三年で人ができること

桃青

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59.エモさ

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 その中はエモさの塊だった。まず始めに手に取ったのは、幼稚園の頃に描いた絵だ。自分が想像していたより、遥かに上手な絵を描いていて、いい意味で驚いた。と言ってもレベルは、子供の域を出ていないのだが。パパとママと自分の似顔絵。幼い子供なら誰だって一度は描くテーマだ。落書きは捨てることを即決したが、きちんと描いたものは、何枚か取っておくことにした。幼稚園の文集なんていうのも出てきた。小、中、高の文集も、もちろんある。どれも一冊ずつ残すことにして、後は処分することに。卒業証書は全処分を決めた。
 こうやって自分の昔の物を取っておいてくれるあたり、きっと俺は両親に大切にされているのだろうと、改めて思った。親に守られた記憶は、かけがえのないものである。この年まで生きて、色々な人の人生をそれなりに見てきて、そこだけは、本当に感謝しなくてはならないと、身に染みて理解したのだった。
(親に感謝したいのに、親の面倒も見ず、多分俺は親より先に死ぬんだな。親不孝者だ、お金を残すしかできないなんて。俺が死んだらやっぱり、父さんも母さんも悲しむのかな)
 そんなことを考えつつ、俺は昔のリコーダーやピアニカをゴミ袋の中に入れていた。押し入れの奥には服の山が見え、母や父の物かもしれないけれど、一応出して確認をしておきたい。
「あら~、こんなものが出てきたの。古くて懐かしいものばかりだよねえ」
 母の声がして振り返ると、母は俺の子供の頃の絵を一枚手に取り、眺めていた。俺は言った。
「母さん、この中は基本、ガラクタしか入っていないよ。だから俺に関するものについては、極力処分している」
「何で急にそんなことをするの? 断捨離に取りつかれでもしたの」
「俺の思い出を整理しておきたいんだ」
「まあねえ、この押し入れ、開かずの間みたいになっているしねえ。確かに見ると、うわあ、って気持ちになるんだけど、基本見ないしねえ。すすむが整理してくれるなら、助かる」
「うん。母さんの昔の物も、ごたごたと入っているみたいだよ。服なんか変色しているし、処分してもいいと思うけれど」
「なら、母さんもちょっと断捨離に参加してみようかしら」
「そうだね。一緒にやろう」
 それから母と二人で中の物を取り出しては、ああだこうだとやり合った。母は自分の昔話をぽつぽつとしてくれた。どれも耳新しい話ばかりだったので、俺は興味深く耳を傾けた。気付いた時には、ゴミ袋の山と、取っておくべきものの山ができており、日は暮れ、母と疲れたと互いに言い合っていた。重労働でないくせに、思い出と戦う断捨離は疲れる。
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