三年で人ができること

桃青

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74.バイバイ

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 みのりが目を丸くして言った。
「私、誕生にモツ貰う人、初めて見たよ」
「あり……がとう。俺は嬉しいんだけれど、今四人前って言った? 」
「そう。できるだけ早く食べてね。でも何で僕がもつ鍋セットにしたのか、自分でもよく分かっていない」
 俺達三人は、しばらく声を上げずに笑った。これもまあ、めぐり逢い、言い換えるなら運命みたいなものだ。誕生日にモツというパワーワードは、まるでギャグのような響きで、笑わずにはいられなかった。
 ☆☆☆
 また話して、飲んで、食べて。宴は続いた。みのりと晴彦が話すのを聞いていると、自分が魂になって、天使のように二人の様子を見守っている気分になる。ここにはもう、長くいられないけれど、死自体はそれほど悪いことじゃない。何故かそんな気がした。とても澄み渡った、心地いい気持ちになっていた。時間も遅くなって、最後に晴彦が占いをして、締めようということになった。晴彦は持ってきたカードをシャッフルしながら、彼の手元を興味深く眺めているみのりに訊ねた。
「みのりさん、何を占ってほしい? お題は何でもいいよ」
「そうか? なら、金運について占ってほしい。私がお金持ちになれるかどうか」
「了解。よく切って、カードを展開してと。……うん。大金持ちにはならないかな。でもお金に困ることはないらしい。何故なら、みのりさんの持っている運が強いから。何となく、ナチュラルに、お金が困らない方へと流れていくんだ」
「いいじゃない。私はお金に困らないなら、大金持ちになれなくてもいいよ」
「実に賢明な意見だね。すすむは何かないの? 占ってほしいこと」
「そうだな、これからの世の中について占って。未来が知りたいんだ」
「なかなか壮大なテーマだが……。シャッフルして、っと。とりあえず展開してみる。キーワードは、『一寸先は闇』だ。占い的には全く答えになっていないけど」
「それは、誰にも未来は分からないってこと? 」
「そういう感じではなく、きっと展開が早いのだと思う。次々に新しい波が来るから、波に乗りきれなくて、だから先が見えなくなる。エキサイティングではあるが、不安は残るだろうな」
「でも面白そうだと俺は思う。そうか」
「すすむさん、今どんな気持ち? 」
 みのりにそう問われて顔を上げると、二人が優しい顔をして、俺を見守っていた。温かいものを感じながら、俺は素直に答えた。
「不思議と、静かな気持ちだ。サプライズで、楽しい気持ちでもっとはっちゃけてもいいと思うのに、何故かそうならないんだよ。でも悪くない。全てを受け入れた感じ」
 晴彦が言った。
「悟りだな」
 みのりも言う。
「悟ったって感じね」
「もうかなり遅くなったし、二人ともそろそろ家に帰った方がいいんじゃないか? 俺のことは大丈夫だから、自分のことをやってくれ」
「そうか。そうだな。なら、そうさせてもらう。モツは食べてくれよ。お前の体を思って買ったんだ」
「クッキーもな」
 そう言う二人に、笑顔になって言った。
「もちろんそうする」
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