三年で人ができること

桃青

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62.誓い

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「宝石を買ってくれるのか? 」
 電話口でそう言うみのりに、俺はスマホを通して語りかけた。
「うん、買ってあげるよ。みのりの欲しいものを一つね」
「それを一緒に、買いに行くんだ? 」
「そう。みのりの都合のいい日に」
「宝石、宝石って、ティファニーとか、カルティエとか? ハイブランドとかいうやつか? 」
「別にそれでもいいけれど、みのりはそういうのが欲しいの? 」
「いや、欲しくはない。ちょっと言ってみたかっただけだ。どうしてそんな物を私に? 」
「まあ、……男のエゴだな」
「男のエゴなんて、なんて素敵なの。すすむさんも買うのか? 」
「いや、俺は別に。大体男は結婚指輪くらいしか、アクセサリーなんてつけないでしょ、普通」
「ああ、今ね、急速にジュエリーに対するビジョンが、私の中で開けています。おごりなのか? 私はびた一文払わなくていいのか」
「プレゼントだもの、俺のクレジットカードで、一括払い」
「うひゃー。いいのかな。いいのだろうか。私ね」
「うん」
「すすむさんを思い出せるような、思い出の品が欲しかったの。それがすすむさんの買ってくれた物で、宝石だったりしたら、なかなか素敵ね、ってことが言いたい」
「なら、都合のいい日をラインで教えて」
「了解。また会おう」
「じゃあね」
 そこで電話を切ると、俺はふうと息を吐いた。恋人として共にいてくれたみのりに、何かお礼らしきものをしたかったのだが、現金を渡すのは違うし、(仮にみのりがその方が喜ぶとしても)どうしたものかと考えて、辿り着いたのがジュエリーだった。ある程度の値段の物だったら、いざとなれば換金できるだろうし、何より見ていて奇麗だ。みのりも喜んでいる感じだし、ショッピングデートの日を心待ちにして、そしてお出掛け当日。

 待ち合わせ場所の百貨店の入口へ行くと、みのりが彼女に似合わないしゃれた格好で立っていた。側まで俺が行くと、すぐに気付いて、目からキラッと光を放ってから言った。
「おはようございます」
「おはよう」
「私達、これからここでショッピングするのね」
「うん。そうだけど、めかしこんで来たね」
「ジュエリーが似合う女になりたかったのだ。どう? この黒のワンピース」
「喪服みたいだよ」
「縁起の悪いこと言うな」
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