おとぎの世界で

桃青

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嵐の中

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 窓の外は黒一色で、轟音が鳴っていました。痛いくらいの雨の音に、何もかもが壊れてしまいそうな風の音。でも灯ったランプのおかげで、室内はほっとできる空気で満ちています。賢者たちはボウイが運んできたお茶を手にし、思い思いにくつろいでおり、私は窓の前に立っているシュリの元へ行き、声を掛けました。
「シュリ」
「ああ、トイ。嵐がやってきましたね」
「ほんと。まるでこの家が壊れそうな、酷い嵐だよね」
「ええ。葉は配り終えましたか? 」
「うん。シュリはこの葉を食べたとき、どんなことが思い浮かんだのかな」
「子供のときの楽しい思い出が、走馬灯のように駆け巡りました。私はきっと、大切なことを忘れていたのですね」
「大切なことって、具体的に言うと? 」
「人生は楽しいものだという、当たり前のことを、です。おそらく私の何かがズレていた気がする。そのことに気付かされました」
「ズレていた、か……。賢者のシュリでさえも」
「今、おとぎの世界で生きている多くの者に、当てはまることかもしれません」
 そう言ってシュリは美しい目を考え深げに伏せました。すると青年の声が響き渡り、私は我に返りました。
「賢者の皆さん集まって! そろそろ話し合いましょう」
 彼の呼びかけで皆が青年の元に集まると、彼から話を切り出しました。
「僕が話し合いたいことは、カベーの予言についてです」
 フェアリーが涼やかな声で、宙に浮かびながら言いました。
「あの言葉ね、光が消えて、世界が一旦停止して、また新しい光に向かって動き出すっていう! 」
 耳の尖った男性が、ウウウと唸ってから言いました。
「光が消える。確かに今、この世界は光が来ているな、夜だし」
 青年は深く頷いてから言いました。
「そうなんです。我々はまさに今、カベーの予言のただ中にいるのではないでしょうか? 」
 灰色のイケている外見のドラゴンは言いました。
「この屋敷にいる者たちは、皆救いを求めていた。今となっては、あの草の力によって皆救われる方向へ向かい、流れ出している。その草を我々に与えてくれたのが、カベーだ」
 馬頭の人が、決然と言いました。
「救いを与えた者がカベー。救われた我々の状態を意味する言葉が、『予言』なのか」
 すると仙人ご老人が、難しい顔をしながら言いました。
「となると次の言葉、『世界の一旦停止』とは、何を指しているのじゃろう? 」
 シュリはぽつりと呟きました。
「世界の停止。それは時間の停止」
 光り輝く女性が、ハキハキと言いました。
「シュリ、時間の停止って、恐ろしいけれど、『死』を意味するんじゃないかしら」
 シュリはさらに独り言を言いました。
「時間の停止からの脱却。それは死と再生……」
「あ」
 巨大な男性が小さく叫んで時計を指さし、ぽそっと言いました。
「皆さん、時計を見てください。時間が止まっています」
 彼の言葉に導かれて、全員が大きくて豪華な装飾の壁時計に目をやりました。
 確かに時計は十一時を指したまま、ぴたりと動きを止めていました。
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