三年で人ができること

桃青

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78.てがみ3

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 母にはいくらお礼を言っても足りない。サラサラとした、粘つきのない性格で、それは育て方もそうであり、その自由さ故に、俺は殆ど縛られることなく、大人になることができた。大人になると、束縛されなかった記憶は、自然に幸せと結びつき、こんな育て方をしてくれた母に対し、感謝しかないんだと思ったし、素敵さが分かるようになる。
 母のことを思うだけで泣きそうになるので、次の手紙に移ることにした。

『お父さんへ

 もし、俺の残したお金が、多少でも父さんと母さんに行くのなら、そのお金を自分のために使い、老後の贅沢をしてほしいです。旅に行って旅情に浸ったり、美味しいものを食べたり、欲しかったものを買ってみたり。
 
 お父さんの人生について、何も知らなかったことが悔やまれます。両親の人生って、意外と知る機会がないものですね。ただ、これだけは分かります。我が儘でない人生、言い方を変えるなら謙虚な人生を、歩んできたということを。

 そんな父さんのことだから、貰ったお金は、もっと困った人達にあげようかなんて言い出す気がしますが、贅沢を味わったって、バチは当たりません。海外の南国のビーチで、陽気すぎる明るさに包まれて、昼寝なんて体験をするのも悪くない。想像するだけで面白そうです。そんな意味無しのだらけた時間も、人生で味わってもらいたいな。

 父さんの生き方は、常に僕のお手本になりました。何百回と、いや何万回も、
(父さんだったらこういう時、どうするだろう? )
 と考えて、答えを導きだしたことか。そう、父さんの存在は俺にとっていつも、導き手でした。時として愛情の枠を超えてしまった、師弟関係にあったと言っても、言い過ぎでないかもしれません。

 俺は死んでしまいますが、そのことを悔やんだりしないでください。俺はきっと、生きてよかったと思って死んでいくはずです。もちろん幸せなことばかりではなかったけれど、人生を肯定できたのは、父さんの息子だったおかげだと思う。ありがとう。感謝しています』
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