三年で人ができること

桃青

文字の大きさ
上 下
1 / 85

〇前置き

しおりを挟む
 〇〇××年 十二月十七日

 セーターに薄手の灰色のコートを羽織って、道を歩く。人通りはあまりなく、頬に感じる冷たさが心地いい。草は枯れ、木々は冬ごもり、そんな景色を見ながらふと、今までの自分の人生を思った。
 華々しいことは何もなかったが、酷い不幸もなかった。多幸感に溺れることもなく、鬱になることもなく。まあ、凡々とした人生だ。特に後悔もないが、これから先にどうしてもやっておきたいことがあるわけでもない。夢も希望もないけれど、普通だったらそれでいい。そう思いながら生きてきた。
 やりたいことがない、と言ったが、本当のことを言うと、もちろんやりたいことはある。世界旅行、想像を超えた美女とのセックス、会社を辞める、上司に全ての愚痴をぶつける。まぁ、本気でしたいことのリストを作ったら、かなりの長さになるし、『自分のやりたいこと』と題して、一冊の本が書けるかもしれない。でも、俺にとってやりたいことは、できないことだ。できないからこそ、やりたいことなのであって、このいたちごっこは永遠に終わらない。ならば、最初から『やりたいことはありません』と言うのが、大人の対応というものだ。俺はそう思って生きてきた。
(今年もあと半月か……)
 この季節と時期になると、毎年思うことを今年も思う。一年が終わってゆく安堵感と、来年がやってくる微かな期待で、少しほわほわしてしまう己の心。クリスマスなど、縁なんてないが、どんな形であれ何かを祝すのは、神聖でいい。それで俺は今、十二月になると必ずやることをするために、ある場所へ向かっているのだ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

マイナーVtuberミーコの弱くてニューゲーム

下城米雪
ライト文芸
 彼女は高校時代の失敗を機に十年も引きこもり続けた。  親にも見捨てられ、唯一の味方は、実の兄だけだった。  ある日、彼女は決意する。  兄を安心させるため、自分はもう大丈夫だよと伝えるため、Vtuberとして百万人のファンを集める。  強くなった後で新しい挑戦をすることが「強くてニューゲーム」なら、これは真逆の物語。これから始まるのは、逃げて逃げて逃げ続けた彼女の全く新しい挑戦──  マイナーVtuberミーコの弱くてニューゲーム。

僕の『甘い魔女の報告書』 worth a thousand words.

美黎
ライト文芸
君に 帰りたい場所は あるか。 本音を 曝け出せる場所は あるか? 唯一の場所、もの、ひと、は在るか? これは簡単に言えば、僕が魔女の森で 甘い   に会い、馬鹿になる話だ。 そんな僕が「俺」に宛てて書いた 秘密の報告書。 こっそり読むなら途中で僕が馬鹿になっても 文句は言わないでくれ。 だって人は皆 他人には見られたくない一面を持っているものだろう?なぁ? そうして回る 巡る 否が応でも        それは  まさに  運命の輪 *作品はR18「風の時代/月の神話」とリンクしています。途中、そちらを読むとよく分かる表現が出てきますが、読まなくても分かります。 (↑こちらは歴史を絡めた男女のお話でエログロとかではないので、苦手でなければどうぞ。窓目線からのストーリーです。)

桜の華 ― *艶やかに舞う* ―

設樂理沙
ライト文芸
水野俊と滝谷桃は社内恋愛で結婚。順風満帆なふたりの結婚生活が 桃の学生時代の友人、淡井恵子の出現で脅かされることになる。 学生時代に恋人に手酷く振られるという経験をした恵子は、友だちの 幸せが妬ましく許せないのだった。恵子は分かっていなかった。 お天道様はちゃんと見てらっしゃる、ということを。人を不幸にして 自分だけが幸せになれるとでも? そう、そのような痛いことを 仕出かしていても、恵子は幸せになれると思っていたのだった。 異動でやってきた新井賢一に好意を持つ恵子……の気持ちは はたして―――彼に届くのだろうか? そしてそんな恵子の様子を密かに、見ている2つの目があった。 夫の俊の裏切りで激しく心を傷付けられた妻の桃が、 夫を許せる日は来るのだろうか? ――――――――――――――――――――――― 2024.6.1~2024.6.5 ぽわんとどんなstoryにしようか、イメージ(30000字くらい)。 執筆開始 2024.6.7~2024.10.5 78400字 番外編2つ ❦イラストは、AI生成画像自作

同棲ブギウギ

ももちよろづ
ライト文芸
同棲に纏わるエトセトラ。 ギャグ。

“Boo”t!full Nightmare

片喰 一歌
ライト文芸
ハロウィン嫌いの主人公・カリンは、数日にわたって開催される大規模なハロウィンイベント後のゴミ拾いに毎年参加していた。 今年も例年通り一人でてきぱきと作業を進めていた彼女は、見知らぬイケメン四人衆に囲まれる。 一見するとただのコスプレ集団である彼らの会話には、たまに『化けて出る』や『人間じゃない』といった不穏なワードが混じっているようで……。 彼らの正体と目的はいかに。 これは日常と非日常が混ざり合い、人間と人ならざるものの道が交わる特別な日の出来事。 ついでに言うと、コメディなんだか社会風刺なんだかホラーなんだか作者にもよくわからないカオスな作品。 (毎回、作者目線でキリのいい文字数に揃えて投稿しています。間違ってもこういう数字をパスワードに設定しちゃダメですよ!) お楽しみいただけておりましたら、 お気に入り登録・しおり等で応援よろしくお願いします! みなさま、準備はよろしいでしょうか? ……それでは、一夜限りの美しい悪夢をお楽しみください。 <登場人物紹介> ・カリン…本作の主人公。内面がやかましいオタク。ノリが古めのネット民。      物語は彼女の一人称視点で進行します。油断した頃に襲い来るミーム!ミーム!ミームの嵐! ・チル&スー…悪魔の恰好をした双子? ・パック…神父の恰好をした優男? ・ヴィニー…ポリスの恰好をしたチャラ男? 「あ、やっぱさっきのナシで。チャラ男は元カレで懲りてます」 「急に辛辣モードじゃん」 「ヴィニーは言動ほど不真面目な人間ではないですよ。……念のため」 「フォローさんきゅね。でも、パック。俺たち人間じゃないってば」 (※本編より一部抜粋) ※ゴミは所定の日時・場所に所定の方法で捨てましょう。 【2023/12/9追記】 タイトルを変更しました。 (サブタイトルを削除しただけです。)

おじいちゃんの遺影

チゲン
ライト文芸
 死んだ祖父が夢枕に立って、交際間近の男性にあれこれケチをつけてくる。だったらご要望通り、吟味してもらおうじゃないの。と、彼を家に招待するのだが、そこに予期せぬ来客が現れて……。  2018年執筆(書き下ろし)。  小説投稿サイト『小説家になろう』にて同時掲載中。

シークレット・ミッション

メール・シュリーム
ファンタジー
ある都市の殺人現場にたたずむ一人の少年。そこで出会った少女を助け事件の手がかりを解いていく。少女の名はあやめ、彼女に何があったのか?

こっちは遊びでやってんだ

アジサウルス
ライト文芸
イケメン俳優 士郎はとあることをきっかけに裏方に回されてしまう。

処理中です...