おとぎの世界で

桃青

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予言の野ネズミ1

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「がたいのいい客だった」
 私は手を振りながらドラゴンを見送りつつ、静かな気持ちになってそう言いました。森の中にドラゴンが消えていくのを見届けてから、テーブルにつこうとして、ふと窓の外に目をやると、タイムが弾むようにこの家へ走ってくるのが見え、何だ何だと思っていると、バタン、と乱雑にドアを開き、彼が大声で私を呼びました。
「トイ、トイ、トイ、トイ! 」
「さっき出ていったばかりなのに、今度は何事なの」
「予言の動物だ! 」
「は? 」
「こいつを見て! 」
 そう言い、タイムはつり目を一層つり目にして、手の平に乗せた動物を、ずいっと私の目の前につきつけるのでした。
「ただのネズミじゃないの、タイム」
「ただのネズミじゃないんだよ! 」
「ウッシッシッシ」
「……。確かに鳴き声が変ね。普通のネズミは、ウッシッシなんて鳴かない……」
「違う! 」
「何が? 」
「このネズミはね、俺が魔法をちょっとかけて、人間の言葉を喋れるようにしたの。そしたらこいつは―」
「別に人間の言葉なんて喋らない……」
「明日の天気は晴れ! 一日中晴れ!」
「ね、トイ。今の聞こえた? このネズミ君の言葉を」
「うん。お天気予報? 」
「こいつはね、ウッシッシッと笑うだけじゃなくて、色々な予言をすることができるんだよ。どうやら未来が見えるらしいんだ」
「メシはパン! 」
「……確かに言葉は喋っているけれど、予言かどうかは……」
「じゃあ、何か聞いてみなよ。ちゃんと答えてくれるんだから」
「そう? なら、人間の未来は? 」
「みんな死ぬ! 」
「そんなこと、分かっているわよ。なんて聞けばいいのかしら。ならおとぎの世界の未来はどうなる? 」
「ウッシッシッシッ」
「いや、笑うんじゃなくて」
「笑える未来が、来る! 」
「笑える未来って何よ。タイム、これじゃ予言されても意味が分からないわ。役に立たない」
「そっか……。トイ、笑える未来がやってくるんだよ」
「そこに感心できるのね、タイムは」
「奥深い言葉じゃない。あと、明日は晴れるってさ」
「まぁ、確かに。でもそれは予言というよりも、予報……」
「トイ、このネズミを飼いなよ」
「この不敵に笑うネズミを飼えと? じゃあ、ネズミに聞いてみよう。私はあなたを飼う? 」
「飼え! メシつき! 」
「命令されたわ」
「こいつもトイのことを気に入ったんだ。だからプレゼントしてあげる。大切にしてね。じゃ、またな! 」
「あああ、タイム、どこへ行くの? 」
 ばたんとドアが閉ざされる音と共に、部屋の中には、私とネズミだけが取り残されていました。私はぼりぼりと頭を掻きながら、唸りつつ言いました。
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