三年で人ができること

桃青

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76.お手紙

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 シンプルな毎日を。そんな目標を掲げて日々を送っていたら、もう人生の残りは二か月を切っていた。秋らしくなって、物悲しい空気が深まりつつある中、俺は手紙を書き始めた。父、母、晴彦、みのりに当てた、四通の手紙だ。
 手紙を書くことは随分前から決めていて、書き終わっても発送することはせず、分かりやすい場所にある引き出しの中に入れておこうと思った。気が向いたら読んでねスタイルである。読むことを押し付けはしない。最初からこの行為は自己満足だと分かっているからだ。
 ☆☆☆
 手紙を書くと同時に、色々な記憶がぐるぐるする。四人とも、上っ面の関係性ではなかったので、思考は文字を綴るごとに深く潜ってゆく。それと関連して、他の関係ない出来事も、次々と脳裏に浮かんでは消えていった。思えば、働いていた職場は良好とは言えなかったし、中学生の頃には苛めにもあったりしたのだ。自分と関係性の悪かった人々は、今どうなっているのだろう。俺という邪魔者が消えたことで、幸せになっているのだろうか。

『みのりへ

 この手紙をあなたが読んでいるということは、俺はもうこの世にいないということです。みのりと付き合った日々を思い出しながら、今この手紙を書いています。

 遺言として、あなたにこうしてほしいとか、こうなってほしいとか、思うことは色々ありますが、俺が浅はかな意見を述べるよりも、みのりの事を見抜く力を信じているので、言うべきことは特にありません。多分みのりが思うより、遥かにあなたは正しい道を選ぶことができる人です。それは良識がある、ということだと俺は思います。

 みのりと過ごした日々は、総じて楽しかったです。今になって改まって思うのですが、あなたには人をほんわかとさせる能力があります。まあ、幸せな気持ちにさせるということですが、俺が元気のない時や、落ち込んだ時に、あなたの存在に助けられていました。
 どうか幸せになって下さい。人を幸せにするみのりが不幸になるなんて、割に合わない話はありません。あなたは幸せになるべき人です。幸せであるように、できたら俺も、お空の上から見守っていようと思います。あなたが安心して、前に進んでいけるようにと』
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