トキノハナと宝石の君〜玻璃の花は翠玉の夢を見る。しくじった私を軟禁して溺愛する理由を知りたいのですが〜

まつのことり

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翠玉の章・共通√

出会いと誤算3

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「腕…痛いよ…」

目に涙を溜めて、上目遣いで女の武器を全面に押し出し、出来る限りしおらしく訴えてみた。

「すみません、強くしてしまいましたね」
思わず謝って、掴む力を緩めてくれた。

小悪党の私に容赦するなんて、とんだお人よしである。

(チャンス!)

「!」

力いっぱいうでを振り解くように払ったため、かなり緩まっていたカナタの拘束は外れたので
とにかくこの場から逃れようと身を翻し

「ごめんなさい!」

財布を投げるように返し、走り出す。
とにかくすぐ先の大通りで人ごみに紛れて逃げ切りたい!

火事場の馬鹿力よろしく、命掛けの走り出しができた…はずだったんだけど。

「あまり舐めないでいただきたい。」

冷ややかな声に空気が冷える。

「ーーーー全く。とんだじゃじゃ馬ですね」

リーチも違うし、体力も違う。
不意打ちくらいで太刀打ちできる相手ではなかった。

「手荒なことはしたくないのですが」

ガシッ

すぐに伸ばされた手は、私を背後から抱き抱えるように捕獲する。

「きゃあっ!」
「可愛い顔で、随分振り回してくれますね?悪い子だ」
「声…近い!!」

彼方に後ろから強引に抱き止められ、そのまま彼の腕の中に拘束される。

「近いですか?…そうですね、
こうでもしないとあなたは…逃げるだろう?」

カナタの声が直接耳朶に注がれる。
甘い響きを孕んだ声が脳にダイレクトに響いて、恥ずかしさに頬が熱くなる。

「耳元で話さないで~!」
「ふふ」

表情は見えないが抱きしめる腕の力が強くなる。絶対わざとだ。

私の耳にカナタの吐息がかかる。唇の振動まで伝わるくらいの距離。

首元に触れる柔らかい髪の毛の感触。

この手のことには免疫の薄い私の心臓はもう持たない…

「せっかく優しく話をしているのに。あなたは痛い方がお好みか?
人の話を聞かないで逃げようとするなんて、悪い子ですね」

「だから近い~!!恥ずかしい!」

「真っ赤になって、可愛いですね。
…もしかして、何かされるって期待して?」

「!?」

茹蛸ゆでだこのようになっている私を揶揄からかうように、煽ってくるカナタ。

「するかっ!!離せ変態~!!」
「変態!?」

渾身の力で抵抗するが、その腕の力は弛まず、びくともしない。
私の罵倒に気を悪くしたのか、目が座っている。

「…変態とは心外ですね。口が悪い子にはお仕置きが必要でしょうか?」

「えっ」
なんだかんだでいつの間にか壁際に追い詰められていた。

そのまま強引に体を反転され

壁とカナタに挟まれる形で物理的に追いつめられている。

(逃げられない…)
向かい合わせで吐息のかかる距離まで迫られる。

心の奥まで見透かしそうな視線から
少しでも逃れたく視線は逸らす。

「お望み通り、離してさしあげましょうか。私は紳士ですから、ね」

「どこが!?」
「どこも触れてないでしょう?」
「そーいう問題じゃない!変態紳士!」

結局身動き取れないように塞がれて、ただ恥ずかしい目に遭わされ、なにがしたいんだこの男は。

自分の置かれた状況を横に置き勢いで言葉を返していたら、
揶揄うようににっこり、微笑みかけてくるカナタ。

「減らないその口、塞ぎましょうか?」

緑の瞳が意味ありげに細められ、カナタの顔が近づいてくる…

(キスされる!?)

まだ誰にも許したことないのに!
生暖かい、吐息が顔にかかって…

(こんな形で奪われるなんて…!)
私はぎゅっ、と固く目を閉じる

ガブッ。

「~~~~~ぃいったい!!!鼻!鼻噛んだ!!」

「ふふん、お仕置き?」

「~~~~~」
なんてやつだ。そこそこしっかり噛みやがった。

ジンジン痛む鼻を抑え、睨み上げた。

「ふふっ、良い顔ですね?」
してやったり、いたずらが成功した子供のようにだいぶ無邪気に笑った。

「私がもっとタチが悪い男だったら、これくらいではすまないですよ、お嬢さん」

(なんだかよくわからない人に捕まってしまったみたいだ)

(…どうしよう)

この先を思うと不安しか無いのだが、この妙な男のペースに
私はなすすべもなく巻き込まれていくのだった。









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