トキノハナと宝石の君〜玻璃の花は翠玉の夢を見る。しくじった私を軟禁して溺愛する理由を知りたいのですが〜

まつのことり

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翠玉の章・溺愛√(ハッピーエンド)

金鷲との邂逅(かいこう)

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 ドオオン!
 少し離れた所で響く轟音ごうおん
 わあああ!と辺りは騒がしくなる。

 キン、ガキン!!

 金属のはじく音に、何かがぜる音
 護衛隊が交戦しているのだろうか。

 魔法陣が空に浮かび
 閃光せんこうほとばしる。

「魔弾戦…」
 音や光のする方角を見やり、カナタは私を隠すように構え、警戒けいかいを強める。

「敵襲?」
「まだわかりません。あなたは私から離れないで」

 カナタは懐に手を入れ、リボルバー式の銀製の銃を取り出す。
 弾倉に弾を込めるが、その弾も淡い緑に光っている。

 私の視線に気づいたカナタは軽く説明をする。

「これは私の魔力で威力を上げている魔弾です。
 多少打ち手が下手でも相手を貫きますよ。」

(弾道のコントロールが自在にできるのか。魔力って便利…)
 追跡弾みたいなものか。

「魔力って色々便利だね。私にもあればいいのに」
 攻守通信こうしゅつうしんなんでもござれで。自前で持っていたら一個小隊くらいの武力になるだろう。

 個体差はあるのだろうが。
 使い勝手が良すぎて職にも困らないのはうらやましいと思う。

「ハナキにそれ以上の力があったら、私の立つ瀬がありませんよ、少しくらい、かっこつけさせてください」

 私が使えるのは自衛の為おじさんから貰った小さな小刀くらいだ。

 ミズキの碧石と同じく、こちらも肌身離さず持っている。

(何かあったら、少しくらいは反撃できないと)
 服の上から太もものベルトにひそませた小刀に触れる。

「イグニード卿、お逃げください……早く!」
 護衛の1人が満身創痍まんしんそういで姿を現す。

 前方からやってくる嫌な圧力を食い止めている。
 が、じりじりと圧されていた。
 他の護衛も交戦中のようで、こちらの守りは1人でになわざるを得なかった。

 敵方の姿はまだ見えない。
 毛穴から全身に感じる金色の闇。

 もう既に、猛禽もうきんの瞳に掌握しょうあくされているように感じ、肌があわ立つ。

 私はカナタのジャケットをギュッと掴む。

「あれ、金の鷲かも」
「…ええ。大変忌々しい魔力を感じます」
「夢じゃないのに干渉してくるの…? 」

 ーーーー「きみは姫だし、いるべき場所もそこじゃない。
 会いにいくよ、いまは翠玉の姫」ーーーー

「随分あなたにご執心ですね。野暮天やぼてん野郎の顔が拝めるなら願ったりですよ」

 迫ってくる魔力の圧が、暴力的までに膨大なのは私にでもわかる。カナタはジリジリと後退しながら、応戦のベストポジションを探す。

「もしも……私に何かあったら、あなたは迷わず逃げてください。
 ミズキ様に力を求めてもいい。何がなんでも逃げて」

「一緒じゃないと嫌だよ! 」
「大丈夫ですよ、その時は離れても、すぐに迎えに行きますから。
 これがあなたと繋いでくれる」

 カナタはネックレスの翠玉エメラルドに触れ、淡く光らせる。

「私は約束は守る男です。必ずね」

 銃口を前方に向け構える。
 どんどん圧を強める金鷲きんわしの魔力を一閃いっせんする

 宵闇よいやみを割いて翠玉翠玉エメラルドの弾丸が空を走る。

 光を帯びて切り裂く弾道は、
 翠玉の龍のよう。

「喰らいつけ」

 カナタの初手は
 奥から迫る宵闇の中に消える。

 飲み込まれるように消えたその先から、どんどん大きくなる、黒い圧力。

 ひりつく気配に、私は嫌な汗をかく。

「ご機嫌よう、翠玉の姫。そして、王子」

 圧を放つように、姿を現す。
 金色のオーラを纏った、明らかに異質な人物。

「熱烈な歓迎、ありがとうございます、翠玉の王子? 」

 ピン、と指で放たれたはずの弾(たま)を弄び、皮肉っぽく笑う。

「好意は受け取っていただけなかったようですけどね」
 カナタは憎々しげに舌打ちする。

 金をまとって姿を現したのは、真っ黒いローブマントの長身の男で。
 フードには玉で貫いた跡がある。
 カナタの弾丸が貫通したのだろうか。

「このローブ気に入ってたのに。台無しだね。
 悪の大魔王ラスボスぽくていいでしょう? 」

 フードを下ろした素顔がさらされる。

「その頭も貫ければ、素敵なローブに鮮やかな華模様はなもようが映えただろうに」

 直接会ったことはもちろんない。
 でも、確実に金鷲だ。

 長い黒髪を一つにまとめ、東方か、異国の装飾を施している髪紐の。
 金色の、猛禽のが私を真っ直ぐ射抜いてくる。

 強い眼差しを持った、精悍せいかんな青年。
 褐色かっしょくの肌に金の瞳は異国情緒エキゾチックな魅力に溢れている。
 金の鷲は自信家だと思っていたが、それを裏付けるのに十分な美男子イケメンだった。
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