とある冒険者セルジュ

相伽

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変化編

67 おまけ:聞かれる。

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 イルマが捕まってしばらくして、ギルド長に呼び出された。詰所に直接ではなく、ギルド経由なのに驚いた。
 部屋には詰所の制服を着た職員が一人と、ギルド長が待っていた。職員が主に質問する形式になるようだった。

「先日のイルマの件だが、どんな関係性だったのかを教えて欲しい」

 ……関係性。そう言われるとどういう関係なのか悩んだ。話したことも挨拶さえもしたことがない。
 近所に住んでいたから、顔を知っていただけ。ただラウリーの故郷を職員に伝える気はない。

 ラウリーは冤罪だが脱獄もしている犯罪者。西部への移動に協力してくれた人が確認してくれているが、指名手配は今もされていない。
 目撃者が多くいたのにラウリーが殺したことになったのは、親がイルマの家から金をもらったからだと思う。

 指名手配すれば周囲に殺人犯が出た家だと宣伝することになる。そういうのを嫌う場所なので、今後も指名手配はされないだろうと言われている。
 更にその人のお陰で、今のラウリーは南部の西の端にある町イヴァン出身のラウリーになっている。

 今回ラウリーの立ち位置は指名手配犯が追いかけて来た存在で、イルマの事件とは直接関係はない。
 実家に切られたイルマはいなかったことにされているだろう。イルマが話したとして、別のラウリーだと言い張るつもりだった。

 だからラウリーも否定しても問題ない。ただそうなると出来過ぎた偶然になるので、怪しまれるだろう。
 故郷では権力闘争が日々行われているので、問い合わせを知った誰かがイルマの存在を教える可能性がある。

 いや、ないな。そのネタで強請った方が利益が大きいだろう。下手に何か話さない方がいいのは確実。

「え~、悩むとこ?」

 沈黙に耐えきれなかったのかギルド長がそう言い、職員には上手く言葉に出来ないなら思ったことをそのまま話せばいいと言われた。

「権力者の息子で性格に問題があるのは聞いていたので、関わらないようにしていました」

 見かけたらまず逃げて、手遅れの場合でも端に避けて顔を伏せていたことを説明する。

「向こうの名前は周囲が呼んでいたので多分イルマだろうなと認識していただけで、正直向こうが俺の名前を知っていたことにも驚きました」

 故郷での話だが嘘はついていない。

「話したことは?」

「あれを話したと言っていいのかは微妙ですが、一方的に何か言われたことはあります」

「何を言われたか、覚えている?」

「あ~何か俺の事をこっそり見ていたらしくて、そんな奴とは思わなかったとか何かそのようなことを一方的に」

「話したこともないのにぃ?」

 ギルド長のちゃちゃに、職員が黙れと目線を送る。まぁ気持ちはわかる。

「話したことはないです。だから何で粘着されたのかも、ちょっと」

 これは本当に正直な気持ちだ。上手く逃げているつもりだったので、認識されていたのも予想外だった。
 初体験を見られていたと思うと単純に胸糞が悪いし、その後の行動も全く意味がわからない。

「顔かなぁ……」

 職員がそれでいいのか。その方が今は有り難いが。

「体もじゃね? 冒険者にしては細身だが、一般人には一番人気のある体型してるしよぉ」

 職員まで納得するのはやめて欲しい。

「彼、自分が何処から来たのか言わないんだけれど、何処で見初められちゃったかわかる?」

「さぁ?」

 職員とギルド長が頷き合って、職員は部屋から出ていった。実際に離れていくのが探索上わかる。
 案外あっさりと終わって良かったなと思いかけるが、ギルド長から退室の許可は出ていない。

「さて。職員は聞いてしまうと見逃す訳にはいかなくなるが、何を隠しているんだ?」

 おっと。そう来たか。

「嘘はついていませんよ」

「……何か困っていることがあるんじゃないのか? これから起こりそうなことでもいい」

 ここまで気にかけてもらえることが少し意外だったが、既に別のラウリーになっているので困ってはいない。
 イルマが黙っているなら余計に、何か起こりそうなこともない。

「特には」

「悪い様にはしないつもりだ」

 つもりを信用するほど、ラウリーは甘ちゃんではない。



「ラウリーさんの秘密は聞けましたか?」

 ギルド長はラウリーから話を聞いた後、職員と合流した。

「何も。残念ながら俺は信用されていない」

「……そうですか。何か力になれることがあれば良かったのですが」

 イルマが南部出身なことは既に調べがついているが、イルマは存在しない人物になっていた。
 おそらく家から切り捨てられ、存在を抹消された権力者の息子だろう。

「何か余程のことがあるんだろう。ただ嘘はついていないと言っていた。だから嘘はついてないんだろうよ」

「相変わらず、甘いですねぇ。まぁでも彼の評判を聞く限り、美形だからこそ巻き込まれたのでしょうね」

「わかってるじゃないか。あいつはいい奴だ」

「トトじいさんも孤児院の子どもたちも、ラウリーさんにメロメロですし」

「ほんとにな。じいさんが来た時は驚いたよ」
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