三年で人ができること

桃青

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81.ゼロサム

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 三年後の十二月十七日にやることは、随分前から決めていた。俺はあちこちを放浪する豪華クルーズ船に乗る。家の中にいて、一人で死んでいくのが嫌だったのと、クルーズ船にずっと憧れがあったから、そう決めた。旅の途中で死ぬなんて、俺的には最高のロマンだし、死の怖さが大分薄らぐ気もする。
 何かの病で倒れるか、もしかしたら船が沈むのか? 人々の浮かれた空気に染まりつつ、俺も楽しく死んでしまおう。

 出航はシンガポールだったため、十七日当日に、俺は羽田空港へ向かった。ツアーに参加するので、あくせくする必要は全くない。空港に着いて、添乗員に到着を告げてから、余った時間に空港内をぶらついていた。死ぬとしたって、旅は素敵だ。脳内で花を咲かせて、お菓子でも買おうかと店に入ろうとした時、肩をポンポンと叩かれた。何だ? と思いながら振り返ると、くたびれた格好と、張り付けたような笑顔が不気味な、若い青年が立っている。反応の仕方が分からず、棒立ちになっていると、彼から話しかけてきた。
「ご旅行ですか? 」
「……ええ」
「どちらへ? 」
「シンガポールです」
「へー。シンガポールを旅するんですか。年末に? 」
「いえ、シンガポールからクルーズ船に乗って、あちこちに」
「へー」
 そう言って、青年はますます僕に近づいてきて、さらに言う。
「いいなあ」
 ドスッ、と音がした気がした。俺はガクッと足を折ってうずくまった。彼はさらに話し続ける。
 ドスッ。「年末におっさんが」
 ドスッ。「クルーズ船で旅だってよ」
 ドスッ。「俺は働いても、働いても、」
 ドスッ。「そんなこと、できないのに」
 ドスッ。「なんか腹立つんだよ」
 ドスッ。「許せねぇよな」
 もうその時には意識が遠のいて、地面に倒れていた。誰かが叫んでいる。何かに濡れている。でもいいんだ。これが俺の最後……。本当の、ラス、

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