三年で人ができること

桃青

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44.エモーション

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「すすむさん、すすむさん」
 みのりの囁き声で、俺は目を覚ました。みのりを見て、ぼんやりしながら返事をする。
「あ、……おはよう」
「ちょっと、外へ行こう。私はもう行ってきた」
「えー、やだよ。寒いし、朝ごはんも食べていないから」
「なら、朝ごはんを食べる支度をしなさい。そのついでに、ちょっとだけ外へ行く。それならどう? 」
「うう~ん、分かった。待っていて」
 そう言いつつ、起き上がって時刻を確認すると、七時過ぎになっており、朝食の時間はすでに始まっている。防寒対策を意識して、適当に中の服を着こみ、アウターをしっかり羽織って、みのりと部屋の外へ出た。古びている短い通路を歩くと、ペタペタと、『硫黄に注意! 』と書かれた張り紙が張られている。その内の一枚を指さして、みのりに訊ねた。
「この張り紙って、どういうこと? 」
「ん、硫黄臭いでしょ、ここら辺は」
「うん。温泉らしい匂いがするね」
「危険らしい、吸いすぎると。さっき宿の主に説明してもらった」
「そんな危険な所に俺達いるの? 困難を乗り越えて、毒ガス地帯へ? 秘湯に行くっていうのは、そんなにやばいことなのか? 」
「安心しろ。宿の主と下働きの人達は、ここで暮らして生きている。そして誰も死んでいない。それよりも外へ出よう。感動するぞ、凄いんだから」
 そう言ってみのりは先を急ぐ。後について、足を速めて戸外へ出ると、一瞬言葉を失った。それから大きく深呼吸をして、言った。
「こんな景色だったのか」
 昨日の視界は雪と夜のせいで、ほぼゼロだった。でも今目の前には、白く染まった山がどこまでも広がっていた。その山のうちの一つに、俺達の泊まる宿があったのだ。天気は快晴、明るく高い空と雪山の景色に、控えめに言って感動した。とても寒かったが、大自然にくるまれて、澄んだ寒さが心地良くさえある。みのりは面白そうな顔をして言う。
「凄くないか? 」
「……凄いよ。来てよかった」
「本当にな。なら、とりあえず朝ご飯を食べてから、散歩をしましょうよ、ここら辺をぐるっとね」
「そうだね」
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