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64.いつか思い出になる
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それからお店の人に指のサイズを測ってもらって、後日品物を取りに来ることに決め、満足感に浸り、俺達はその店を後にすることにした。みのりはときめきが止まらないといった感じで言う。
「買っちゃったね。とっても高い買い物、しちゃったね」
「まあね。でもいい商品だったから、後悔はないよ」
「私、大事にするから。ちょっと話さない? 食事できるお店にでも入らんか? 」
「いいね。なら一旦百貨店を出るか。駅ビルの店の方が気楽だから、そっちに行かない? 」
「そうね」
駅に向かって歩きつつ、近況報告をしながら、レトロな空気でウッディな外観の、料理が美味しそうな喫茶店に入ることにした。中に入ってテーブルに着くと、ゆったりした空気感が漂う。互いに注文を済ませて、俺はちょっとみのりを見つめて、言った。
「この間さ、実家へ帰ったのね。俺の荷物を整理する目的で」
「そう」
「そうしたら母が、みのりさんと結婚するのか? と言っていたよ。言葉を濁しておいたけれど」
「私はすすむさんが死んだら、他の誰かと結婚するのでしょうか。ビジョンが皆無なのですが」
「してよ。みのりには幸せになってほしい」
「私にとって、すすむさんとの思い出は尊いの」
「尊いって……、どういうこと? 」
「私は思い出って、いい思い出と悪い思い出があると思っているのね。いい思い出は、思い出して気分が上がるもの、悪い思い出は、反対に気分が落ちるもの。でもね。すすむさんとの間にできた記憶は、どちらでもないの。全ての思い出が、エモいの」
「そうか? 俺達喧嘩もそれなりにしてきたけどね。みのりが切れて、俺の家の皿を一枚、パリンと割ったこともあったし」
「それもエモい」
「エモいか? 俺は今思いだしても、腹立たしいよ」
「すすむさんとの記憶を辿ると、何故だろうか、人生は素敵だなって思えるの。不思議だね。すすむさんが死なないと思っていた時は、そんな風に捉えていなかったのに、死ぬんだと思うと、全てがバラ色に染まっていく」
「みのりと付き合いだした頃は、普通の可愛い女子だと思っていたんだけど、まあ、知れば知るほど、引き出しから色々凄いものが出てくるものだから……。良くも悪くもね? 徐々にとんでもない女の人と付き合っている、と思うようになった」
「エモいか? 」
「エモいのかな。でもそれを俺は割合に楽しんだ。いい記憶たちではある、確かに」
「世の中に対し、爪痕を残したかどうかは分からないけれど、私達はお互いに良い爪痕を残した。だからすすむさんとのことは、一生忘れないよ。それは約束できる」
「いい記憶として? 」
「うん。他の男性と付き合うことになっても、刻まれた記憶は消えない。いや、むしろこんな人がいたと、その人にすすむさんのことを話すかも」
「それはやめた方がいいって。気分を害するでしょ」
「リングとリングにかけられた誓い。私達のえにしに乾杯」
みのりはそう言って、自分のコーヒーカップを持ち上げ、チンと俺のクリームソーダのグラスにぶつけた。
「買っちゃったね。とっても高い買い物、しちゃったね」
「まあね。でもいい商品だったから、後悔はないよ」
「私、大事にするから。ちょっと話さない? 食事できるお店にでも入らんか? 」
「いいね。なら一旦百貨店を出るか。駅ビルの店の方が気楽だから、そっちに行かない? 」
「そうね」
駅に向かって歩きつつ、近況報告をしながら、レトロな空気でウッディな外観の、料理が美味しそうな喫茶店に入ることにした。中に入ってテーブルに着くと、ゆったりした空気感が漂う。互いに注文を済ませて、俺はちょっとみのりを見つめて、言った。
「この間さ、実家へ帰ったのね。俺の荷物を整理する目的で」
「そう」
「そうしたら母が、みのりさんと結婚するのか? と言っていたよ。言葉を濁しておいたけれど」
「私はすすむさんが死んだら、他の誰かと結婚するのでしょうか。ビジョンが皆無なのですが」
「してよ。みのりには幸せになってほしい」
「私にとって、すすむさんとの思い出は尊いの」
「尊いって……、どういうこと? 」
「私は思い出って、いい思い出と悪い思い出があると思っているのね。いい思い出は、思い出して気分が上がるもの、悪い思い出は、反対に気分が落ちるもの。でもね。すすむさんとの間にできた記憶は、どちらでもないの。全ての思い出が、エモいの」
「そうか? 俺達喧嘩もそれなりにしてきたけどね。みのりが切れて、俺の家の皿を一枚、パリンと割ったこともあったし」
「それもエモい」
「エモいか? 俺は今思いだしても、腹立たしいよ」
「すすむさんとの記憶を辿ると、何故だろうか、人生は素敵だなって思えるの。不思議だね。すすむさんが死なないと思っていた時は、そんな風に捉えていなかったのに、死ぬんだと思うと、全てがバラ色に染まっていく」
「みのりと付き合いだした頃は、普通の可愛い女子だと思っていたんだけど、まあ、知れば知るほど、引き出しから色々凄いものが出てくるものだから……。良くも悪くもね? 徐々にとんでもない女の人と付き合っている、と思うようになった」
「エモいか? 」
「エモいのかな。でもそれを俺は割合に楽しんだ。いい記憶たちではある、確かに」
「世の中に対し、爪痕を残したかどうかは分からないけれど、私達はお互いに良い爪痕を残した。だからすすむさんとのことは、一生忘れないよ。それは約束できる」
「いい記憶として? 」
「うん。他の男性と付き合うことになっても、刻まれた記憶は消えない。いや、むしろこんな人がいたと、その人にすすむさんのことを話すかも」
「それはやめた方がいいって。気分を害するでしょ」
「リングとリングにかけられた誓い。私達のえにしに乾杯」
みのりはそう言って、自分のコーヒーカップを持ち上げ、チンと俺のクリームソーダのグラスにぶつけた。
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