三年で人ができること

桃青

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19.温もり

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「おと、お父さんは、こんな時間まで何をしていたの」
「ん。ボランティアっぽいもの」
「そんなことしているんだ」
「定年になって、家で暇しているよりか、なんぼか健康的でいいよ。人の力にもなれて、自分の存在意義も感じられる。仕事の何が大変なんだ? 」
「……」
「うまく言えないか。誰のせいでなくても、大変な時はある。恨むなら、人間に生まれたことを恨むしかない。そんな時もあるよな」
「父さん」
「ん」
「……死について考えたことはある? 」
「あるよ。すすむより遥かに身近なテーマだからね」
「そんなことないよ。死ぬって、怖いかな。悲しくて、辛いこと? 」
「怖くて悲しくて辛いことだと思うよ。すすむが指摘したことは全て正しい。でも私くらいの年まで生きるとね、勉強もしたし、結婚もしたし、子供もいるし、色々やったから、まあ死んでもいいかなと、若い頃よりは素直に思えるんだ。自然にそうなる」
「俺はそう思えない」
「なんだ、今すぐ死ぬみたいな言い方だな。そんなに大変なのか、仕事が」
「そ、そういうわけじゃないのだけど、幸せが何なのか分からなくなってくるんだ。混乱しているっていうか……、時間もお金もあるのに、俺は何をやっているんだっていう」
「確かに混乱しているね。なら『幸せ』について、続きは夕ご飯を食べながら話そう。さあ、飯だ」
「うん」
 ☆☆☆
 父の後に続いて、二階から階段を下りてくると、母が鍋を持ってテーブルに運んでいく所だった。父と共に食卓につくと、すでに温かい夕餉の支度はできている。何もしないのに、ご飯の支度ができるなんて、ちょっとした魔法のようだと思った。父と俺がテーブルにつくと、鍋から湯気が上がり、さらにあちこちに俺の手土産のお菓子が、小皿に乗せて置かれてある。父が言った。
「お母さん、このお菓子は何だ? 」
「ん~、食後のデザート。すすむが買ってきてくれたの。私を待たずに、先に食べてて~」
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