トキノハナと宝石の君〜玻璃の花は翠玉の夢を見る。しくじった私を軟禁して溺愛する理由を知りたいのですが〜

まつのことり

文字の大きさ
上 下
43 / 71
翠玉の章・溺愛√(ハッピーエンド)

馬車の中で。

しおりを挟む
 王都へ向かう日がやってきました。

「こんなに乗り心地のいい馬車、初めて…」

 こんな贅沢をしていいのでしょうか。
 スプリングとクッションの効いた高級な座席に私は浮かれてしまう。

「このランクでないとすぐお尻が痛くなり、座っていられなくなりますからね」

「王都まで馬車を飛ばしても5日はかかります。
 それまでゆっくり旅気分で帰りましょうか」

 リュートが既に単独で戻ったので、
 護衛の方は私達を警護しながら共に帰国するそうだ。

 今この馬車の中には私とカナタだけだが、御者席と、並走するように馬に乗った護衛の方達が陣形を組んで進んでいた。

 元けちなスリ師としては真逆なロイヤルな扱いをされ、恐縮してしまう。

 もちろん、今回の旅支度もカナタ監修で。
 言うまでもない感じにはなっている。

(ほんと、好きだよね。ペアルック)

 頰杖をつきながら、目の前に座るカナタを見やる。

(綺麗な顔だね。安定の)

 カフスボタンは青黄玉ブルートパーズが固定になってるのが、
 嬉し気恥ずかしい心地だ。

 目が合うと、柔らかく笑ってくれるが

(何となく、疲れてそう? )
 顔色がすぐれないような。

「カナタ、疲れてる? 顔色が優れないようだけど……」

「そんなことありませんよ、あなたのほうこそ、無理はしないでくださいね。寝てもいいんですよ」

「最近は金鷲の夢も見ないでよく眠れるから、元気だよ。」

「ええ、よく眠れてますよね、あなたは。
 私の気も知らないで……まぁ、いいんですけど」

 少し拗ねたような言い方に、流石に意図に気がつき頬を染める

「ごめんね?つい気持ちよくて…」

 ……って、言葉選び間違った気がする。

「いやいやすごく安心するっていうのか、守られてる感じがして、暖かくてつい…」

「気持ちよくてあったかいんですね? それは良かった。
 でも、もっと先の境地にお連れしたいんだけどね。
 …私の色に染まるのはいつになることやら」
 言葉尻に艶を増すカナタに私は居心地が悪くなる。

「この話はやめよう!うん」
「私の姫様は照れ屋ですねぇ」
(いたたまれない…)

 慌てて取り繕うとする恋愛初心者の様を満足そうに見やるカナタは少し意地悪だ。

「その守りが、鉄壁であって欲しいのですがね.切に。」

 すとん、と向かいに座っていたカナタは私の隣に移動してくる。

 やっぱり隣がいいですね、と私のネックレスにふれてカナタは微笑む。

 ぽわっと暖かい。
 この感覚はいつもので。
 決まって私は眠たくなってしまう。

 うとうと、瞼が重くなり、意識が微睡まどろみに沈んでいく。

「おや。やっぱり眠り姫ですね。
 私の魔力を送るとシャットダウンする…?ただ安心してくれているなら、いいのですが」

 疑心暗鬼が強くなる。
 眠るハナキに肩を貸しながら、カナタも目をつむる。
 いかなる時も離れないように手を握りしめながら。
 束の間の休息が訪れる。


 ・・・・・・

 あったかくて幸せな夢にいったはずなのに。
 場面は暗転する。こうなるとどうなるかはもういうまでもない。

「姫君、翠玉すいぎょくの姫。聞こえるかい? 」

「……誰? 」

「やっと繋がったね、翠玉すいぎょくの姫。」

「…金の鷲?」

「何それ、俺のこと?それは勇ましいね。
 君を攫う金の鷲、いいねぇ」

「意思の疎通ができる…?」

「糸は切れていないと言っただろう?
 ま、翠玉の王子が油断してくれたので今、君に接続できただけだけど。
 それ以上は何も出来ないから安心していいよ、まだね?」

 ここは夢の中なのだろう。久々に見た金鷲の夢。
 いつも一方的に
 話しかけられていたのに会話が成立している…
 姿形がわかるわけではないので、金の鷲がどのような人物かまではわからない。

「何故あなたは私に構うの?
 もう放っておいてはくれない?
 それに私は姫じゃないし。」

 ずっと気になっていた姫呼ばわりを否定する。

「それは出来ない相談だな」

 きみは姫だし、いるべき場所もそこじゃない。
 会いにいくよ、いまは翠玉の姫。」

「意味わからないよ!こなくていいし」

 意思の疎通ができているが、まるで話が通じないように感じる。


「リミットだな。忌々しいね。」


「……君に似合うのは、翠玉すいぎょくだけじゃない。
 それをわからせてあげよう。
 今は翠玉すいぎょくの姫。いずれは…」

 金色の混じる宵闇がゆっくりと晴れていく。

「またね、姫君」

「何だったのよ…アレは」

 目を覚ました私は、不可思議な夢に不快に思うも、前ほどの恐ろしさは感じないで済んだ。

 隣で眠るカナタの端正な顔を眺める。
 疲労の色が濃いので、少しでも休んでほしい。

 カナタの守りは確かに私の中に満ちている。
 ほわっと暖かい魔力に守られているので、怖くない。

「いつも、ありがと」

 手を繋いでくれていたカナタの手をキュ、と握りしめ、私は窓の外に目をやった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】親の理想は都合の良い令嬢~愛されることを諦めて毒親から逃げたら幸せになれました。後悔はしません。

涼石
恋愛
毒親の自覚がないオリスナ=クルード子爵とその妻マリア。 その長女アリシアは両親からの愛情に飢えていた。 親の都合に振り回され、親の決めた相手と結婚するが、これがクズな男で大失敗。 家族と離れて暮らすようになったアリシアの元に、死の間際だという父オリスナが書いた手紙が届く。 その手紙はアリシアを激怒させる。 書きたいものを心のままに書いた話です。 毒親に悩まされている人たちが、一日でも早く毒親と絶縁できますように。 本編終了しました。 本編に登場したエミリア視点で追加の話を書き終えました。 本編を補足した感じになってます。@全4話

【完結】勤労令嬢、街へ行く〜令嬢なのに下働きさせられていた私を養女にしてくれた侯爵様が溺愛してくれるので、国いちばんのレディを目指します〜

鈴木 桜
恋愛
貧乏男爵の妾の子である8歳のジリアンは、使用人ゼロの家で勤労の日々を送っていた。 誰よりも早く起きて畑を耕し、家族の食事を準備し、屋敷を隅々まで掃除し……。 幸いジリアンは【魔法】が使えたので、一人でも仕事をこなすことができていた。 ある夏の日、彼女の運命を大きく変える出来事が起こる。 一人の客人をもてなしたのだ。 その客人は戦争の英雄クリフォード・マクリーン侯爵の使いであり、ジリアンが【魔法の天才】であることに気づくのだった。 【魔法】が『武器』ではなく『生活』のために使われるようになる時代の転換期に、ジリアンは戦争の英雄の養女として迎えられることになる。 彼女は「働かせてください」と訴え続けた。そうしなければ、追い出されると思ったから。 そんな彼女に、周囲の大人たちは目一杯の愛情を注ぎ続けた。 そして、ジリアンは少しずつ子供らしさを取り戻していく。 やがてジリアンは17歳に成長し、新しく設立された王立魔法学院に入学することに。 ところが、マクリーン侯爵は渋い顔で、 「男子生徒と目を合わせるな。微笑みかけるな」と言うのだった。 学院には幼馴染の謎の少年アレンや、かつてジリアンをこき使っていた腹違いの姉もいて──。 ☆第2部完結しました☆

踏み台令嬢はへこたれない

IchikoMiyagi
恋愛
「婚約破棄してくれ!」  公爵令嬢のメルティアーラは婚約者からの何度目かの申し出を受けていたーー。  春、学院に入学しいつしかついたあだ名は踏み台令嬢。……幸せを運んでいますのに、その名付けはあんまりでは……。  そう思いつつも学院生活を満喫していたら、噂を聞きつけた第三王子がチラチラこっちを見ている。しかもうっかり婚約者になってしまったわ……?!?  これは無自覚に他人の踏み台になって引っ張り上げる主人公が、たまにしょげては踏ん張りながらやっぱり周りを幸せにしたりやっと自分も幸せになったりするかもしれない物語。 「わたくし、甘い砂を吐くのには慣れておりますの」  ーー踏み台令嬢は今日も誰かを幸せにする。  なろうでも投稿しています。

【完結】元お飾り聖女はなぜか腹黒宰相様に溺愛されています!?

雨宮羽那
恋愛
 元社畜聖女×笑顔の腹黒宰相のラブストーリー。 ◇◇◇◇  名も無きお飾り聖女だった私は、過労で倒れたその日、思い出した。  自分が前世、疲れきった新卒社会人・花菱桔梗(はなびし ききょう)という日本人女性だったことに。    運良く婚約者の王子から婚約破棄を告げられたので、前世の教訓を活かし私は逃げることに決めました!  なのに、宰相閣下から求婚されて!? 何故か甘やかされているんですけど、何か裏があったりしますか!? ◇◇◇◇ お気に入り登録、エールありがとうございます♡ ※ざまぁはゆっくりじわじわと進行します。 ※「小説家になろう」「エブリスタ」様にも掲載しております(アルファポリス先行)。 ※この作品はフィクションです。特定の政治思想を肯定または否定するものではありません(_ _*))

とまどいの花嫁は、夫から逃げられない

椎名さえら
恋愛
エラは、親が決めた婚約者からずっと冷淡に扱われ 初夜、夫は愛人の家へと行った。 戦争が起こり、夫は戦地へと赴いた。 「無事に戻ってきたら、お前とは離婚する」 と言い置いて。 やっと戦争が終わった後、エラのもとへ戻ってきた夫に 彼女は強い違和感を感じる。 夫はすっかり改心し、エラとは離婚しないと言い張り 突然彼女を溺愛し始めたからだ ______________________ ✴︎舞台のイメージはイギリス近代(ゆるゆる設定) ✴︎誤字脱字は優しくスルーしていただけると幸いです ✴︎なろうさんにも投稿しています 私の勝手なBGMは、懐かしすぎるけど鬼束ちひろ『月光』←名曲すぎ

【完】瓶底メガネの聖女様

らんか
恋愛
伯爵家の娘なのに、実母亡き後、後妻とその娘がやってきてから虐げられて育ったオリビア。 傷つけられ、生死の淵に立ったその時に、前世の記憶が蘇り、それと同時に魔力が発現した。 実家から事実上追い出された形で、家を出たオリビアは、偶然出会った人達の助けを借りて、今まで奪われ続けた、自分の大切なもの取り戻そうと奮闘する。 そんな自分にいつも寄り添ってくれるのは……。

とある令嬢が男装し第二王子がいる全寮制魔法学院へ転入する

春夏秋冬/光逆榮
恋愛
クリバンス王国内のフォークロス領主の娘アリス・フォークロスは、母親からとある理由で憧れである月の魔女が通っていた王都メルト魔法学院の転入を言い渡される。 しかし、その転入時には名前を偽り、さらには男装することが条件であった。 その理由は同じ学院に通う、第二王子ルーク・クリバンスの鼻を折り、将来王国を担う王としての自覚を持たせるためだった。 だがルーク王子の鼻を折る前に、無駄にイケメン揃いな個性的な寮生やクラスメイト達に囲まれた学院生活を送るはめになり、ハプニングの連続で正体がバレていないかドキドキの日々を過ごす。 そして目的であるルーク王子には、目向きもなれない最大のピンチが待っていた。 さて、アリスの運命はどうなるのか。

【完結】魔力がないと見下されていた私は仮面で素顔を隠した伯爵と結婚することになりました〜さらに魔力石まで作り出せなんて、冗談じゃない〜

光城 朱純
ファンタジー
魔力が強いはずの見た目に生まれた王女リーゼロッテ。 それにも拘わらず、魔力の片鱗すらみえないリーゼロッテは家族中から疎まれ、ある日辺境伯との結婚を決められる。 自分のあざを隠す為に仮面をつけて生活する辺境伯は、龍を操ることができると噂の伯爵。 隣に魔獣の出る森を持ち、雪深い辺境地での冷たい辺境伯との新婚生活は、身も心も凍えそう。 それでも国の端でひっそり生きていくから、もう放っておいて下さい。 私のことは私で何とかします。 ですから、国のことは国王が何とかすればいいのです。 魔力が使えない私に、魔力石を作り出せだなんて、そんなの無茶です。 もし作り出すことができたとしても、やすやすと渡したりしませんよ? これまで虐げられた分、ちゃんと返して下さいね。 表紙はPhoto AC様よりお借りしております。

処理中です...