とある冒険者セルジュ

相伽

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変化編

54 不機嫌。

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  体の関係だけであっても、所有印を残したがる奴はそれなりにいる。セルジュも残したかったのに、遠慮していただけかもしれない。
 だとしてもあまりにも数が多過ぎる。これではまるで、本当に所有を主張されているように感じてしまう。

 最近はセルジュがむらむらしているからと回数が増えていたが、セルジュは他の発散相手とどうなっている? 
 思い出せる限りでは、毎回ラウリーが誘われている? そうなると独占欲にも思えるが、そういう言葉を交わしたことはない。

 セルジュとは友人で、互いに都合が良い時に声をかける関係。互いに性格も気に入っている。
 それにセルジュはあけすけで、素直だ。何も言われたことはないから、ただ付けたかっただけなのだろう。

 だから何だこれはと普通に聞けばいいだけのこと。でも何故か、そう考えただけでとてももやもやした。
 自分でもよくわからないが、聞いてはっきりさせたくなかった。だから何も言わないことを選んだ。

 市場の入り口ですぐにセルジュが若い人に囲まれた。全員がネコっぽいなとラウリーは思った。
 セルジュは人懐こいから話をするだろう。足を止めずにそのまま目的の店に向かって歩いた。

 そうしたら今度はラウリーが変なのに捕まった。さっきから何だかイラついているから勘弁して欲しい。

「あなたがラウリーね! いいわ、あなたになら私を支援させてあげる!」

 ガリガリの痩せた男が進路を塞いで言って来たが、意味がわからない。
 ラウリーは無視することにして、さらっと避けてそのまま通り過ぎた。

「ちょっと待ちなさいよ! この私が話しかけてあげているのよ!」

 この人は何をもって自信満々に押し売りをしてくるのだろうか。ラウリーは構わず無視をした。

「貴様、アンアン様が話しかけていると言うのに無視するとは何事だ!」

 新たに変な一般人にしてはがたいのいいおっさんが現れて、ラウリーは心底うんざりした。

「あ゛? お前らそもそも誰だよ。人の通行の邪魔をするな」

 殺気も出したら、二人は尻もちをついた。殺気には敏感で良かったと思ってそのまま放置した。

「ラウリーくん、やるなぁ」

 ようやく目的の店に着いたが、やり取りを店主が見ていたようだ。

「いえ、殺ってません」

「物騒なこと言わないでくれ。おじさんは怖いよ」

「すみません。何かイラッとして」

「わかるぅ。新参者だろうな。今日は何買う?」

「葉物でお勧めありますか」

「あるよ。今日はこの辺がいいぞ。沢山採れたから、安いが品はいい」

「んーじゃあ、これとこれを二束」

「あいよ」

 いいのを選んでもらっていると、今度はセルジュの不機嫌な声が聞こえて来た。

「いい加減にしてくれないか。行かないって言ってるだろう」
「だから一度だけでもいいって言ってるでしょ、奢るから、ね?」

 しつこくされてもラウリーと違って上手くかわすのに、珍しくセルジュが怒っている。

「一度でも嫌だって言ってるんだよ。はっきり言わないとわからないか?」

 セルジュにしてはかなりはっきりと言ったな、とラウリーは思った。

「そんな言い方……」
「毎回毎回しつこいんだよ。その気はないって言ってるだろ」

 何だかラウリーは自分にも言われている気がした。

「おー、揉め事か? セルジュくんも大変だなぁ」

「ですね。前も酔っ払いに絡まれて、いきなり抱いてーって大勢の前で腰布をめくろうとされて」

「えっ、何それ嫌だわ」

「でしょ? セルジュも振り払ったんですが、うっかり力加減を間違えちゃって。相手が吹っ飛んでテーブルに当たって、顔が腫れあがりましたね」

「えっ、こわ!」

「大勢の人の前で腰布をめくられそうだったんですよ? 俺なら咄嗟に魔法が出るから、首を斬り飛ばしていたかも……」

「ラウリーくん、おじさんはもう怖い。そんでラウリーくんに絡んでいた二人が震えているよ?」

「いいんじゃないですか? 俺も無意味な人殺しにはなりたくないし。セルジュの場合は冒険者相手だから相手が悪いで終わりましたが、流石に首を刎ねるのはやり過ぎだと思うし」

「ひぇえ」

「そもそもセルジュが本気だったら首の骨が折れただろうし。俺も一般人相手ならビンタでも首の骨を折れるかもなぁ。そしたらどうなりますかね?」

 チラリと視線をさっき絡んで来た二人に向けると、必死で手を使って後ずさっていた。
 今日のラウリーはどうも機嫌が悪いらしい。いつも以上に追い詰めたくなってしまう。

「ラウ! 置いていかないでくれよ。ところであれはなんだ?」

「知らね」

 追いついたセルジュがあの二人について聞いて来たが、本当に知らないのでそのまま答えた。

「劇団で売り出し中のメス役俳優。結構人気はあるらしいが二番手で、看板俳優になりたくて金持ちの支援者を探してるって聞いたぜ」

 セルジュの疑問に何故か通りすがりのおじさんが答えている。セルジュの交友関係が相変わらず謎で異常なほどに広い。

「俳優? ラウに支援を? ラウの方が圧倒的に美形じゃね?」

「セルジュくん、それは言っちゃだめだよ。それに俳優は演技力も必要なんだから、むしろそっちが重要なんだろうし。きっと顔じゃないんだ」

「支援ってお気に入りをお金で応援するやつでしょ? よくラウに話しかけられましたね」

「おいおい二人共。そろそろやめてあげないと、あの人たちが追加でダメージ受けてるよ」

 おじさんが親指で示した先を見ると、二人がむせび泣いていた。ラウリーの恐怖攻撃とは違って、精神攻撃は辛かったのだろう。
 その後は邪魔されることなく買い物を続け、部屋にセルジュが荷物を運んでくれたがそのまま別れた。
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