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◎ティータイム
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「変わらんね。代り映えのしない毎日だねぇ、トイの日々は」
タイムはストレートティの入ったマグカップを片手に、いかにも暇そうに言いました。私は彼の言葉を受けて、答えました。
「確かに答えの出ない日々。その点については、代り映えがしないわ」
そして手元に置いてあるマグカップをいじってから、窓の外を見てみると、天気は雨。微かに開けた窓の隙間から、天然のサウンドが流れてきて、私を慰めていきます。
「このおとぎの世界でさあ、不幸そうな顔をして、引きこもりをやっている人なんて、トイくらいのものだよ」
「私は引きこもりではないわ、タイム。薬草師よ」
「薬草師。ハァ~、うさんくさい職業だ」
「タイム、なら私も言わせてもらう。あなたは、無職、でしょ?」
「トイ、俺を何だと思っているんだ。この、下級天使と上級悪魔の間にできた、タイム様を。私は~、男でも女でもなく~、神の種族に属し~、だから職だっていらないのさ。存在するだけで、それは神々しい存在なの」
「そんなに神々しいものなら、何故私の疑問に対して答えを出してくれないのかしら。クッキー食べる? 」
「芋入りのクッキーにしてくれよ? なんだっけ、トイが追い求めているものって? 」
「幸せのなり方よ」
「不幸を幸せに。無意味に意味を! 自分で探しな」
「―で、その神々しい存在が、何故、私なんかの友達なのでしょうか」
「面白いからじゃない? 」
「私が面白いの? 」
「やっていることが面白いんだねぇ」
「……幸せ探しが? 」
「幸せなんて、そこら辺にゴロゴロ転がっているのに、見事にそれを無視していく有様が面白いの」
「そう。はい、芋クッキー」
「ありがと。食って寝て、ちょいと仕事をし、心と体が健康で、何を不幸という? 」
「そこが私も分からないのよね」
「ああ、思い出す、トイの家に通ってくる、多方面で不健康な生き物たちを」
「だから私も、幸せについて考えずにいられない」
「雨も降っていることだし、天然のシャワーを浴びたいから、そろそろ俺は、帰らせてもらうことにするよ。仕事の邪魔にはなりたくないからね」
「単に私の依頼人と、向き合いたくないだけでしょう。おみやげに、芋クッキー持って帰る? 」
「雨でしけるからいらないよ。また、来る」
タイムはふさふさの髪をカサカサッと指で掻き回してから、まるで自分の家であるかのように、堂々とドアを開けて、私の家を出ていきました。私は雨に濡れながら、軽やかに、楽しそうに、外を歩いていくタイムの姿を目で追いつつ、呟きました。
「幸せそうだねえ」
固めの芋クッキーをガリッとかじり、薬草茶を飲みながらぼーっとしていると、さっきタイムが残していった無遠慮な言葉たちが、ガンガン私の頭の中を叩き始めます。
「あの、悪魔天使め」
そう言って再び薬草茶を口に含むと、ほろ苦さが私の舌を刺激し、なんだかハートまでほろ苦い気がしてくるのでした。
「依頼人との約束の時間まで、まだ一時間くらいはあるかな……」
小声でそう言ってから、カップを片手に持ち、自分の家をくるりと見渡して、ほうと溜め息をつきました。かつてはノームたちが住んでいたと、不動産屋さんから説明を受けたこの家は、とてつもなく巨大な木の中をくりぬいて作ったような、不思議な内装をしていました。ノームたちは人間にとっては妖怪のような存在で、不気味がって彼らに誰も自ら近づこうとせず、よってこの家はお化け屋敷のような扱いを受けていました。住みたがる人は大変珍しく、人が住んでいれば家が荒れないからと、破格な値段で家を貸してもらうことができたのです。
独特の収納システムとキッチンが、薬草師の私としては大変使いやすく、私はこの家を愛し、ノームには心から感謝しています。
タイムはストレートティの入ったマグカップを片手に、いかにも暇そうに言いました。私は彼の言葉を受けて、答えました。
「確かに答えの出ない日々。その点については、代り映えがしないわ」
そして手元に置いてあるマグカップをいじってから、窓の外を見てみると、天気は雨。微かに開けた窓の隙間から、天然のサウンドが流れてきて、私を慰めていきます。
「このおとぎの世界でさあ、不幸そうな顔をして、引きこもりをやっている人なんて、トイくらいのものだよ」
「私は引きこもりではないわ、タイム。薬草師よ」
「薬草師。ハァ~、うさんくさい職業だ」
「タイム、なら私も言わせてもらう。あなたは、無職、でしょ?」
「トイ、俺を何だと思っているんだ。この、下級天使と上級悪魔の間にできた、タイム様を。私は~、男でも女でもなく~、神の種族に属し~、だから職だっていらないのさ。存在するだけで、それは神々しい存在なの」
「そんなに神々しいものなら、何故私の疑問に対して答えを出してくれないのかしら。クッキー食べる? 」
「芋入りのクッキーにしてくれよ? なんだっけ、トイが追い求めているものって? 」
「幸せのなり方よ」
「不幸を幸せに。無意味に意味を! 自分で探しな」
「―で、その神々しい存在が、何故、私なんかの友達なのでしょうか」
「面白いからじゃない? 」
「私が面白いの? 」
「やっていることが面白いんだねぇ」
「……幸せ探しが? 」
「幸せなんて、そこら辺にゴロゴロ転がっているのに、見事にそれを無視していく有様が面白いの」
「そう。はい、芋クッキー」
「ありがと。食って寝て、ちょいと仕事をし、心と体が健康で、何を不幸という? 」
「そこが私も分からないのよね」
「ああ、思い出す、トイの家に通ってくる、多方面で不健康な生き物たちを」
「だから私も、幸せについて考えずにいられない」
「雨も降っていることだし、天然のシャワーを浴びたいから、そろそろ俺は、帰らせてもらうことにするよ。仕事の邪魔にはなりたくないからね」
「単に私の依頼人と、向き合いたくないだけでしょう。おみやげに、芋クッキー持って帰る? 」
「雨でしけるからいらないよ。また、来る」
タイムはふさふさの髪をカサカサッと指で掻き回してから、まるで自分の家であるかのように、堂々とドアを開けて、私の家を出ていきました。私は雨に濡れながら、軽やかに、楽しそうに、外を歩いていくタイムの姿を目で追いつつ、呟きました。
「幸せそうだねえ」
固めの芋クッキーをガリッとかじり、薬草茶を飲みながらぼーっとしていると、さっきタイムが残していった無遠慮な言葉たちが、ガンガン私の頭の中を叩き始めます。
「あの、悪魔天使め」
そう言って再び薬草茶を口に含むと、ほろ苦さが私の舌を刺激し、なんだかハートまでほろ苦い気がしてくるのでした。
「依頼人との約束の時間まで、まだ一時間くらいはあるかな……」
小声でそう言ってから、カップを片手に持ち、自分の家をくるりと見渡して、ほうと溜め息をつきました。かつてはノームたちが住んでいたと、不動産屋さんから説明を受けたこの家は、とてつもなく巨大な木の中をくりぬいて作ったような、不思議な内装をしていました。ノームたちは人間にとっては妖怪のような存在で、不気味がって彼らに誰も自ら近づこうとせず、よってこの家はお化け屋敷のような扱いを受けていました。住みたがる人は大変珍しく、人が住んでいれば家が荒れないからと、破格な値段で家を貸してもらうことができたのです。
独特の収納システムとキッチンが、薬草師の私としては大変使いやすく、私はこの家を愛し、ノームには心から感謝しています。
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