おとぎの世界で

桃青

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ごつめの奴1

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 バンッと勢いよくドアが開き、グリーンのドラゴンが、そこからひょいと頭を出して言いました。
「薬草師、トイの家はここかい? 」
 私は頷いて言いました。
「そうです。依頼主のモロコさん? 」
「ウオオオオオ、そうだ。絶滅危惧種のマタードラゴン、モロコ様とは俺のことだ。ガアアア」
ばっくりと口を開いた姿は十分に恐ろしく、私は落ち着くようにと、自分に言い聞かせながら言いました。
「椅子にお座りください。今、お茶をお持ちします」
「でかい俺が椅子に座れば、まず間違いなく椅子が壊れると思うんだが、それでもいいかい? 」
「いえ、やめてください。立っていていただけますか? テーブルの側に」
「オウ、そうさせてもらうよ」
 モロコは尻尾をバタバタばんばんと床に叩きつけながら、とかげのような無表情な顔をして、私を凝視していました。私は紙とペンを用意してテーブルにつき、心が固まってから、彼に話しかけました。
「で、ご依頼の内容は? 」
「俺はドラゴンだ」
「ええ、大体分かります」
「今、このおとぎの世界では、ドラゴンの数がどんどん減っている。特に俺のこと、マタードラゴンたちは、未来が危ういと言われているんだ」
「滅びてしまうかもしれない、ということですね」
 そう言い、私は彼の姿を改めて観察しました。緑色のゴツゴツした皮膚は光を放っていて、澄んだ水色の瞳は涼しげです。総じて言うなら大変面白い容姿ですが、この姿がもし見られなくなるのなら、寂しいことだなと思いました。
「でな、そんな理由で、どんどん子づくりをしようぜと、マタードラゴンたちで、話し合って決めたんだが……。
 俺はもてない」
「女子のマタードラゴンに」
「それとー、これは俺だけの問題じゃないんだが、性行為をしても、なかなか子供ができない。今俺たちの間では、その話題で持ちきりさ」
「つまり、もてるための方法と、子供ができる方法が知りたい。そういうことでしょうか? 」
「そうね。俺たちが滅びるのは哀しいからね、ウオオオオオオオ」
「そうですね……。惚れ薬もないわけではないのですが、それよりももっと、健全な、あなたの魅力を輝かせる薬を処方しましょう。それでどうですか? 」
「この美しい俺の魅力が、さらに増すのかい? 」
「―いえ、そうではなく、女子受けのいい空気を引き出すようにします。温かさ、穏やかさ、安定感、それと誠実さ、そんなものを。それで、もう一つの問題、子供ができにくいことについてなのですが」
「うん。それも大事なんだよ」
「これはおそらく、……環境要因ですね」
「それって、どゆこと? 」
「多分マタードラゴンに問題があるわけではなく、今のおとぎの世界の環境の方に、問題があるということです。つまり、マタードラゴンに子宝を授ける薬を処方しても、意味がないことになります。マタードラゴンが、別の何かに変化するか、環境が変わるしか、方法はありません」
「そうなのか。で、俺たちはどうしたらいいんだい? 滅びるのを待てってか? 」
「『変容』を助ける薬を処方しましょう。あなたたちの何かが変わる、そんな薬です」
「ガアアア! 俺たちが、その、変容なんかをしてな、マタードラゴンらしさがなくなっちまったら、どうするんだよ? 」
「なら、このまま滅びますか? それとも、新生マタードラゴンとして生きていきますか? 」
「そんな、そんな……、大ごとの話なのかい? 」
「そうです。変化がなければ、死を。それが今、この世界の現実なのかもしれません」
 ドラゴンは大変不服な様子で、頭上から、思いきり見下すような目をして、私を眺めていましたが、ふと、我に返って言いました。
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