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母の言葉
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素朴な作りの木製のドアの前に立ち、気を落ち着けてから、コンコンとドアをノックしました。すると、パタンと呆気なくドアが開き、中から中高年の女性がドア越しに顔だけを出し、言いました。
「トイ。トイじゃないの」
「あの、お母さん。ただいま」
「―帰ってきたの? 」
「そうじゃなくて……。お母さんとお父さんと少し話したら、自分の家へ帰るよ」
「私と話すために来たのね」
「まあ、そんなとこ」
「―入りなさい」
「お邪魔します」
そう言って、数年ぶりに私は実家へ足を踏み入れました。部屋の中は薄暗く、テーブルの側にあるロッキングチェアに座って、ギシギシと音を立てながら、父が本を読んでおり、母は無言で台所へ歩いていきます。所在無げに私は、近くの椅子に腰を下ろし、どうするべきか悩んでいると、母がお菓子の入った皿を、ドンと無造作にテーブルに置き、言いました。
「何の話なの」
「あの、私は、心を明るくしてくれる薬草を持ってきたんだ」
「……あなた、薬草師をしているんですってね。ハル? とかいう女の人から、話を聞いたけれど」
「うっ、うん。そう。自活しているの」
「あなたが家を出ていけば、何も問題がなくなると思ったんだけどねえ。平和が訪れるんじゃないかって」
「うん」
「でも実際は、いいことなんて何も起こらない。私は、絶望しているの」
「あの、お母さん? この葉っぱを口に含んでみてほしいの。とっても心が明るく―」
「また私をおかしくする気なのね」
「……」
「父さんも私も、あなたのせいでめちゃくちゃよ。あなたが、私たちの心を壊したのよ! あなたは存在するべきではなかった。ああ、まだまだ言い足りないわ。私はトイが怖くて仕方がない」
「ごめんなさい、あの、」
「責任を取って。責任を取りなさい、あなたも大人なら。悪意の塊のようなあなたを、二十年間も育てたのよ。こうなったのは何もかもあなたのせいなの。あなたが存在する罪を、償いなさい! 」
「……。私の作る薬が効くから、お客さんが来るんだよ。だから―」
「薬が効く? 恐ろしい、恐ろしい、あなたの作り出す何もかもが恐ろしいわ。
全部あなたのせいなのよ。全部、全部全部全部全部!」
「トイ。トイじゃないの」
「あの、お母さん。ただいま」
「―帰ってきたの? 」
「そうじゃなくて……。お母さんとお父さんと少し話したら、自分の家へ帰るよ」
「私と話すために来たのね」
「まあ、そんなとこ」
「―入りなさい」
「お邪魔します」
そう言って、数年ぶりに私は実家へ足を踏み入れました。部屋の中は薄暗く、テーブルの側にあるロッキングチェアに座って、ギシギシと音を立てながら、父が本を読んでおり、母は無言で台所へ歩いていきます。所在無げに私は、近くの椅子に腰を下ろし、どうするべきか悩んでいると、母がお菓子の入った皿を、ドンと無造作にテーブルに置き、言いました。
「何の話なの」
「あの、私は、心を明るくしてくれる薬草を持ってきたんだ」
「……あなた、薬草師をしているんですってね。ハル? とかいう女の人から、話を聞いたけれど」
「うっ、うん。そう。自活しているの」
「あなたが家を出ていけば、何も問題がなくなると思ったんだけどねえ。平和が訪れるんじゃないかって」
「うん」
「でも実際は、いいことなんて何も起こらない。私は、絶望しているの」
「あの、お母さん? この葉っぱを口に含んでみてほしいの。とっても心が明るく―」
「また私をおかしくする気なのね」
「……」
「父さんも私も、あなたのせいでめちゃくちゃよ。あなたが、私たちの心を壊したのよ! あなたは存在するべきではなかった。ああ、まだまだ言い足りないわ。私はトイが怖くて仕方がない」
「ごめんなさい、あの、」
「責任を取って。責任を取りなさい、あなたも大人なら。悪意の塊のようなあなたを、二十年間も育てたのよ。こうなったのは何もかもあなたのせいなの。あなたが存在する罪を、償いなさい! 」
「……。私の作る薬が効くから、お客さんが来るんだよ。だから―」
「薬が効く? 恐ろしい、恐ろしい、あなたの作り出す何もかもが恐ろしいわ。
全部あなたのせいなのよ。全部、全部全部全部全部!」
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