4 / 57
ごつめの奴2
しおりを挟む
「ってことは。変化を迫られているのは、俺らだけではないってことか? 」
「私は薬草師ですが、植物たちの間では、すでに変化の兆しが出始めています。滅びていくものと、繁栄するものの違いが、はっきりと出てきているのです。確かに何かが、起きているようです」
「この、おとぎの世界が、変化かい。そんなこと、俺が生きている間では聞いたこともねえ。お茶を頂くよ」
「どうぞ。お茶も販売していますので、もしよかったら」
「トイさん。あんたが幸せになる方法を探しているってことを、どっかで聞いたんだが」
「ええ。あらゆる方面からアプローチしていますが、答えはまだ出ません」
「俺はこのままでいい。変化なんて欲しくなかった」
「ええ」
「その変化とやらを迫られることが、今の俺様にとって最大の不幸さ。変化なんて、いらねえんだ」
「……。お薬はどうしましょうか」
「一応もらっておく。あとこのお茶も少しくれ。これは何のお茶だい? 」
「緑草茶です。緑草を月の光で乾かしたお茶で、世界と深く繋がることのできる力を秘めています」
「飲めば、世界的なパワーが得られるって感じかな」
「というか、一言でいえば、冷静になります」
「そうか。今の俺様にもってこいだ。冷静になって、どうするべきかをじっくり考えてみたい。その、あなたが言っていることなんかをな」
「分かりました。お待ちください、今、お薬とお茶の準備をします」
「うん」
私が席を立ち、薬草で作った薬を台所で調合し始めると、マタードラゴンはすっかり静かになって、家の中の様子をあちこち眺めていましたが、ふと、呟きました。
「トイさん」
「はい」
「変化した先は、幸せなんかな」
「もし、今の世界で幸せになれるのなら、変容した新たな世界でも、きっと幸せはあるでしょう。どんな世界の中でも、理由があり、答えがあります。その二つの存在を知り、理解することができるのなら、おそらく私たちは幸せになれるのです。痛みや苦しみがなければ、の話ですが」
「ふーん。ドラゴンには少し、小難しい話だな。俺たちはとにかく陽気なのが好きなんだよ。……ってことは、この世界の理由と答えが、トイさんにもまだ分からないってことかい? 」
「そう。もしかしたら一生分からないかも」
「辛気臭いねえ。そんなことを考えない方が、幸せになれるんじゃないの」
モロコの言葉に、思わず私は笑って言いました。
「本当にそうかもしれない。ハイ、これがお薬。こっちの袋がモテ薬で、こちらの袋が変容を助ける薬。二つとも、一日一回好きな時にお飲みください。これが緑草茶。お湯で五分蒸らしてから、飲んでください」
「ありがとさん。これがお代。また来るよ」
「ぜひ、お待ちしています」
マタードラゴンは、どす、どすと、大きな足音を響かせ、存在感たっぷりに家から出ていきました。
「私は薬草師ですが、植物たちの間では、すでに変化の兆しが出始めています。滅びていくものと、繁栄するものの違いが、はっきりと出てきているのです。確かに何かが、起きているようです」
「この、おとぎの世界が、変化かい。そんなこと、俺が生きている間では聞いたこともねえ。お茶を頂くよ」
「どうぞ。お茶も販売していますので、もしよかったら」
「トイさん。あんたが幸せになる方法を探しているってことを、どっかで聞いたんだが」
「ええ。あらゆる方面からアプローチしていますが、答えはまだ出ません」
「俺はこのままでいい。変化なんて欲しくなかった」
「ええ」
「その変化とやらを迫られることが、今の俺様にとって最大の不幸さ。変化なんて、いらねえんだ」
「……。お薬はどうしましょうか」
「一応もらっておく。あとこのお茶も少しくれ。これは何のお茶だい? 」
「緑草茶です。緑草を月の光で乾かしたお茶で、世界と深く繋がることのできる力を秘めています」
「飲めば、世界的なパワーが得られるって感じかな」
「というか、一言でいえば、冷静になります」
「そうか。今の俺様にもってこいだ。冷静になって、どうするべきかをじっくり考えてみたい。その、あなたが言っていることなんかをな」
「分かりました。お待ちください、今、お薬とお茶の準備をします」
「うん」
私が席を立ち、薬草で作った薬を台所で調合し始めると、マタードラゴンはすっかり静かになって、家の中の様子をあちこち眺めていましたが、ふと、呟きました。
「トイさん」
「はい」
「変化した先は、幸せなんかな」
「もし、今の世界で幸せになれるのなら、変容した新たな世界でも、きっと幸せはあるでしょう。どんな世界の中でも、理由があり、答えがあります。その二つの存在を知り、理解することができるのなら、おそらく私たちは幸せになれるのです。痛みや苦しみがなければ、の話ですが」
「ふーん。ドラゴンには少し、小難しい話だな。俺たちはとにかく陽気なのが好きなんだよ。……ってことは、この世界の理由と答えが、トイさんにもまだ分からないってことかい? 」
「そう。もしかしたら一生分からないかも」
「辛気臭いねえ。そんなことを考えない方が、幸せになれるんじゃないの」
モロコの言葉に、思わず私は笑って言いました。
「本当にそうかもしれない。ハイ、これがお薬。こっちの袋がモテ薬で、こちらの袋が変容を助ける薬。二つとも、一日一回好きな時にお飲みください。これが緑草茶。お湯で五分蒸らしてから、飲んでください」
「ありがとさん。これがお代。また来るよ」
「ぜひ、お待ちしています」
マタードラゴンは、どす、どすと、大きな足音を響かせ、存在感たっぷりに家から出ていきました。
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
日給二万円の週末魔法少女 ~夏木聖那と三人の少女~
海獺屋ぼの
ライト文芸
ある日、女子校に通う夏木聖那は『魔法少女募集』という奇妙な求人広告を見つけた。
そして彼女はその求人の日当二万円という金額に目がくらんで週末限定の『魔法少女』をすることを決意する。
そんな普通の女子高生が魔法少女のアルバイトを通して大人へと成長していく物語。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません
きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」
「正直なところ、不安を感じている」
久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー
激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。
アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。
第2幕、連載開始しました!
お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。
以下、1章のあらすじです。
アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。
表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。
常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。
それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。
サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。
しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。
盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。
アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?
アルバートの屈辱
プラネットプラント
恋愛
妻の姉に恋をして妻を蔑ろにするアルバートとそんな夫を愛するのを諦めてしまった妻の話。
『詰んでる不憫系悪役令嬢はチャラ男騎士として生活しています』の10年ほど前の話ですが、ほぼ無関係なので単体で読めます。
[完結] 邪魔をするなら潰すわよ?
シマ
ファンタジー
私はギルドが運営する治療院で働く治療師の一人、名前はルーシー。
クエストで大怪我したハンター達の治療に毎日、忙しい。そんなある日、騎士の格好をした一人の男が運び込まれた。
貴族のお偉いさんを魔物から護った騎士団の団長さんらしいけど、その場に置いていかれたの?でも、この傷は魔物にヤられたモノじゃないわよ?
魔法のある世界で亡くなった両親の代わりに兄妹を育てるルーシー。彼女は兄妹と静かに暮らしたいけど何やら回りが放ってくれない。
ルーシーが気になる団長さんに振り回されたり振り回したり。
私の生活を邪魔をするなら潰すわよ?
1月5日 誤字脱字修正 54話
★━戦闘シーンや猟奇的発言あり
流血シーンあり。
魔法・魔物あり。
ざぁま薄め。
恋愛要素あり。
異世界転生 我が主のために ~不幸から始まる絶対忠義~ 冒険・戦い・感動を織りなすファンタジー
紫電のチュウニー
ファンタジー
第四部第一章 新大陸開始中。 開始中(初投稿作品)
転生前も、転生後も 俺は不幸だった。
生まれる前は弱視。
生まれ変わり後は盲目。
そんな人生をメルザは救ってくれた。
あいつのためならば 俺はどんなことでもしよう。
あいつの傍にずっといて、この生涯を捧げたい。
苦楽を共にする多くの仲間たち。自分たちだけの領域。
オリジナルの世界観で描く 感動ストーリーをお届けします。
生贄公爵と蛇の王
荒瀬ヤヒロ
ファンタジー
妹に婚約者を奪われ、歳の離れた女好きに嫁がされそうになったことに反発し家を捨てたレイチェル。彼女が向かったのは「蛇に呪われた公爵」が住む離宮だった。
「お願いします、私と結婚してください!」
「はあ?」
幼い頃に蛇に呪われたと言われ「生贄公爵」と呼ばれて人目に触れないように離宮で暮らしていた青年ヴェンディグ。
そこへ飛び込んできた侯爵令嬢にいきなり求婚され、成り行きで婚約することに。
しかし、「蛇に呪われた生贄公爵」には、誰も知らない秘密があった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる