三年で人ができること

桃青

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57.虚無

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 学生のころに読んだ本や漫画は、今の若者は知らないだろうという物ばかりで、確かな時の流れを感じる。稲中卓球部は、今の高校生に通じるギャグなのだろうか。小学生の頃に読んだ漫画のパトレイバー、作者だったゆうきまさみさんは、今どこで何をやっているのだろう。
「本や漫画も全部いらないっと」
 そう小声で言ってから、それらの本も括って、ゴミとして分類する。今の流行りのストーリーは、鬼滅の刃や呪術廻戦、子供が読む漫画の内容も空気も、随分変わってしまった。今の自分も、ネットフリックスの全裸監督を面白がって見ていたし、三十年前とは己のセンスも、やはり変化しているのだろう。
「パトレイバーの映画が好きだったんだよな。押井守さんが監督をしていなかったっけ」
 そんなことをぶつぶつ言いながら、漫画本もどんどん括ってゆく。変色した昔の漫画に、それ程の値はつくまい。潔く捨てようと決めた。机の引き出しからゴロゴロ出てくる用途のないオモチャ、棚に残された昔の雑誌、いらないいらないと呟きつつ、ゴミとして分類していった。一つ一つまともに見ていたら、いくら時間があっても足りない。本類はタイトルを見ただけで、いるかいらないか判断をし、それでも昔のノートや写真はついつい見入ってしまう。三十年前の友や知り合いは、今どうしているだろうか。思い出の中では、大概皆しっかりした人達だったし、中学生の時に進路を決めるにあたって、自分が一番フワフワしていたことを思い出した。というか、どうして中学生で人生のことを決められるのだろうと、本気で不思議に思った記憶がある。
 
 中学生の頃に決めた道を、皆が歩んでいるかどうかは分からない。でも自分は、フワフワしたままここまで生きてきた。その上、もうすぐ死んでいこうとしている、爪痕も残さず、意味もなく。急に全てのことが虚しくなる。これが人生というものだろうか。
(虚無)
 胸の中で呟いた。輪廻や天国が仮に存在しなくて、無に帰すると言われても、自分はそれほど驚かない。死は死であり、存在の消滅を意味することは間違いないからだ。でも意味のある何かであり続けたかった。強く心から、そのことを願った。
(虚無は嫌だ。死にたくない。死ぬのはやっぱり怖い)
 でも分かっている。諦めと同時に、受け入れなくてはならない定めがある。それを悟りと呼ぶのかもしれない。自分はきっと悟るべきなのだ……。その時階下から声が聞こえた。
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