三年で人ができること

桃青

文字の大きさ
上 下
52 / 85

☆セカンドステージ

しおりを挟む
 晴彦の言うように、二年目の時間は何故かサラサラと過ぎていった。行動をしていないわけではないが、川の流れに乗ったように、突っかかりなく流れてゆく。旅は何かにつかれたかのように、沢山行った。北から南へ思いつくまま出掛けた。憧れの沖縄にも行ったし、北は北海道まで足を延ばした。色々な景色を見た。山や高原、渓谷、海、そして都会の夜景も。家の中に一人でじっとしていると、色々なことを考えてしまい、ネガティブになることが多いし、旅に出ていれば、旅の行程で頭がいっぱいだから、恐ろしい運命を忘れていられる。そういう意味で、旅は救いでもあった。
 無鉄砲に旅に出ることで、何らかの経験値は積み上がっていったが、死と向き合うことに関して役に立つかと言われれば、それは分からない。ただ色々な人がいて、様々な景色や人の営みがあり、自分の世界なぞ全く大きなものではないことを、よく理解した。山を見ていても、自分が生きていようと死んでいようと、それが何だと山に言われそうだし、通りすがりの全ての人達は、悪気はなく、心から、俺のことは他人事だった、当たり前のことだけれど。

 両親とみのりとは、なるたけ多く会うことにしていた。俺が死んだ後、もっと会いたかったと後悔させないためである。俺自身も心残りがあるのは嫌だったし、唯一誰かのために、自分ができることといったらこれ位しかない。募金をしたり、ボランティア活動をすることを考えないわけでもないが、そうすると少し筋が違ってくる。最後の一年が近づくにつれ、自分を極めたいという思いが募ってゆく。
 自分とは何だ。自分にできることは何だ。
 勢いのよい流れに流されつつ、そんなことばかり考えていた。

 必死で考え、必死で生きていたら、たちまち一年の終わりがやってきた。二年目の一年間は本当にそんな感じで、秋になると、ああもう、あと一年しかないんだと思い、我に返る。微かに感じる肌寒さが、己を急かす。冬になり、今年という一年を振り返ると、自分は何をやったのだろうと思う。金持ちのニートという贅沢なスタンスで、一生懸命にやったが、意味はあったのか。というか、そもそも自分が生きている意味とは。
 みのりと美味しい洋食屋さんでクリスマスを過ごし、両親と実家で、じっくりとやや派手な正月を過ごしてから、切実に思った。もうラスト一年は切っている。メンタルのメンテナンスのためにも、晴彦に会いたいと。
 宝くじに当たって二年。指針を定めずにあがいてきたけれど、もうそんなこともやっていられない。全てに納得して死ぬなんて頭の良さは、自分にはない。そこまで悟れないし、そう、一言で言えば、死にたくはなかった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

book of the night, and down

まちか
ライト文芸
黒の大陸ノワールを分かつ〈ネロ大国〉と〈ビアンカ王国〉では悠久なる戦いが続いていた。 争い続ける二つの国。それぞれの国の兵士と兵士、二人の物語。

夏休みの夕闇~刑務所編~

苫都千珠(とまとちず)
ライト文芸
殺人を犯して死刑を待つ22歳の元大学生、灰谷ヤミ。 時空を超えて世界を救う、魔法使いの火置ユウ。 運命のいたずらによって「刑務所の独房」で出会った二人。 二人はお互いの人生について、思想について、死生観について会話をしながら少しずつ距離を縮めていく。 しかし刑務所を管理する「カミサマ」の存在が、二人の運命を思わぬ方向へと導いて……。 なぜヤミは殺人を犯したのか? なぜユウはこの独房にやってきたのか? 謎の刑務所を管理する「カミサマ」の思惑とは? 二人の長い長い夏休みが始まろうとしていた……。 <登場人物> 灰谷ヤミ(22) 死刑囚。夕闇色の髪、金色に見える瞳を持ち、長身で細身の体型。大学2年生のときに殺人を犯し、死刑を言い渡される。 「悲劇的な人生」の彼は、10歳のときからずっと自分だけの神様を信じて生きてきた。いつか神様の元で神様に愛されることが彼の夢。 物腰穏やかで素直、思慮深い性格だが、一つのものを信じ通す異常な執着心を垣間見せる。 好きなものは、海と空と猫と本。嫌いなものは、うわべだけの会話と考えなしに話す人。 火置ユウ(21) 黒くウエーブしたセミロングの髪、宇宙色の瞳、やや小柄な魔法使い。「時空の魔女」として異なる時空を行き来しながら、崩壊しそうな世界を直す仕事をしている。 11歳の時に時空の渦に巻き込まれて魔法使いになってからというもの、あらゆる世界を旅しながら魔法の腕を磨いてきた。 個人主義者でプライドが高い。感受性が高いところが強みでもあり、弱みでもある。 好きなものは、パンとチーズと魔法と見たことのない景色。嫌いなものは、全体主義と多数決。 カミサマ ヤミが囚われている刑務所を管理する謎の人物。 2メートルもあろうかというほどの長身に長い手足。ひょろっとした体型。顔は若く見えるが、髪もヒゲも真っ白。ヒゲは豊かで、いわゆる『神様っぽい』白づくめの装束に身を包む。 見ている人を不安にさせるアンバランスな出で立ち。 ※重複投稿作品です ※外部URLでも投稿しています。お好きな方で御覧ください。

【完結】ルイーズの献身~世話焼き令嬢は婚約者に見切りをつけて完璧侍女を目指します!~

青依香伽
恋愛
ルイーズは婚約者を幼少の頃から家族のように大切に思っていた そこに男女の情はなかったが、将来的には伴侶になるのだからとルイーズなりに尽くしてきた しかし彼にとってルイーズの献身は余計なお世話でしかなかったのだろう 婚約者の裏切りにより人生の転換期を迎えるルイーズ 婚約者との別れを選択したルイーズは完璧な侍女になることができるのか この物語は様々な人たちとの出会いによって、成長していく女の子のお話 *更新は不定期です

この町は、きょうもあなたがいるから廻っている。

ヲトブソラ
ライト文芸
親に反対された哲学科へ入学した二年目の夏。 湖径<こみち>は、実家からの仕送りを止められた。 湖径に与えられた選択は、家を継いで畑を耕すか、家を継いでお米を植えるかの二択。 彼は第三の選択をし、その一歩目として激安家賃の長屋に引っ越すことを決める。 山椒魚町河童四丁目三番地にある長屋には、とてもとても個性的な住人だけが住んでいた。

天使ノ探求者

はなり
ライト文芸
元殺し屋の異能力者、夕凪糸音 殺し屋異能一家、夕凪家を出てからの約四年分の記憶を彼女は失ったが、あるものを探していた。それはずっと昔にあったもの。 それは人か物かそれとも、、、、、、 世界をも巻き込むほど入り組んだそれぞれの戦いの幕が上がる!!

川向こうのアトリエ喫茶には癒しの水彩画家がいます

津月あおい
ライト文芸
 真白(ましろ)は埼玉の国道沿いのレストランで働くウェイトレス。  彼女にはずっと忘れられない人がいた。  それは幼馴染の青司(せいじ)。十年前に引っ越していったきり消息不明になっていた青司は、突然真白の地元に帰ってくる。青司はいなくなっていた間、海外で一流の水彩画家となっていた。そんな青司から真白はある頼みごとをされる。 「この家で、アトリエ付きの喫茶店を開こうと思うんだ。良かったら手伝ってくれないか、真白」  困惑する真白。  しかし結局、店づくりを一緒に手伝うことになる。  店にはかつての仲間たちも集い、青司の料理と絵に癒され、それぞれが前へと進んでいく。  大人になった人たちの、青春と成長の物語。 ※当作品は、第六回書き出し祭りに参加したときの作品を長編にして、さらに今回リライトしたものになります。

続く三代の手仕事に込めた饅頭の味

しらかわからし
ライト文芸
二〇二二年八月六日の原爆の日が祖母の祥月命日で奇しくもこの日念願だった「心平饅頭」が完成した。 そして七十七年前(一九四五年)に広島に原爆が投下された日で、雲母坂 心平(きららざか しんぺい)十八歳の祖母はそれによって他界した。平和公園では毎年、慰霊祭が行われ、広島県市民の多くは、職場や学校でも原爆が投下された時間の八時十五分になると全員で黙とうをする。  三代続きの和菓子店である「桔平」は売上が低迷していて、三代目の店主の心平は店が倒産するのではないかと心配で眠れない毎日を過ごしていた。 両親を連れて初めて組合の旅行に行った先で、美味しい饅頭に出会う。 それからというもの寝ても覚めてもその饅頭の店の前で並ぶ行列と味が脳裏から離れず、一品で勝負できることに憧れを持ち、その味を追求し完成させる。 しかし根っからの職人故、販売方法がわからず、前途多難となる。それでも誠実な性格だった心平の周りに人が集まっていき、店に客が来るようになっていく。 「じいちゃんが拵えた“粒餡(つぶあん)”と、わしが編み出した“生地”を使い『旨うなれ! 旨うなれ!』と続く三代の手仕事に込めた饅頭の味をご賞味あれ」と心平。 この物語は以前に公開させて頂きましたが、改稿して再度公開させて頂きました。

妄想少女

y
ライト文芸
少女の四コマ妄想小説

処理中です...