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☆セカンドステージ
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晴彦の言うように、二年目の時間は何故かサラサラと過ぎていった。行動をしていないわけではないが、川の流れに乗ったように、突っかかりなく流れてゆく。旅は何かにつかれたかのように、沢山行った。北から南へ思いつくまま出掛けた。憧れの沖縄にも行ったし、北は北海道まで足を延ばした。色々な景色を見た。山や高原、渓谷、海、そして都会の夜景も。家の中に一人でじっとしていると、色々なことを考えてしまい、ネガティブになることが多いし、旅に出ていれば、旅の行程で頭がいっぱいだから、恐ろしい運命を忘れていられる。そういう意味で、旅は救いでもあった。
無鉄砲に旅に出ることで、何らかの経験値は積み上がっていったが、死と向き合うことに関して役に立つかと言われれば、それは分からない。ただ色々な人がいて、様々な景色や人の営みがあり、自分の世界なぞ全く大きなものではないことを、よく理解した。山を見ていても、自分が生きていようと死んでいようと、それが何だと山に言われそうだし、通りすがりの全ての人達は、悪気はなく、心から、俺のことは他人事だった、当たり前のことだけれど。
両親とみのりとは、なるたけ多く会うことにしていた。俺が死んだ後、もっと会いたかったと後悔させないためである。俺自身も心残りがあるのは嫌だったし、唯一誰かのために、自分ができることといったらこれ位しかない。募金をしたり、ボランティア活動をすることを考えないわけでもないが、そうすると少し筋が違ってくる。最後の一年が近づくにつれ、自分を極めたいという思いが募ってゆく。
自分とは何だ。自分にできることは何だ。
勢いのよい流れに流されつつ、そんなことばかり考えていた。
必死で考え、必死で生きていたら、たちまち一年の終わりがやってきた。二年目の一年間は本当にそんな感じで、秋になると、ああもう、あと一年しかないんだと思い、我に返る。微かに感じる肌寒さが、己を急かす。冬になり、今年という一年を振り返ると、自分は何をやったのだろうと思う。金持ちのニートという贅沢なスタンスで、一生懸命にやったが、意味はあったのか。というか、そもそも自分が生きている意味とは。
みのりと美味しい洋食屋さんでクリスマスを過ごし、両親と実家で、じっくりとやや派手な正月を過ごしてから、切実に思った。もうラスト一年は切っている。メンタルのメンテナンスのためにも、晴彦に会いたいと。
宝くじに当たって二年。指針を定めずにあがいてきたけれど、もうそんなこともやっていられない。全てに納得して死ぬなんて頭の良さは、自分にはない。そこまで悟れないし、そう、一言で言えば、死にたくはなかった。
無鉄砲に旅に出ることで、何らかの経験値は積み上がっていったが、死と向き合うことに関して役に立つかと言われれば、それは分からない。ただ色々な人がいて、様々な景色や人の営みがあり、自分の世界なぞ全く大きなものではないことを、よく理解した。山を見ていても、自分が生きていようと死んでいようと、それが何だと山に言われそうだし、通りすがりの全ての人達は、悪気はなく、心から、俺のことは他人事だった、当たり前のことだけれど。
両親とみのりとは、なるたけ多く会うことにしていた。俺が死んだ後、もっと会いたかったと後悔させないためである。俺自身も心残りがあるのは嫌だったし、唯一誰かのために、自分ができることといったらこれ位しかない。募金をしたり、ボランティア活動をすることを考えないわけでもないが、そうすると少し筋が違ってくる。最後の一年が近づくにつれ、自分を極めたいという思いが募ってゆく。
自分とは何だ。自分にできることは何だ。
勢いのよい流れに流されつつ、そんなことばかり考えていた。
必死で考え、必死で生きていたら、たちまち一年の終わりがやってきた。二年目の一年間は本当にそんな感じで、秋になると、ああもう、あと一年しかないんだと思い、我に返る。微かに感じる肌寒さが、己を急かす。冬になり、今年という一年を振り返ると、自分は何をやったのだろうと思う。金持ちのニートという贅沢なスタンスで、一生懸命にやったが、意味はあったのか。というか、そもそも自分が生きている意味とは。
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