人、ほんと、多いですよ」
「できるホストは、そこら辺を濁すのがうまいのよね。やっぱり上っ面だけでなく、人間性が深くないと、務まらない商売なんでしょうね」
そこでコーヒーとパンケーキが運ばれてきたので、二人は料理に手をつけながら、さらに話し続けた。
「マリアさん、ホストとリアルな恋愛をするって、有り得ることなのでしょうか」
「んー。うーん。客としては、難しいテーマよ、それ。両想いになったとしても、うまくいくかはそのホストの対応、もしくは決断次第というか」
「自分のために、ホストを辞めてくれるとか、あとは同棲するようになったとか? 」
「ま、正直私はそこまで話が進んだことがないのでね。男がそもそも私に、興味なんてないのよ……」
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