三年で人ができること

桃青

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1.え?

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 鉢に入れられた育ちに育った木々と植物。緑の造花で飾られた看板。『占いの店 アクア』。ここに来るといつも心で、ジャングルに来たみたいだと呟く。時刻を確認して、予約時間にぴったりだなと思いつつ、そっと入口のドアを開け、中へ入っていった。部屋の中にもあちこちに観葉植物や多肉植物が置かれており、その先に落ち着いた風情でテーブルにつく、晴彦の姿がある。彼は言った。
「やあ」
 相変わらず静かな男だと思いつつ、俺も頭を下げて挨拶をした。
「やあ。元気? 」
「うん。僕、嫁、子供も含めて、元気にしている」
「そりゃよかったね。毎年恒例の、来年の占いを聞きに来ました」
「そうだね。とりあえず座って」
「はい」
 晴彦の正面に置かれた木製の椅子に座ると、彼は手にした何枚もの資料にしばらく目を落としていた。俺は様子を窺いながら言った。
「もう、下調べはしてくれたんだよね? 」
「うん、いつも通りに。お前の生年月日や名前、近況や家族構成まで、何でも知っているから。考えられることは先に考えていた。最近どう? 何か目新しいことでもある? 」
「特に変わったこともないよ。まあ……、恋人のみのりとのことは少し、気になっているかも。何というのか、停滞期のままずっと、関係が続いている感じで」
「そうか。なら本題に入るが、来年は多分、いい年になる」
「そっか。……。多分、って何」
「うん。その前にすすむに言わなくてはならないことがある」
「何なの、改まって」
「色々な角度、様々な占いの手段、バイオリズムまで、思いつく全ての方法を使って何度も確かめたんだが、お前の寿命はあと三年だ」
「……。マジ? 」
 呆然としてそう言い返すと、晴彦は真っ直ぐに俺を見据えて、ゆっくりと言う。
「本・当・に」
「言わせてもらうけれど、お前の占いって、当たったことはそう多くないぞ。凄くショックだし、信じられない」
「嘘のない意見をありがとう。占いは大体が当たらないけれど、それは人生の大半が不確定要素でできている証だ。確かに未来は誰にも分からない、僕にもね。ただ一つだけ、誰の人生でも必ず定まっていることがあって、それがその人の死だ」
「いつ死ぬのか……、決まっているってこと? 」
「死ぬ理由も不確定要素だし、例えば病死だったとしても、その人の頑張りによって死ぬ日はコロコロと変わる。三日後であったり、時には一年後になることもあるはずだ。だから普通の場合、日時は特定できない。だがすすむ、おまえは―。三年から先のデータが存在しないんだ、どの方法を使って調べても。データがない、ということは……」
「俺は消える。つまり、……俺の、死」
「そういうことになる。神がかったことは言わないようにしているが、多分今日そのことを知ること、その上で三年後に死ぬことは、すすむ、もしくはその上の存在が決めたカルマなのだと思う」
「晴彦の考える、この神託の的中率は? 」
「データを見る限り、百パーセントだ」
「でも来年はいい年になるって言ったよね? 多分、だけれど。三年後に死ぬっていうのに、ハッピーになるってか? 」
「少なくとも来年は死なない。それに今日己の死に方について知ったことで、何かが吹っ切れるんじゃないか? 」
「死が不確定ではなく、確定している。死に方は病死? それとも他の何か? 」
「すすむの死は、プチッと切れるような死に方だと思うから、おそらく誰かに殺される、脳卒中など、いきなり来るやつだな」
「的中率はどれくらい? 」
「このことに関しては、八十パーセント。どう、感想は? 」
「感想もなんも、明るい気分になれるわけないだろ。あと三年? 三年なの? 」
「少し時間を上げるから、考えてみてほしい。何か質問が浮かんだら、何でも聞いてくれ」
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