トキノハナと宝石の君〜玻璃の花は翠玉の夢を見る。しくじった私を軟禁して溺愛する理由を知りたいのですが〜

まつのことり

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翠玉の章if・執着√(共通の後にこちらの章に続く)

馬車の中で。カプリスとの邂逅(※溺愛√42話と一部共通)

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王都へ向かう日がやってきました。

「こんなに乗り心地のいい馬車、初めて…」

 こんな贅沢をしていいのでしょうか。
 スプリングとクッションの効いた高級な座席に私は浮かれてしまう。

「このランクでないとすぐお尻が痛くなり、座っていられなくなりますからね」

「王都まで馬車を飛ばしても5日はかかります。
 それまでゆっくり旅気分で帰りましょうか」

 リュートが既に単独で戻ったので、
 護衛の方は私達を警護しながら共に帰国するそうだ。

 今この馬車の中には私とカナタだけだが、御者席と、並走するように馬に乗った護衛の方達が陣形を組んで進んでいた。

 元けちなスリ師としては真逆なロイヤルな扱いをされ、恐縮してしまう。

 もちろん、今回の旅支度もカナタ監修で。
 言うまでもない感じにはなっている。

(ほんと、好きだよね。ペアルック)

 頰杖をつきながら、目の前に座るカナタを見やる。

(綺麗な顔だね。安定の)

 カフスボタンは青黄玉ブルートパーズが固定になってるのが、
 嬉し気恥ずかしい心地だ。

 目が合うと、柔らかく笑ってくれるが

(何となく、疲れてそう? )
 顔色がすぐれないような。

「カナタ、疲れてる? 顔色が優れないようだけど……」

「そんなことありませんよ、あなたのほうこそ、無理はしないでくださいね。寝てもいいんですよ」

「最近は金鷲の夢も見ないでよく眠れるから、元気だよ」

「その守りが、鉄壁であって欲しいのですがね.切に」

 すとん、と向かいに座っていたカナタは私の隣に移動してくる。

 やっぱり隣がいいですね、と私のネックレスにふれてカナタは微笑む。

 ぽわっと暖かい。
 この感覚はいつもので。
 決まって私は眠たくなってしまう。

 うとうと、瞼が重くなり、意識が微睡まどろみに沈んでいく。

「おや。やっぱり眠り姫ですね。
 私の魔力を送るとシャットダウンする……? ただ安心してくれているなら、いいのですが」

 疑心暗鬼が強くなる。
 眠るハナキに肩を貸しながら、カナタも目をつむる。
 いかなる時も離れないように手を握りしめながら。
 束の間の休息が訪れる。


・・・・・・

見慣れた宵闇。
ここは夢の中なのだろう。
 
最近定番になってきている気がする。

「姫君、翠玉の姫。 聞こえるかい?」

(また出た……聞こえないふりしておこ)

「やっと繋がったね、翠玉の姫」

カプリス。声の主はわかってるけれど……
こちらの都合も考えない接触にはうんざりする。

(聞こえない聞こえない)

「だから、心の声は駄々漏れてるって。ごきげんよう? 姫」

「何度も接続コネクトできてるからねぇ。 君との糸も強く太くなってるね。 俺の力も馴染んできている様だし? なかなか断ち切れないよ」

顔は見えないけれど、どんな表情をしてるのは容易に想像がつきそうだ。

大層愉快ゆかいそうにまくし立てるカプリスに私の嫌悪感は強くなる。

「迷惑極まりないんですけど」

「なあに、ご機嫌ななめ? こないだはすごくよ~く眠れたでしょ? 姫も嫌も嫌もなんとやらで俺のこと、気になってきたんじゃない?」

何を言っているんだ、こいつは。
ただの付き纏いストーカーではないか。

姿も見せないでいつも身勝手に私の夢に侵略して
訳もわからず執着されているのにどこに好きになる要素があると思うんだろうか。

理解に苦しむ……

「馬鹿なこと言わないで。
あなたのせいだったの? 3日も寝てたんだよ! 約束も守れなかったし、迷惑かけるし最悪だよ」

言葉に出したらどんどん怒りが込み上げてくる。
感情のままにカプリスを罵倒ばとうする私だったが

「それは悪いことしたねぇ。 ごめんね、姫」

悪いと微塵みじんも思ってはいないおざなりな言い回しに余計にイラッとしてしまう。

「ま、翠玉の王子が油断してくれたので今、君に接続できただけだけど。
それ以上は何も出来ないから安心していいよ、まだね?」


「何故あなたは私に構うの?
もう放っておいてはくれない?
それに私は姫じゃないし」

ずっと気になっていた姫呼ばわりを否定する。

「それは出来ない相談だな。
きみは姫だし、いるべき場所もそこじゃない。
会いにいくよ、いまは翠玉の姫」

「意味わからないよ! こなくていいし」

意思の疎通ができるている状態なのだろうが、まるで話が通じてないようだ。

「リミットだな。 忌々しいね」

「……君に似合うのは、翠玉エメラルドだけじゃない。
それをわからせてあげよう。
今は翠玉の姫。 いずれは……」

金色の混じる宵闇がゆっくりと晴れていく。

「またね、姫君」


「何だったのよ……アレは」

目を覚ました私は、不可思議な夢に不快に思うも、怖さは感じなくなっていた。

(慣れって怖い)

隣で眠るカナタの端正な顔を眺める。
疲労の色が濃いので、少しでも休んでほしい。

カナタの守りは確かに私の中に満ちている。
ほわっと暖かい魔力に守られているので、怖くない。

「いつも、ありがと」

手を繋いでくれていたカナタの手をキュ、と握りしめ、私は窓の外に目をやった。

カナタに守られている温かさと同時に、
カプリスの薄寒い気配も夢から覚めても消えてはくれない。

緑が黒と混じり合う奇妙な感覚。

(気持ち悪い)

濁っていく魔力が私の胸中のようで。
不安な気持ちが消えないままで、刻はすすんでいく。

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