三年で人ができること

桃青

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38.ハーミット

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 ますますジャングル感が増している室内に入っていくと、晴彦の声が響き渡った。
「よう! 生きているね」
「何とかね」
 そう答えて、去年と容姿も雰囲気も変わらない晴彦の前まで行って、手土産を差し出してから言う。
「これ、おみやげ。なかなかいい物なんだよ」
「そうなの。ならありがたく頂いておこう。まあ、座りたまえ」
「うん。あの、晴彦」
「はい」
「俺さ、宝くじに当たっちゃったんだよね。高額当選。一億円」
「よかったね」
「もっと驚かないの? 俺は腰が抜けそうなほど、驚いたよ」
「僕にとっては予測の範囲内だから。来年の占いを聞きに来たんだろう」
「そう。察しがいい。年末より少し早めに来ちゃったけど」
「二、三か月前なら、大丈夫。来年のことは占えるよ。どう、今年はどんな一年だった? 」
「仕事を辞めて、お金持ちのニートになって……。気の向くままにパタパタしていたというか、まあ、色々あったというか」
「働いていたらできないことが、できただろう」
「そうね。旅にも行ったし、ネット依存にもなったし。みのりともいい感じになれて、考え深い、良い一年でした、二年後に死ぬことを考えなければの話だけれど」
「死ぬことに関しては、『運命』と諦めた方がいい。そういう受け止め方が、すすむにとっては一番楽だと思う。頂いたお金はどうやって使ったの? 」
「沢山使おうとは思ったよ。爆買いしようともしたけれど、必要な物以外はいらないという結論に達した。もしも三年後も生きていた場合は、残ったお金はその時の資金にするし、本当に死ぬのなら、父母にお金を残そうと思う。俺の両親、質素な暮らしをしていてさ、だから少し贅沢をしてほしいんだ。人生でたまにはパーッとするのも、悪くないよね」
「俺はすすむがもっとパーッとしていると予想していたんだが、地に足が着いているね。素晴らしいことだ。では、来年の話に移ろうと思う」
「うん」
「このカード。何か分かるかい? 」
「あ、知っているよ。タロットカードでしょ。 ハーミットって書いてあるけれど、どういう意味? 」
「『隠者』を意味している。様々な解釈ができるが、僕的な視点で読むと、今年と違って、目立たない一年になると思うよ」
「目立たない一年って何。俺、別に表舞台に立つ気はないのだけれど」
「そうだな、言葉を変えると、サーッと過ぎてゆく」
「サーッと……。何もない感じってこと? 」
「静かだろうね。お前なりに色々試したり、行動はすると思うが、全ての行いが平穏に溺れていく感じ」
「ある意味、平和そう」
「平和だろうね。だが、平和だから幸せになれるかというと、そうでもない。暗くはないが、明るくもない。そんな中ですすむはまるで僧侶のように、考え続けるだろう」
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