とある冒険者セルジュ

相伽

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変化編

58 買い物後。

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 弱っているラウリーが心配で、時間が許す限り一緒にいた。
 そうしていたら変な奴が来た。力になりたいとしか思っていなかったから、対価も望んではいなかった。

 でも結婚しようと言って来た奴がいると思うと我慢が出来なかった。
 ご褒美と称してヤりまくって、つけたいだけ鬱血痕をつけまくった。

 無防備に腹をかいても見えない位置にはしたが、内腿に至ってはかなり際どいところにまでつけた。
 あんな奴に興味がないことはわかっていても、渡さないという気持ちが強く出たのだと思う。

 今ラウリーは風呂に入っている。セルジュは今日、雰囲気次第ではラウリーに好きだと言うつもりでいた。
 結婚を前提に、本気のお付き合いがしたいと思っている。

 気を許してくれているし、他のタチとの関係を邪魔しても怒らなかった。
 トんだ時の素直なラウリーも、それに弱っている時にも素でセルジュに甘えてくれた。だから勝算はあった。

 鬱血痕を見た時の反応を確認してから言おうと考えていた。
 振られるも今までの関係が壊れるのも怖くて、怖気づいて最後の一押しが欲しかった。

 けれどラウリーからは何の反応もなくて、不安なまま市場に付いて行ったらラウリーは不機嫌になった。
 行く前からかもしれない。ラウリーは不機嫌でも人には当たらない。むしろ不機嫌なことを隠す。

 だからいつもなら傍にいるのは許してくれるのに、目の前で扉を閉められて落ち込んだ。
 それは不機嫌の原因が、セルジュだと言われたのと同じだと感じた。その原因が鬱血痕なことも想像がついた。

 けれど翌日からは普通で、仕事もいつも通り。ただいつもとは違って誘いを断わられた。
 最初は休み過ぎたからと言われて納得した。次は先約があるからと言われて、段々間が空いていった。

 一線を引かれた気がした。

 何も言っていないし言われていないのに、振られた気がして落ち込んだ。
 いつもみたいに話しかけられず、ただ見ていたら急にスノウがラウリーに求婚し出して焦った。

 それはもう滅茶苦茶に。冗談っぽいのはわかるが、そこに含まれる僅かな本気をセルジュは感じていた。
 スノウが必死に求婚してくっついていても、ラウリーの対応は普通。夜にもスノウと二人でいることもある。

 自分が臆病で逃げたから、今の状態に繋がっていると思えた。真っすぐにただ言えば良かったのだと後悔した。
 勇気はいることだが、ラウリーは公私をちゃんと分けるから仕事に支障が出ることはないだろう。
 二人での共闘はセルジュの気持ちが落ち着くまでは難しいが、共同依頼は何とか続けられるだろう。だったら。

 せめて何年か経ったら、過去の笑い話としてこのことが話せるような仲の良い友人でいたい。。
 セルジュは何も言わずに、このままになるのは嫌だった。セルジュはラウリーの部屋の前で待ち伏せをした。

「どうした?」

 ラウリーが真っすぐ一人で部屋に戻って来たとわかっただけでも、セルジュは嬉しかった。

 今日ラウリーが受けていた共同依頼には、ラウリーと関係を持っているタチがいた。
 セルジュが邪魔を出来ていない今、ラウリーは関係を再開する事が出来る。でも今日は帰って来た。

「話があるから、中に入れて欲しい」

「……ああ」

 一瞬の間はあったものの、部屋には入れてもらえた。椅子を勧めてお茶も普通に出してくれた。
 最近セルジュは飲みたい時には自分で勝手に淹れていたので、それが逆に今の距離を感じさせた。

「それで話って?」

「ラウリーが好きだ。結婚を前提に付き合って欲しい」

「はぁ!?」

 ラウリーはとても驚いていた。充分予感はさせていたと思うのだが、予想外だったような反応に感じた。
 予感させたからこそ先に一線を引かれたと思ったのだが、何か少し違う気がする。とにかく後悔しない為に思いの丈をぶつけることにした。

「鬱血痕を付けまくったのは恋人になって欲しいって言うつもりで。怖気づいて反応が見たくて沢山残して。だけど機嫌が悪そうで言い出せなくて。その後一線を引かれた気がして。だけどそれでも言いたくて」

 自分がこんなに情けない奴だと思っていなかったが、涙が滲んできた。自分でも引く。

「甘えられるのも嬉しくて、甘やかすのも楽しくて。もっと頼って欲しいし毎日一緒にいたい」

 もう傍にいるのが当たり前になっていて、ここしばらくは本当にきつかった。
 だからこそ止められる前に、言いたかったことは全て言ってしまいたい。

「スノウが求婚してるから滅茶苦茶焦って。俺はまだ何も言ってないからそんな権利はないのに、ラウを取られた気がして。それで……」

 怖くてラウリーの顔が見れない。『そうだよ、告白されたくないから一線を引いたんだ』と言われたら。
 けれどあまりにラウリーから反応がないから顔を上げたら、ラウリーは真っ赤になっていた。

「えっ? まさか本当に予想外だった的な?」

「お、俺は甘え過ぎて申し訳ないなと思って。だから精神的に前みたいに独り立ち出来るまで、取り敢えず距離を取ろうかなって」

「取っちゃ嫌だ! 甘えてよ!」

「あぁ、うん。ごめん。泣くなよ」

「ここ最近、辛くてぇ……」

 自分でも本当になんて情けない告白だとは思ったが、ラウリーが立ち上がってぐいと頭を引き寄せてくれた。
 優しく頭を撫でてくれるので、がっちり腰に抱き着いて甘えた。

「泣くなよ」

「泣いてない」

「嘘つけ」

 いつもとは逆だが、慰め方がセルジュと違ってイケメンに感じるのは何故だろうか。基本がイケメンだが。

「告白の返事は? 恋人になってくれる? もっと甘えて欲しいし、俺はラウの精神的な支えになりたい」
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