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〇前置き
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〇〇××年 十二月十七日
セーターに薄手の灰色のコートを羽織って、道を歩く。人通りはあまりなく、頬に感じる冷たさが心地いい。草は枯れ、木々は冬ごもり、そんな景色を見ながらふと、今までの自分の人生を思った。
華々しいことは何もなかったが、酷い不幸もなかった。多幸感に溺れることもなく、鬱になることもなく。まあ、凡々とした人生だ。特に後悔もないが、これから先にどうしてもやっておきたいことがあるわけでもない。夢も希望もないけれど、普通だったらそれでいい。そう思いながら生きてきた。
やりたいことがない、と言ったが、本当のことを言うと、もちろんやりたいことはある。世界旅行、想像を超えた美女とのセックス、会社を辞める、上司に全ての愚痴をぶつける。まぁ、本気でしたいことのリストを作ったら、かなりの長さになるし、『自分のやりたいこと』と題して、一冊の本が書けるかもしれない。でも、俺にとってやりたいことは、できないことだ。できないからこそ、やりたいことなのであって、このいたちごっこは永遠に終わらない。ならば、最初から『やりたいことはありません』と言うのが、大人の対応というものだ。俺はそう思って生きてきた。
(今年もあと半月か……)
この季節と時期になると、毎年思うことを今年も思う。一年が終わってゆく安堵感と、来年がやってくる微かな期待で、少しほわほわしてしまう己の心。クリスマスなど、縁なんてないが、どんな形であれ何かを祝すのは、神聖でいい。それで俺は今、十二月になると必ずやることをするために、ある場所へ向かっているのだ。
セーターに薄手の灰色のコートを羽織って、道を歩く。人通りはあまりなく、頬に感じる冷たさが心地いい。草は枯れ、木々は冬ごもり、そんな景色を見ながらふと、今までの自分の人生を思った。
華々しいことは何もなかったが、酷い不幸もなかった。多幸感に溺れることもなく、鬱になることもなく。まあ、凡々とした人生だ。特に後悔もないが、これから先にどうしてもやっておきたいことがあるわけでもない。夢も希望もないけれど、普通だったらそれでいい。そう思いながら生きてきた。
やりたいことがない、と言ったが、本当のことを言うと、もちろんやりたいことはある。世界旅行、想像を超えた美女とのセックス、会社を辞める、上司に全ての愚痴をぶつける。まぁ、本気でしたいことのリストを作ったら、かなりの長さになるし、『自分のやりたいこと』と題して、一冊の本が書けるかもしれない。でも、俺にとってやりたいことは、できないことだ。できないからこそ、やりたいことなのであって、このいたちごっこは永遠に終わらない。ならば、最初から『やりたいことはありません』と言うのが、大人の対応というものだ。俺はそう思って生きてきた。
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