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翠玉の章・共通√
ご令嬢扱いを受ける私と、青黄玉のカフスボタン
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噴水にひっくり返ったあのあと。カナタの行動は光の如く早かった。
私を引っ張りおこし、自分の上着で私を隠し濡れるのも構わず抱き上げてそのまま走り出す。
歩いて帰れる距離なのでそのままホテルに戻るのかと思いきや、
流しの馬車を呼び止め、濡れ鼠を抱えて迷惑をかけるからと相場の倍以上の金額を払い走らせた。
(そして.ここに連れてこられたと言うわけで。)
少し大きめのバスタブに、全裸の私がつけられて、お仕着せ姿の数人の女性の手で洗われてます。
全身くまなく。
(人にしてもらうのって、申し訳ないしものすごく恥ずかしいのですが…)
初めは警戒心や恥ずかしさから抵抗を試みたが、熟練の手練れには敵いません。
途中から、虚無の目で流れに任せることに。
磨かれてます。全身くまなく。
大理石の台みたいなところに寝かされ、まな板の上の鯉になる。
もうどうとでもしてくれ…
(私はパンにでもなるのだろうか…)
マッサージの手は痛気持ちよく、香油を塗られ揉みほぐされ、次第に意識も遠のき極楽にいる様な心地になる。
しばらくして気がつくと
熟練のメイドさん方の手で出来上がったのは、
全身がツルツルピカピカの、
むくみもムダ毛も取れたすべすべ卵肌。
(おお、壮観…)
髪の毛もしっかり手入れされ
頭の上から爪の先まで抜かりない別人がそこにいた。
「私じゃないみたい…」
肌触りの良いタオル地のバスローブを着せられる。
「終わりましたわ、カナタ様」
「飛び込みでやってもらってすまなかったね。エミリ。ご苦労様。助かりました」
「いいえ、滅相もない。磨きがいのあるお嬢様でしたよ」
別室で待っていたカナタを連れてきた少し年配のメイド…エミリさんは微笑ましそうに私に視線を向けた。
「噴水に落ちたお嬢様をお迎えするのは初めてで、とても楽しかったですよ」
「だろうなぁ…」
目尻の皺を深めて、微笑むエミリさんに、呆れたように同意するカナタ。
「…私だって予想外だよ。ちゃんと蹴っ飛ばされてくれないカナタが悪い」
「ひどいこと言うね、あなたも」
ムッとしつつ反抗する私に、眉間に皺を寄せながらため息をついた。
「風邪など召されませんように、暖かくしてくださいね。この外気で水浴びは少々無謀ですよ」
「少々がお転婆がすぎる猫ですが、そこも可愛いでしょう?」
主人とメイド、なのだろうが気やすさが見られる。付き合いの長さがわかる。
そもそもここはどこなのか。
私は全てに「?」なのだ。
とりあえず出されたお茶など飲みつつ、様子を窺う。
文字通りの借りてきた猫になる私なのだった。
・・・・・・
どうやらここはイグニード商会の支店らしい。
カナタの小さい頃からお世話してきたらしい、熟練メイドのエミリさん曰く、ここの支店もこの町では大店と呼ばれる規模で、店構えも大層立派だ。
一階は店舗。二階は事務所兼住居らしく。
3階~5階は従業員さんの寮になっているそうだ
問題なく滞在できるくらいの広さのお屋敷に私には見える。
こんな立派な住居があるのに、なんでホテルステイなのかが気になってきいてみたら
『今回はリュート君がいるからです』と。
一応高貴なお方のリュートをお迎えするには手狭らしいが、
カナタ単独ならいつもはここに滞在するらしい。
(なるほど)
そして、王都に構える本邸はもっと大きいらしい。
「店舗兼自宅だから庭園があるわけではなくこぢんまりとしていますがね」
とかいうけれど。
(そんなわけはない。)
ここ、富裕層の一等地でないか。
私が狩場にしていたいつもの通りと2本くらい離れただけで、ずいぶんラグジュアリーになるものだ。
人混みの方が仕事がしやすかったので、
優雅な人種が多く、人より馬車が多いこの通りは縄張りには選ばなかった。危ないしね。
カナタも私も、定期的にこの街には滞在していたのに、
バッタリでも今まで会わなかったのも不思議だね。
「…で、これはどういう…」
「いいですね。噴水で水浴びするお転婆には見えません」
「動きにくい…」
「また蹴飛ばされても敵いませんし。その位でちょうどいい」
あれよこれよとカナタに指示されたメイドさんたちが私の支度を手伝ってくれた。
自分で着れます、と進言したが皆にやわらかな態度できっぱり却下された。
今の私は、どこからどうみてもお嬢様だ。
貴族の令嬢の下町お忍び風ドレス。とでも言おうか。
露出は控えめ。
足首までの長さのロング丈。靴はヒールのある革ブーツで。
足捌きがしにくい。
ネックレスはそのままで、髪や耳にさりげなく飾られたアクセサリーは翠玉。
ドレスの色はカナタと揃いだ
カナタも私を抱えて濡れたのでお召替えをしていた。
「………」
パリッとしたスーツはビジネス用よりはカジュアルで軽装だ。
ベストの材質がドレスと同じものなのだろう。
カフスボタンとピンズはさりげなく青黄玉をあしらっている。
均整の取れた身体にスマートな装い。
目が吸いつけられる格好良さで。
「…その色の、初めてみた」
青黄玉。
思い過ごしじゃなければ、勘違いじゃなければ。
(…私の瞳の色だ。)
困惑しながらも頬に赤みがさしてくる。
その様子に、満足げにカナタは目を細める。
「ええ、いいでしょう?綺麗な薄青で。
私の世界で1番美しい…1番好きな宝石です」
そう言ってカナタは私の手を取り、並んで姿見の前に立たせた。
「並ぶととても絵になりますね」
対で調和の取れた服装は、婚約者とか夫婦のするそれだった。
カナタの翠玉をつけた私と
私の青黄玉をつけたカナタ。
「こういうのって、その……」
「何か問題でも?
…とても似合っていますよ、ハナ」
私の後に続く言葉を、カナタはハッキリ断ち切った。
「ずっと身につけたかったんです。この綺麗な青。
…今日なら許される様な気がして。
舞い上がった愚かな男に付き合わせてすみません」
困った様に微笑んで、私の肩を抱き寄せ、私の瞼に掠めるようなキスをする。
いつもの香りが私の鼻腔をくすぐる。
(困ったな、いつもよりドキドキする)
スキンシップが多いのは今更だが、今日は何かが違う。
グイグイきてる。逃げ場を塞いで追い詰められている様だ。
返答しなきゃと思考を巡らすが、言葉が詰まって出てこない。
「では改めて。
良ければ私とデートしませんか?お嬢さん」
「…間に合ってます」
「誰で?」
「緑の目の………変態紳士」
「ははっ、そうきましたか。手厳しいなぁ。
さ、お手をどうぞ」
カナタは私のささやかな抵抗も受け流し、私に手を差し出した。
私を引っ張りおこし、自分の上着で私を隠し濡れるのも構わず抱き上げてそのまま走り出す。
歩いて帰れる距離なのでそのままホテルに戻るのかと思いきや、
流しの馬車を呼び止め、濡れ鼠を抱えて迷惑をかけるからと相場の倍以上の金額を払い走らせた。
(そして.ここに連れてこられたと言うわけで。)
少し大きめのバスタブに、全裸の私がつけられて、お仕着せ姿の数人の女性の手で洗われてます。
全身くまなく。
(人にしてもらうのって、申し訳ないしものすごく恥ずかしいのですが…)
初めは警戒心や恥ずかしさから抵抗を試みたが、熟練の手練れには敵いません。
途中から、虚無の目で流れに任せることに。
磨かれてます。全身くまなく。
大理石の台みたいなところに寝かされ、まな板の上の鯉になる。
もうどうとでもしてくれ…
(私はパンにでもなるのだろうか…)
マッサージの手は痛気持ちよく、香油を塗られ揉みほぐされ、次第に意識も遠のき極楽にいる様な心地になる。
しばらくして気がつくと
熟練のメイドさん方の手で出来上がったのは、
全身がツルツルピカピカの、
むくみもムダ毛も取れたすべすべ卵肌。
(おお、壮観…)
髪の毛もしっかり手入れされ
頭の上から爪の先まで抜かりない別人がそこにいた。
「私じゃないみたい…」
肌触りの良いタオル地のバスローブを着せられる。
「終わりましたわ、カナタ様」
「飛び込みでやってもらってすまなかったね。エミリ。ご苦労様。助かりました」
「いいえ、滅相もない。磨きがいのあるお嬢様でしたよ」
別室で待っていたカナタを連れてきた少し年配のメイド…エミリさんは微笑ましそうに私に視線を向けた。
「噴水に落ちたお嬢様をお迎えするのは初めてで、とても楽しかったですよ」
「だろうなぁ…」
目尻の皺を深めて、微笑むエミリさんに、呆れたように同意するカナタ。
「…私だって予想外だよ。ちゃんと蹴っ飛ばされてくれないカナタが悪い」
「ひどいこと言うね、あなたも」
ムッとしつつ反抗する私に、眉間に皺を寄せながらため息をついた。
「風邪など召されませんように、暖かくしてくださいね。この外気で水浴びは少々無謀ですよ」
「少々がお転婆がすぎる猫ですが、そこも可愛いでしょう?」
主人とメイド、なのだろうが気やすさが見られる。付き合いの長さがわかる。
そもそもここはどこなのか。
私は全てに「?」なのだ。
とりあえず出されたお茶など飲みつつ、様子を窺う。
文字通りの借りてきた猫になる私なのだった。
・・・・・・
どうやらここはイグニード商会の支店らしい。
カナタの小さい頃からお世話してきたらしい、熟練メイドのエミリさん曰く、ここの支店もこの町では大店と呼ばれる規模で、店構えも大層立派だ。
一階は店舗。二階は事務所兼住居らしく。
3階~5階は従業員さんの寮になっているそうだ
問題なく滞在できるくらいの広さのお屋敷に私には見える。
こんな立派な住居があるのに、なんでホテルステイなのかが気になってきいてみたら
『今回はリュート君がいるからです』と。
一応高貴なお方のリュートをお迎えするには手狭らしいが、
カナタ単独ならいつもはここに滞在するらしい。
(なるほど)
そして、王都に構える本邸はもっと大きいらしい。
「店舗兼自宅だから庭園があるわけではなくこぢんまりとしていますがね」
とかいうけれど。
(そんなわけはない。)
ここ、富裕層の一等地でないか。
私が狩場にしていたいつもの通りと2本くらい離れただけで、ずいぶんラグジュアリーになるものだ。
人混みの方が仕事がしやすかったので、
優雅な人種が多く、人より馬車が多いこの通りは縄張りには選ばなかった。危ないしね。
カナタも私も、定期的にこの街には滞在していたのに、
バッタリでも今まで会わなかったのも不思議だね。
「…で、これはどういう…」
「いいですね。噴水で水浴びするお転婆には見えません」
「動きにくい…」
「また蹴飛ばされても敵いませんし。その位でちょうどいい」
あれよこれよとカナタに指示されたメイドさんたちが私の支度を手伝ってくれた。
自分で着れます、と進言したが皆にやわらかな態度できっぱり却下された。
今の私は、どこからどうみてもお嬢様だ。
貴族の令嬢の下町お忍び風ドレス。とでも言おうか。
露出は控えめ。
足首までの長さのロング丈。靴はヒールのある革ブーツで。
足捌きがしにくい。
ネックレスはそのままで、髪や耳にさりげなく飾られたアクセサリーは翠玉。
ドレスの色はカナタと揃いだ
カナタも私を抱えて濡れたのでお召替えをしていた。
「………」
パリッとしたスーツはビジネス用よりはカジュアルで軽装だ。
ベストの材質がドレスと同じものなのだろう。
カフスボタンとピンズはさりげなく青黄玉をあしらっている。
均整の取れた身体にスマートな装い。
目が吸いつけられる格好良さで。
「…その色の、初めてみた」
青黄玉。
思い過ごしじゃなければ、勘違いじゃなければ。
(…私の瞳の色だ。)
困惑しながらも頬に赤みがさしてくる。
その様子に、満足げにカナタは目を細める。
「ええ、いいでしょう?綺麗な薄青で。
私の世界で1番美しい…1番好きな宝石です」
そう言ってカナタは私の手を取り、並んで姿見の前に立たせた。
「並ぶととても絵になりますね」
対で調和の取れた服装は、婚約者とか夫婦のするそれだった。
カナタの翠玉をつけた私と
私の青黄玉をつけたカナタ。
「こういうのって、その……」
「何か問題でも?
…とても似合っていますよ、ハナ」
私の後に続く言葉を、カナタはハッキリ断ち切った。
「ずっと身につけたかったんです。この綺麗な青。
…今日なら許される様な気がして。
舞い上がった愚かな男に付き合わせてすみません」
困った様に微笑んで、私の肩を抱き寄せ、私の瞼に掠めるようなキスをする。
いつもの香りが私の鼻腔をくすぐる。
(困ったな、いつもよりドキドキする)
スキンシップが多いのは今更だが、今日は何かが違う。
グイグイきてる。逃げ場を塞いで追い詰められている様だ。
返答しなきゃと思考を巡らすが、言葉が詰まって出てこない。
「では改めて。
良ければ私とデートしませんか?お嬢さん」
「…間に合ってます」
「誰で?」
「緑の目の………変態紳士」
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