67 / 83
変化編
67 おまけ:聞かれる。
しおりを挟む
イルマが捕まってしばらくして、ギルド長に呼び出された。詰所に直接ではなく、ギルド経由なのに驚いた。
部屋には詰所の制服を着た職員が一人と、ギルド長が待っていた。職員が主に質問する形式になるようだった。
「先日のイルマの件だが、どんな関係性だったのかを教えて欲しい」
……関係性。そう言われるとどういう関係なのか悩んだ。話したことも挨拶さえもしたことがない。
近所に住んでいたから、顔を知っていただけ。ただラウリーの故郷を職員に伝える気はない。
ラウリーは冤罪だが脱獄もしている犯罪者。西部への移動に協力してくれた人が確認してくれているが、指名手配は今もされていない。
目撃者が多くいたのにラウリーが殺したことになったのは、親がイルマの家から金をもらったからだと思う。
指名手配すれば周囲に殺人犯が出た家だと宣伝することになる。そういうのを嫌う場所なので、今後も指名手配はされないだろうと言われている。
更にその人のお陰で、今のラウリーは南部の西の端にある町イヴァン出身のラウリーになっている。
今回ラウリーの立ち位置は指名手配犯が追いかけて来た存在で、イルマの事件とは直接関係はない。
実家に切られたイルマはいなかったことにされているだろう。イルマが話したとして、別のラウリーだと言い張るつもりだった。
だからラウリーも否定しても問題ない。ただそうなると出来過ぎた偶然になるので、怪しまれるだろう。
故郷では権力闘争が日々行われているので、問い合わせを知った誰かがイルマの存在を教える可能性がある。
いや、ないな。そのネタで強請った方が利益が大きいだろう。下手に何か話さない方がいいのは確実。
「え~、悩むとこ?」
沈黙に耐えきれなかったのかギルド長がそう言い、職員には上手く言葉に出来ないなら思ったことをそのまま話せばいいと言われた。
「権力者の息子で性格に問題があるのは聞いていたので、関わらないようにしていました」
見かけたらまず逃げて、手遅れの場合でも端に避けて顔を伏せていたことを説明する。
「向こうの名前は周囲が呼んでいたので多分イルマだろうなと認識していただけで、正直向こうが俺の名前を知っていたことにも驚きました」
故郷での話だが嘘はついていない。
「話したことは?」
「あれを話したと言っていいのかは微妙ですが、一方的に何か言われたことはあります」
「何を言われたか、覚えている?」
「あ~何か俺の事をこっそり見ていたらしくて、そんな奴とは思わなかったとか何かそのようなことを一方的に」
「話したこともないのにぃ?」
ギルド長のちゃちゃに、職員が黙れと目線を送る。まぁ気持ちはわかる。
「話したことはないです。だから何で粘着されたのかも、ちょっと」
これは本当に正直な気持ちだ。上手く逃げているつもりだったので、認識されていたのも予想外だった。
初体験を見られていたと思うと単純に胸糞が悪いし、その後の行動も全く意味がわからない。
「顔かなぁ……」
職員がそれでいいのか。その方が今は有り難いが。
「体もじゃね? 冒険者にしては細身だが、一般人には一番人気のある体型してるしよぉ」
職員まで納得するのはやめて欲しい。
「彼、自分が何処から来たのか言わないんだけれど、何処で見初められちゃったかわかる?」
「さぁ?」
職員とギルド長が頷き合って、職員は部屋から出ていった。実際に離れていくのが探索上わかる。
案外あっさりと終わって良かったなと思いかけるが、ギルド長から退室の許可は出ていない。
「さて。職員は聞いてしまうと見逃す訳にはいかなくなるが、何を隠しているんだ?」
おっと。そう来たか。
「嘘はついていませんよ」
「……何か困っていることがあるんじゃないのか? これから起こりそうなことでもいい」
ここまで気にかけてもらえることが少し意外だったが、既に別のラウリーになっているので困ってはいない。
イルマが黙っているなら余計に、何か起こりそうなこともない。
「特には」
「悪い様にはしないつもりだ」
つもりを信用するほど、ラウリーは甘ちゃんではない。
「ラウリーさんの秘密は聞けましたか?」
ギルド長はラウリーから話を聞いた後、職員と合流した。
「何も。残念ながら俺は信用されていない」
「……そうですか。何か力になれることがあれば良かったのですが」
イルマが南部出身なことは既に調べがついているが、イルマは存在しない人物になっていた。
おそらく家から切り捨てられ、存在を抹消された権力者の息子だろう。
「何か余程のことがあるんだろう。ただ嘘はついていないと言っていた。だから嘘はついてないんだろうよ」
「相変わらず、甘いですねぇ。まぁでも彼の評判を聞く限り、美形だからこそ巻き込まれたのでしょうね」
「わかってるじゃないか。あいつはいい奴だ」
「トトじいさんも孤児院の子どもたちも、ラウリーさんにメロメロですし」
「ほんとにな。じいさんが来た時は驚いたよ」
部屋には詰所の制服を着た職員が一人と、ギルド長が待っていた。職員が主に質問する形式になるようだった。
「先日のイルマの件だが、どんな関係性だったのかを教えて欲しい」
……関係性。そう言われるとどういう関係なのか悩んだ。話したことも挨拶さえもしたことがない。
近所に住んでいたから、顔を知っていただけ。ただラウリーの故郷を職員に伝える気はない。
ラウリーは冤罪だが脱獄もしている犯罪者。西部への移動に協力してくれた人が確認してくれているが、指名手配は今もされていない。
目撃者が多くいたのにラウリーが殺したことになったのは、親がイルマの家から金をもらったからだと思う。
指名手配すれば周囲に殺人犯が出た家だと宣伝することになる。そういうのを嫌う場所なので、今後も指名手配はされないだろうと言われている。
更にその人のお陰で、今のラウリーは南部の西の端にある町イヴァン出身のラウリーになっている。
今回ラウリーの立ち位置は指名手配犯が追いかけて来た存在で、イルマの事件とは直接関係はない。
実家に切られたイルマはいなかったことにされているだろう。イルマが話したとして、別のラウリーだと言い張るつもりだった。
だからラウリーも否定しても問題ない。ただそうなると出来過ぎた偶然になるので、怪しまれるだろう。
故郷では権力闘争が日々行われているので、問い合わせを知った誰かがイルマの存在を教える可能性がある。
いや、ないな。そのネタで強請った方が利益が大きいだろう。下手に何か話さない方がいいのは確実。
「え~、悩むとこ?」
沈黙に耐えきれなかったのかギルド長がそう言い、職員には上手く言葉に出来ないなら思ったことをそのまま話せばいいと言われた。
「権力者の息子で性格に問題があるのは聞いていたので、関わらないようにしていました」
見かけたらまず逃げて、手遅れの場合でも端に避けて顔を伏せていたことを説明する。
「向こうの名前は周囲が呼んでいたので多分イルマだろうなと認識していただけで、正直向こうが俺の名前を知っていたことにも驚きました」
故郷での話だが嘘はついていない。
「話したことは?」
「あれを話したと言っていいのかは微妙ですが、一方的に何か言われたことはあります」
「何を言われたか、覚えている?」
「あ~何か俺の事をこっそり見ていたらしくて、そんな奴とは思わなかったとか何かそのようなことを一方的に」
「話したこともないのにぃ?」
ギルド長のちゃちゃに、職員が黙れと目線を送る。まぁ気持ちはわかる。
「話したことはないです。だから何で粘着されたのかも、ちょっと」
これは本当に正直な気持ちだ。上手く逃げているつもりだったので、認識されていたのも予想外だった。
初体験を見られていたと思うと単純に胸糞が悪いし、その後の行動も全く意味がわからない。
「顔かなぁ……」
職員がそれでいいのか。その方が今は有り難いが。
「体もじゃね? 冒険者にしては細身だが、一般人には一番人気のある体型してるしよぉ」
職員まで納得するのはやめて欲しい。
「彼、自分が何処から来たのか言わないんだけれど、何処で見初められちゃったかわかる?」
「さぁ?」
職員とギルド長が頷き合って、職員は部屋から出ていった。実際に離れていくのが探索上わかる。
案外あっさりと終わって良かったなと思いかけるが、ギルド長から退室の許可は出ていない。
「さて。職員は聞いてしまうと見逃す訳にはいかなくなるが、何を隠しているんだ?」
おっと。そう来たか。
「嘘はついていませんよ」
「……何か困っていることがあるんじゃないのか? これから起こりそうなことでもいい」
ここまで気にかけてもらえることが少し意外だったが、既に別のラウリーになっているので困ってはいない。
イルマが黙っているなら余計に、何か起こりそうなこともない。
「特には」
「悪い様にはしないつもりだ」
つもりを信用するほど、ラウリーは甘ちゃんではない。
「ラウリーさんの秘密は聞けましたか?」
ギルド長はラウリーから話を聞いた後、職員と合流した。
「何も。残念ながら俺は信用されていない」
「……そうですか。何か力になれることがあれば良かったのですが」
イルマが南部出身なことは既に調べがついているが、イルマは存在しない人物になっていた。
おそらく家から切り捨てられ、存在を抹消された権力者の息子だろう。
「何か余程のことがあるんだろう。ただ嘘はついていないと言っていた。だから嘘はついてないんだろうよ」
「相変わらず、甘いですねぇ。まぁでも彼の評判を聞く限り、美形だからこそ巻き込まれたのでしょうね」
「わかってるじゃないか。あいつはいい奴だ」
「トトじいさんも孤児院の子どもたちも、ラウリーさんにメロメロですし」
「ほんとにな。じいさんが来た時は驚いたよ」
1
お気に入りに追加
34
あなたにおすすめの小説
変態村♂〜俺、やられます!〜
ゆきみまんじゅう
BL
地図から消えた村。
そこに肝試しに行った翔馬たち男3人。
暗闇から聞こえる不気味な足音、遠くから聞こえる笑い声。
必死に逃げる翔馬たちを救った村人に案内され、ある村へたどり着く。
その村は男しかおらず、翔馬たちが異変に気づく頃には、すでに囚われの身になってしまう。
果たして翔馬たちは、抱かれてしまう前に、村から脱出できるのだろうか?
珍しい魔物に孕まされた男の子が培養槽で出産までお世話される話
楢山コウ
BL
目が覚めると、少年ダリオは培養槽の中にいた。研究者達の話によると、魔物の子を孕んだらしい。
立派なママになるまで、培養槽でお世話されることに。
召喚された美人サラリーマンは性欲悪魔兄弟達にイカされる
KUMA
BL
朱刃音碧(あかばねあおい)30歳。
ある有名な大人の玩具の開発部門で、働くサラリーマン。
ある日暇をモテ余す悪魔達に、逆召喚され混乱する余裕もなく悪魔達にセックスされる。
性欲悪魔(8人攻め)×人間
エロいリーマンに悪魔達は釘付け…『お前は俺達のもの。』
童貞が建設会社に就職したらメスにされちゃった
なる
BL
主人公の高梨優(男)は18歳で高校卒業後、小さな建設会社に就職した。しかし、そこはおじさんばかりの職場だった。
ストレスや性欲が溜まったおじさん達は、優にエッチな視線を浴びせ…
【R18】絶倫にイかされ逝きました
桜 ちひろ
恋愛
性欲と金銭的に満たされるからという理由で風俗店で働いていた。
いつもと変わらず仕事をこなすだけ。と思っていたが
巨根、絶倫、執着攻め気味なお客さんとのプレイに夢中になり、ぐずぐずにされてしまう。
隣の部屋にいるキャストにも聞こえるくらい喘ぎ、仕事を忘れてイきまくる。
1日貸切でプレイしたのにも関わらず、勤務外にも続きを求めてアフターまでセックスしまくるお話です。
巨根、絶倫、連続絶頂、潮吹き、カーセックス、中出しあり。
【R18】奴隷に堕ちた騎士
蒼い月
BL
気持ちはR25くらい。妖精族の騎士の美青年が①野盗に捕らえられて調教され②闇オークションにかけられて輪姦され③落札したご主人様に毎日めちゃくちゃに犯され④奴隷品評会で他の奴隷たちの特殊プレイを尻目に乱交し⑤縁あって一緒に自由の身になった両性具有の奴隷少年とよしよし百合セックスをしながらそっと暮らす話。9割は愛のないスケベですが、1割は救済用ラブ。サブヒロインは主人公とくっ付くまで大分可哀想な感じなので、地雷の気配を感じた方は読み飛ばしてください。
※主人公は9割突っ込まれてアンアン言わされる側ですが、終盤1割は突っ込む側なので、攻守逆転が苦手な方はご注意ください。
誤字報告は近況ボードにお願いします。無理やり何となくハピエンですが、不幸な方が抜けたり萌えたりする方は3章くらいまでをおススメします。
※無事に完結しました!
ゆるふわメスお兄さんを寝ている間に俺のチンポに完全屈服させる話
さくた
BL
攻め:浩介(こうすけ)
奏音とは大学の先輩後輩関係
受け:奏音(かなと)
同性と付き合うのは浩介が初めて
いつも以上に孕むだのなんだの言いまくってるし攻めのセリフにも♡がつく
僕は肉便器 ~皮をめくってなかをさわって~ 【童貞新入社員はこうして開発されました】
ヤミイ
BL
新入社員として、とある企業に就職した僕。希望に胸を膨らませる僕だったが、あろうことか、教育係として目の前に現れたのは、1年前、野外で僕を襲い、官能の淵に引きずり込んだあの男だった。そして始まる、毎日のように夜のオフィスで淫獣に弄ばれる、僕の爛れた日々…。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる