三年で人ができること

桃青

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18.抑圧された悲しみ

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 そう言うと、玄関の側にある階段を上っていった。二階に着くと、確かに俺の勉強机は昔のままだったが、中身の分からない段ボールの箱が、あちこちに積み上げられている。
「俺が抹消されている」
 そう呟かずにいられなかった。何となく机の方へ足を向けると、並べられた教科書も、本も漫画も、高校生の時から時を止めたままだ。しばらく窓の外で輝く月を眺めていたけれど、ふと思う。
(俺が死んだら、俺の荷物は両親が整理しなければならないし、それは大変だと思うから、今の内に少し自分でやっておこうか。古い物に触れれば、何か発見や分かることがあるかもしれないし)
 机の背後に置かれた本棚を改めて眺めてみると、子供の頃に読んだ絵本や、マニアックな雑誌、好きなDVD、写真集などが置いてあり、それらが俺の歴史を物語っていた。
(……何で俺が、後三年で死ななきゃならんかな)
(俺なりにさ、一生懸命やってきたつもりだよ? )
(色々なものを感じつつ、多分成長し続けてきたのに)
(唐突に前進を止められる、運命の名の下に)
「何でだよう……」
 小さな声でそう呟くと、俺はめそめそ泣きだした。人は皆いつか死ぬけれど、納得して死んでいくものだろうか? 三年と事前に宣告されることも、一億円の軍資金をもらえたことも、親切すぎて逆に腹立たしくなる。晴彦を恨みたくもなったが、あの冷静さに触れると、全てのものが沈静化してしまうのだ。もちろん、この気持ちが八つ当たりだということは分かってはいる。でも。
「どうしてだよう……」
 俺は駄々をこねる子供みたいに、涙を拭いつつ、しつこく泣いた。多分実家に帰ったことで、今回の出来事に対する甘えの気持ちが、初めて溢れ出したのだろう。床に座り込み、苦しい気持ちと戦っていた時だ。
「どうした」
 頭上から声がして、慌てて顔を上げると、そこには父が立ち、俺を見下ろしていた。ぐるぐる頭を回転させて、どう弁明すべきか瞬時に考えてから、言った。
「仕事が……、大変、で、つい」
「そうか」
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