三年で人ができること

桃青

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31.とりま脱出

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 俺がそう言って頭を下げると、みのりはウンと頷いて、俺が渡したカッターを片手に、開封作業にいそしんだ。そして箱を開けながら言う。
「何だか沢山のプレゼントに埋もれたみたいで、これはこれで楽しいな。ちょっとワクワクしてしまう。お、せんべいが出てきた。一袋、二袋、三袋……」
「一つ、みのりに上げるよ」
「本当か? それは嬉しい。ならばこの、空になった段ボールに、私の取り分を入れてゆく。箱入りのお菓子も出てきた。ブラックサンダー? こんなのはいつでもスーパーで買えるじゃないか」
「俺もどうして買ったのか分からない。一度箱で買ってみたかったのかも」
「確かに。駄菓子の箱買いは、大人になったら叶えられる夢の一つだものな。何個かもらっていいか? 」
「いいよ。好きなだけ取って」
「ありがとう。診断。君はネット、ネットショッピングの依存症だ」
「薄っすらと分かってはいる。酷くはなくとも、」
「十分酷いと思うが。とりあえず箱の開封作業を手伝って。全部中身を出そう」
「ああ……、うん。俺も手伝う」
「当たり前だ」
 俺はみのりにぐいぐいと押されて、ようやく重い腰を上げることになった。みのりは俺に確認を取りながら、自分の物を入れる段ボールに、ポイポイと素敵なお菓子たちを放り込んでいく。それと同時にできていく自分の食料品の山を見て、少しぞっとした。何に取りつかれて、こんなに物を買っていたのだろう。みのりの意見が聞きたくなって、声を掛けた。
「みのり、俺ってやばいよね? 」
「やばいやばい。すすむさんはお金があるからいいけど、無い人だったら、借金地獄になっているレベル。他にも何か、ネットでやっていることはあるのか? 」
「配信を……、日によって五時間ぐらい……」
「君は何をやっているのだ。あと二年ちょっとしか生きないんだぞ。その貴重な日々を、配信に捧げてどういう意味がある」
「アニメが面白くてさ。ついつい見てしまう。それはそれで充実していると思っていた。嵌るって、幸せな感覚なんだ」
「それは分かる。嵌っていると満ち満ちた心持で、パ~ッと時間が無くなっていくよな。でも死ぬにあたって、それがやるべきことなのか。他に何かやりたいことは? 」
「みのりと」
「おっ」
「旅に行きたいと思っている。旅が無理なら、お出掛けでもいい。配信を見ながらそんなことをぼんやり考えていたな」
「配信地獄から抜け出す方法を思いついた」
「うん? 」
「私とデートする情報を、ネットで調べるようにしろ。旅のデータでも、お出掛けスポットやグルメでも、何でもいい。そうやって情報を蓄積するために使え。配信以外の方法で、スマホやパソコンを使うようにするんだ」
「俺的には配信地獄でも問題ない……」
「呪われている。何かにつかれているぞ、すすむさん」
「でもみのりに言われたことを、やってみようと思う。ご飯は食べてきた? 」
「いや。それが? 」
「ウーバーを頼む……」
「いや、私と外に出よう。外で、ご飯を頂くのだ。この呪われた部屋から今すぐ脱出しなければ。外へ出ることは、今やるべきミッションの一つでもある」
「分かった。みのりの言う通りにする」
 俺は面倒だと思いながらも、重い腰を上げて、外出の支度をすることにした。
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