おとぎの世界で

桃青

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「切ないね、タイム」
「うーん。何ていうかなあ。二人とも神の仲間みたいなものだから、子供の時に俺に注いだ愛情が、それは神々しくてさ。あんなものを十数年注がれ続けた俺としては、二人を責める言葉なんか、思いつきたくても全く思いつけないわけよ。
 純粋な愛。それしかない」
「凄い経験をしているね、見かけによらず」
「天使と悪魔を超えた愛を見出した両親を、俺は尊敬している。一線を越えた上での愛って、破壊的と言ってもいいくらい、凄いレベルにあるの。それを生み出すことができた二人だもの」
「あの不思議な野原で、思い出に浸れた? 」
「ウン。そのせいで今、俺、ちょっとぼーっとしている」
「進化」
「ん? 」
「一線を超えるって、進化へと続く道だと思う。そう考えるとタイムは、進化の寵児みたいなものかもしれない」
「しんかのちょーじ? 何それ、俺って凄いの、もしかして? 」
「少なくとも私は、頼りにしているよ」
「俺を? 」
「凄いと思っているし」
「俺を? そんなこと今まで言ったことなかったじゃない」
「なら、タイムの両親に代わって言ってあげる。私はタイムの将来を、楽しみにしている」
「俺の、将来? 」
「きっとご両親もそう思っているよ。二人の愛を貫きながら」
「そっか。そっかなー。そうかあ。薄々感付いてはいたけれど、凄いんだ、俺って。なんか今、深く実感しちゃった」
「……。私は両親のせいで、どうしても自分を否定的に捉えてしまうの。私のせいで、私のせいでうまくいかないんだ、駄目なんだって」
「後ろ向きな考え方。よした方がいいのに」
「でも、どうしてもやめられなかった、この思考。もしかしたら、これからやめられるかもしれない」
「ほーう。この光る草のおかげで? 」
「そうかもしれないし、これから起きるかもしれない、新しい時代のパワーで。私は前向きに変われるかも」
「何にしろ、様々な動きがありそうだね、小さなことから、大きなことまで、隅々と。トイ、ちょっと止まって」
「ん? 」
 私とタイムは真っ暗な野原の中で、ポツンと灯台のように光り輝いて立ち、互いに相手を見つめ合いました。二人してこの世界で異質な存在感を放っている気がしましたが、タイムが手をパタパタ動かすのを見守っていると、ぐっとカラフルな世界が目に飛び込んできました。タイムは吊目を吊り上げ、得意気に言います。
「おとぎの世界への道が開けたよん。トイから帰りな。俺が後に続く」
「分かった。ああ、懐かしい色彩、懐かしい世界! 」
「懐かしむほど時間はたっていないでしょ」
 私は色の世界に足を踏み入れ、タイムも同じようにして、気付いた時には―。

 私たちはおとぎの世界のあの野原に立っていたのでした。
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