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変化編
46 ラウリーの日常。
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セルジュと共闘した日は誘うか誘われるか、断わるか乗るか。乗った場合に翌日が休みなら、翌朝にも同じ選択が待っている。
セルジュは元気で性欲も強いし、あっちも強い。最近はラウリーから誘う暇もないくらいに誘われている。
ギルド長から話を聞いた影響か、最近のラウリーはちょっと日常が爛れ過ぎている気がしていた。
今日はちゃんとしようと昨日のセルジュからの誘いを断わって、しっかり寝て朝から市場に来た。
ラウリーは寝ている時でさえも探索を切らすことはない。南側から来た冒険者特有らしいがやめられない。
自分の宿や部屋に探索魔法を誤魔化す道具を設置する人はそれなりにいるが、そこまでするのは珍しい。
ラウリーは常時探索を発動させ、部屋の中も探索をかけられてもわからないようにしている。そうでないと未だに安心出来なかった。
市場でも普通に探索をかけたまま歩いていたら、不自然に動きを止めた人がいた。魔力の大きさから考えても普通の人だろう。
念の為にそちらに足を向けると、年配の男性が手押し車に手をかけたまま中腰で動きを止めていた。
その様子をじっと見ていると、呼吸が荒くなっていることに気が付いた。
「じいさん、どうした?」
「ギ、ぎっくり腰……」
なるほどなとラウリーは思った。マオじいちゃんと暮らしていた家の使用人が、たまにやっていた。
その人はじいちゃんの実家から付いて来てくれた年配の人で、じいちゃんが病死する前に引退していた。
その時にはラウリーも自分のことは自分で出来るようになっていたので、無理に新しい人を補充はしなかった。
いい人だったが、ラウリーが出奔する前に亡くなっていた。最後に会ったのはマオじいちゃんの葬式だったか。
車椅子で孫に連れられて参列してくれた。ラウリーにとって数少ない温かい思い出がある人だ。
とにかく腰が痛くて、その瞬間から動けなかったはず。ラウリーは手押し車を除け、リュックを前に背負いなおしてじいさんの前に座った。
「ほれ」
「うん?」
「治療院まで連れてくよ」
「ほぁあ、ぐっ」
何かわからんが悶絶しだしたじいさんを勝手に背負った。腰の負担にならないように両手を使う。
そうすると手押し車をどう持つかが悩ましい。考えていたら、通りすがった小さな子どもが話しかけて来た。
「トトじい?」
「知り合いか?」
「うん」
「じいさんぎっくり腰だってよ」
「わぁ。治療院に連れてってくれるの?」
「ああ。そのつもりだ」
「じゃあ俺が手押し車を押すよ」
「そうか? 助かる。お使いの途中とかじゃねぇの?」
「大丈夫」
子どもが手押し車を押すが、それなりに重いらしい。車は動かなかった。まぁチビだし仕方がない。
「大丈夫か?」
「ふぬぅ、俺にならばできるぅぅぅ」
ラウリーは必死な子どもから見えないように、ちょんと足で押した。動き出せばそこまで重くはないだろう。
ラウリーは縁があって一年ほど孤児院に通っていたので、子どもの扱いにはそれなりに慣れていた。
「動いた!」
「行くぞ」
周囲が道を開けてくれるので、市場を抜けてすぐのところにある治療院へ向かった。治療院の扉は開いていたので、そのまま中に入った。
「おーい、患者。ぎっくり腰だってよ」
「ぎっくりー!」
じいさんには一大事のはずだが、子どもは楽しそうに叫んだ。
「ふぉわ! トト!」
中から出て来た人に驚かれたが、指示されたベッドに下ろした。
「トイレ行きたいなら、出ていく前に運ぶけど?」
治療院の人は皆細いので、運ぶのは大変そうだと思って聞いた。
「ふぁー! 大丈夫です!」
「そうか? 誰かに伝言は?」
このじいさんはいちいち反応がちょっとおかしい。
「市場に息子がいるので、お願いできるなら……その子が知っています」
「買い物に来たからいいよ」
子どもは腰をかがめて話を聞いていたラウリーの上に乗ろうと、何故か跳ねていた。
「案内お願い出来るか?」
「あいっ!」
抱き着いてくるのは構わないが、ラウリーの服で鼻水を拭くのは許さん。
「お前、鼻水垂れてんぞ。拭けよ」
子どもはグイっと手で鼻水を拭いた。拭くものは持っていないらしい。
「サービスな」
洗浄魔法をかけた。
「ふぉぉぉ! まほーかっけー!」
「行くぞ」
歩幅が違うので、ラウリーは片手に子どもを抱っこして道案内をしてもらうことにした。
ラウリーの顔はそこそこ怖いはずだが、怖がらないし人見知りもせずずっと話しかけてきた。人懐こい。
ラウリーの首に両手を回し、時々すりすりと頬を寄せて来る。子どもの頬はもっちもちだった。
「ここ!」
「あっ、ソン! 遅いから心配してたんだぞ! ふぉわ!」
顔が似ているのであのじいさんの息子だろうなと察しが付いた。
けれどラウリーとソンテの間で視線を泳がせているので、どう言おうかラウリーは少し迷った。
「トトじい、治療院連れてってた」
「ふぉわ?」
「ラウ兄ちゃんが運んでくれた!」
ふぉわで会話が出来るってすげぇなとラウリーは思った。
「ぎっくり腰だ。落ち着くまで寝かせておくから、昼頃に迎えに来て欲しいと言っていた」
「ふぁ、ふぁりがとうございます!」
「ラウ兄ちゃん、またねー!」
「ああ、またなソンテ」
ここに用事があったらしいソンテを置いて、お礼にと果物をもらったラウリーは買い物に戻った。
セルジュが沢山食うから、沢山買わなければ追いつかない。今日はやたらと積極的な店主たちに戸惑った。
おまけも沢山してくれた。どうもあのじいさんがこの界隈では有名人だったらしく、感謝の気持ちらしい。
空だったリュックがパンパンで、更に手で持って帰る羽目になった。有り難くはあるが、多い。
「ラウ? すげー荷物だな?」
途中でセルジュに会った。
セルジュは元気で性欲も強いし、あっちも強い。最近はラウリーから誘う暇もないくらいに誘われている。
ギルド長から話を聞いた影響か、最近のラウリーはちょっと日常が爛れ過ぎている気がしていた。
今日はちゃんとしようと昨日のセルジュからの誘いを断わって、しっかり寝て朝から市場に来た。
ラウリーは寝ている時でさえも探索を切らすことはない。南側から来た冒険者特有らしいがやめられない。
自分の宿や部屋に探索魔法を誤魔化す道具を設置する人はそれなりにいるが、そこまでするのは珍しい。
ラウリーは常時探索を発動させ、部屋の中も探索をかけられてもわからないようにしている。そうでないと未だに安心出来なかった。
市場でも普通に探索をかけたまま歩いていたら、不自然に動きを止めた人がいた。魔力の大きさから考えても普通の人だろう。
念の為にそちらに足を向けると、年配の男性が手押し車に手をかけたまま中腰で動きを止めていた。
その様子をじっと見ていると、呼吸が荒くなっていることに気が付いた。
「じいさん、どうした?」
「ギ、ぎっくり腰……」
なるほどなとラウリーは思った。マオじいちゃんと暮らしていた家の使用人が、たまにやっていた。
その人はじいちゃんの実家から付いて来てくれた年配の人で、じいちゃんが病死する前に引退していた。
その時にはラウリーも自分のことは自分で出来るようになっていたので、無理に新しい人を補充はしなかった。
いい人だったが、ラウリーが出奔する前に亡くなっていた。最後に会ったのはマオじいちゃんの葬式だったか。
車椅子で孫に連れられて参列してくれた。ラウリーにとって数少ない温かい思い出がある人だ。
とにかく腰が痛くて、その瞬間から動けなかったはず。ラウリーは手押し車を除け、リュックを前に背負いなおしてじいさんの前に座った。
「ほれ」
「うん?」
「治療院まで連れてくよ」
「ほぁあ、ぐっ」
何かわからんが悶絶しだしたじいさんを勝手に背負った。腰の負担にならないように両手を使う。
そうすると手押し車をどう持つかが悩ましい。考えていたら、通りすがった小さな子どもが話しかけて来た。
「トトじい?」
「知り合いか?」
「うん」
「じいさんぎっくり腰だってよ」
「わぁ。治療院に連れてってくれるの?」
「ああ。そのつもりだ」
「じゃあ俺が手押し車を押すよ」
「そうか? 助かる。お使いの途中とかじゃねぇの?」
「大丈夫」
子どもが手押し車を押すが、それなりに重いらしい。車は動かなかった。まぁチビだし仕方がない。
「大丈夫か?」
「ふぬぅ、俺にならばできるぅぅぅ」
ラウリーは必死な子どもから見えないように、ちょんと足で押した。動き出せばそこまで重くはないだろう。
ラウリーは縁があって一年ほど孤児院に通っていたので、子どもの扱いにはそれなりに慣れていた。
「動いた!」
「行くぞ」
周囲が道を開けてくれるので、市場を抜けてすぐのところにある治療院へ向かった。治療院の扉は開いていたので、そのまま中に入った。
「おーい、患者。ぎっくり腰だってよ」
「ぎっくりー!」
じいさんには一大事のはずだが、子どもは楽しそうに叫んだ。
「ふぉわ! トト!」
中から出て来た人に驚かれたが、指示されたベッドに下ろした。
「トイレ行きたいなら、出ていく前に運ぶけど?」
治療院の人は皆細いので、運ぶのは大変そうだと思って聞いた。
「ふぁー! 大丈夫です!」
「そうか? 誰かに伝言は?」
このじいさんはいちいち反応がちょっとおかしい。
「市場に息子がいるので、お願いできるなら……その子が知っています」
「買い物に来たからいいよ」
子どもは腰をかがめて話を聞いていたラウリーの上に乗ろうと、何故か跳ねていた。
「案内お願い出来るか?」
「あいっ!」
抱き着いてくるのは構わないが、ラウリーの服で鼻水を拭くのは許さん。
「お前、鼻水垂れてんぞ。拭けよ」
子どもはグイっと手で鼻水を拭いた。拭くものは持っていないらしい。
「サービスな」
洗浄魔法をかけた。
「ふぉぉぉ! まほーかっけー!」
「行くぞ」
歩幅が違うので、ラウリーは片手に子どもを抱っこして道案内をしてもらうことにした。
ラウリーの顔はそこそこ怖いはずだが、怖がらないし人見知りもせずずっと話しかけてきた。人懐こい。
ラウリーの首に両手を回し、時々すりすりと頬を寄せて来る。子どもの頬はもっちもちだった。
「ここ!」
「あっ、ソン! 遅いから心配してたんだぞ! ふぉわ!」
顔が似ているのであのじいさんの息子だろうなと察しが付いた。
けれどラウリーとソンテの間で視線を泳がせているので、どう言おうかラウリーは少し迷った。
「トトじい、治療院連れてってた」
「ふぉわ?」
「ラウ兄ちゃんが運んでくれた!」
ふぉわで会話が出来るってすげぇなとラウリーは思った。
「ぎっくり腰だ。落ち着くまで寝かせておくから、昼頃に迎えに来て欲しいと言っていた」
「ふぁ、ふぁりがとうございます!」
「ラウ兄ちゃん、またねー!」
「ああ、またなソンテ」
ここに用事があったらしいソンテを置いて、お礼にと果物をもらったラウリーは買い物に戻った。
セルジュが沢山食うから、沢山買わなければ追いつかない。今日はやたらと積極的な店主たちに戸惑った。
おまけも沢山してくれた。どうもあのじいさんがこの界隈では有名人だったらしく、感謝の気持ちらしい。
空だったリュックがパンパンで、更に手で持って帰る羽目になった。有り難くはあるが、多い。
「ラウ? すげー荷物だな?」
途中でセルジュに会った。
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