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変化編
45 ここで、ここが。
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ラウリーは人の出入りが多い宿が落ち着かないのもあるが、貯金がしたくて宿から賃貸に移った。
南側で思っていたより搾取されていて、西部の一般的な冒険者に比べて貯金額が少なかった。
それからはかなり本気で貯金に励んでいる。何故なら、そこまで長く冒険者を続けないつもりだったからだ。
相手が必要なので自分だけでは決められないが、それなりの年齢になったら子どもが欲しい。
温かい家庭を作って、マオじいちゃんがしてくれたように子どもを愛情たっぷりに育てたい。
マオじいちゃんを早くに亡くしたからか、子どもを置いて死ぬような危険性は極力排除したかった。
そうなると相手が見付かって子を授かれば、命懸けの冒険者を続ける気はラウリーには無かった。
才能があってじいちゃんが褒めてくれたし、生活の手段としても最適だったから冒険者の道を選んだ。
無力な自分が嫌で強くなることに憧れもあったし、自分がどこまで行けるかも知りたかった。
中央都市にはオイデンのような育成システムはなく、完全な実力主義。
だからロイは指導の傍ら、元中央都市の冒険者として活動していたギルド長から指導を受けている。
声がかからない理由を知りたくて時間をもらってギルド長に聞いたら、やめておけと言われた。
「俺に見込みはないと?」
「いや、このまま努力すれば行けるだろう。魔法だけならもう中央都市でも充分に通用する。ただな。あそこには化け物が沢山いるんだよ」
化け物とは、他の冒険者と一線を画する冒険者のことを言う。
「稼げないってことですか?」
「いや。ここよりは稼げる。……嫌なことを言うが、いいか?」
「はい。聞きに来たのは俺ですから」
「化け物級ではないのは自分でもわかっているとは思うが、経験さえ積めば中央都市で活躍出来る。だけどな、問題はその容姿だ」
「……見た目?」
「性格に難があっても化け物は中央都市に行けちまう。まともな化け物がヤばい化け物を抑えてはいる。けれど四六時中ラウリーとは一緒にいれない」
狩る魔物が違えば、行く狩り場も当然異なる。無理に付いて行けば、簡単に命を落とすような場所。
だから日中は別行動になると、気まずそうにギルド長は話続けた。ラウリーも段々察しては来た。
「お前は多分、化け物の誰かに監禁されるか殺されるかだ。それを覚悟で行くなら止めない。ラウリーの容姿は目立ち過ぎるんだよ」
「ギルド長は俺がそうなる確率は、どれくらいだと思いますか」
「……ほぼ確実に。一か月冒険者活動が出来ればいい方じゃないか」
「……」
「俺は後悔している事がある。ギルド長になってしばらくした頃、人目を惹く容姿の冒険者を知人に預けた」
その人はその知人が狩りに行っている最中に狩り場で行方不明になり、未だに見付かっていない。
魔物によるトラブルなら、普通は血痕やらの何らかの遺留品が残る。けれど何も痕跡が残されていなかった。
その人は警戒心が強く慎重な人で、避難所の近くを狩り場にしていた。
救助制度があるのに、何も残さずに消える様な人ではないらしい。
「個人で楽しむ為に監禁する奴がいるとは知っていた。何処かに売り飛ばしている奴がいるのも知っていた。知人も責任を感じて探してくれた。けどな、そいつは今も見付からない」
売買なら関係者がいるので痕跡は残りやすい。だから個人に監禁されている可能性が高いと言う。
森で人目に晒されずにさらうなんて朝飯前。森での行方不明者は、魔物による可能性も否定できない。
「証拠がなくても、怪しい奴の部屋に無理矢理押し入ることは出来る。でもなぁ、目を付けられないようにするのが一番の予防策なんだ」
過去に行方不明になった人を探し、仲間を連れて争う覚悟で救出に向かった事があった。
けれど救出に行った側にも死傷者が出て、救出された人は数日後に自殺したそうだ。
自殺した人は動けなくなる毒を何度も使われた上で、手と足の腱を切られて監禁されていた。
冒険者としての復帰は絶望的。発見当時も酷い状態だったそうだ。
「毒の使われ過ぎもあって心がもう壊れていたんだ。中央都市としても幾らも対策を講じている。住民はかなりそれで守られてもいる。でも、冒険者は森に狩りに出るだろう?」
ラウリーは吐き気がした。
「俺が憧れていた場所ではないようですね」
「憧れるだけの場所であることは間違いない。行っていた俺が言うんだからそれは信じてくれ。だが今は、化け物に怪しい奴が多過ぎる」
ギルド長が現役だった時は怪しいのは一人しかいなくて、持ち回りで周囲の人が監視していたそうだ。
「ロイさんは大丈夫なんですか?」
「誰でも危険ではあるが、ロイの容姿はその他大勢だ。本人も俺の話を聞いた上で覚悟を決めている」
ラウリーはそれを聞いて、自分の限界はオイデンだと悟った。
無理をして命を落とせば家庭をもつことが出来ないし、監禁されて死ぬことも許されない人生は嫌だった。
ラウリーは自分の冒険者としての終着点をオイデンに決めた。ここでいいし、ここは居心地がいい。
そういう人生が嫌で故郷から出奔したのだ。わざわざ似た危険がある場所に行く必要はない。
「化け物が中央都市を出た時は連絡が来る。必ず伝えるから、その間は俺の指示に従え。あいつらなりに中央都市を楽しんでいるし、西部出身は少ないから滅多にないがな」
「心遣い、感謝します」
ラウリーの冒険者としての道はここまで。
「ラウリー、ここでの頂点は変わらず目指せよ」
「……そうですね」
南側で思っていたより搾取されていて、西部の一般的な冒険者に比べて貯金額が少なかった。
それからはかなり本気で貯金に励んでいる。何故なら、そこまで長く冒険者を続けないつもりだったからだ。
相手が必要なので自分だけでは決められないが、それなりの年齢になったら子どもが欲しい。
温かい家庭を作って、マオじいちゃんがしてくれたように子どもを愛情たっぷりに育てたい。
マオじいちゃんを早くに亡くしたからか、子どもを置いて死ぬような危険性は極力排除したかった。
そうなると相手が見付かって子を授かれば、命懸けの冒険者を続ける気はラウリーには無かった。
才能があってじいちゃんが褒めてくれたし、生活の手段としても最適だったから冒険者の道を選んだ。
無力な自分が嫌で強くなることに憧れもあったし、自分がどこまで行けるかも知りたかった。
中央都市にはオイデンのような育成システムはなく、完全な実力主義。
だからロイは指導の傍ら、元中央都市の冒険者として活動していたギルド長から指導を受けている。
声がかからない理由を知りたくて時間をもらってギルド長に聞いたら、やめておけと言われた。
「俺に見込みはないと?」
「いや、このまま努力すれば行けるだろう。魔法だけならもう中央都市でも充分に通用する。ただな。あそこには化け物が沢山いるんだよ」
化け物とは、他の冒険者と一線を画する冒険者のことを言う。
「稼げないってことですか?」
「いや。ここよりは稼げる。……嫌なことを言うが、いいか?」
「はい。聞きに来たのは俺ですから」
「化け物級ではないのは自分でもわかっているとは思うが、経験さえ積めば中央都市で活躍出来る。だけどな、問題はその容姿だ」
「……見た目?」
「性格に難があっても化け物は中央都市に行けちまう。まともな化け物がヤばい化け物を抑えてはいる。けれど四六時中ラウリーとは一緒にいれない」
狩る魔物が違えば、行く狩り場も当然異なる。無理に付いて行けば、簡単に命を落とすような場所。
だから日中は別行動になると、気まずそうにギルド長は話続けた。ラウリーも段々察しては来た。
「お前は多分、化け物の誰かに監禁されるか殺されるかだ。それを覚悟で行くなら止めない。ラウリーの容姿は目立ち過ぎるんだよ」
「ギルド長は俺がそうなる確率は、どれくらいだと思いますか」
「……ほぼ確実に。一か月冒険者活動が出来ればいい方じゃないか」
「……」
「俺は後悔している事がある。ギルド長になってしばらくした頃、人目を惹く容姿の冒険者を知人に預けた」
その人はその知人が狩りに行っている最中に狩り場で行方不明になり、未だに見付かっていない。
魔物によるトラブルなら、普通は血痕やらの何らかの遺留品が残る。けれど何も痕跡が残されていなかった。
その人は警戒心が強く慎重な人で、避難所の近くを狩り場にしていた。
救助制度があるのに、何も残さずに消える様な人ではないらしい。
「個人で楽しむ為に監禁する奴がいるとは知っていた。何処かに売り飛ばしている奴がいるのも知っていた。知人も責任を感じて探してくれた。けどな、そいつは今も見付からない」
売買なら関係者がいるので痕跡は残りやすい。だから個人に監禁されている可能性が高いと言う。
森で人目に晒されずにさらうなんて朝飯前。森での行方不明者は、魔物による可能性も否定できない。
「証拠がなくても、怪しい奴の部屋に無理矢理押し入ることは出来る。でもなぁ、目を付けられないようにするのが一番の予防策なんだ」
過去に行方不明になった人を探し、仲間を連れて争う覚悟で救出に向かった事があった。
けれど救出に行った側にも死傷者が出て、救出された人は数日後に自殺したそうだ。
自殺した人は動けなくなる毒を何度も使われた上で、手と足の腱を切られて監禁されていた。
冒険者としての復帰は絶望的。発見当時も酷い状態だったそうだ。
「毒の使われ過ぎもあって心がもう壊れていたんだ。中央都市としても幾らも対策を講じている。住民はかなりそれで守られてもいる。でも、冒険者は森に狩りに出るだろう?」
ラウリーは吐き気がした。
「俺が憧れていた場所ではないようですね」
「憧れるだけの場所であることは間違いない。行っていた俺が言うんだからそれは信じてくれ。だが今は、化け物に怪しい奴が多過ぎる」
ギルド長が現役だった時は怪しいのは一人しかいなくて、持ち回りで周囲の人が監視していたそうだ。
「ロイさんは大丈夫なんですか?」
「誰でも危険ではあるが、ロイの容姿はその他大勢だ。本人も俺の話を聞いた上で覚悟を決めている」
ラウリーはそれを聞いて、自分の限界はオイデンだと悟った。
無理をして命を落とせば家庭をもつことが出来ないし、監禁されて死ぬことも許されない人生は嫌だった。
ラウリーは自分の冒険者としての終着点をオイデンに決めた。ここでいいし、ここは居心地がいい。
そういう人生が嫌で故郷から出奔したのだ。わざわざ似た危険がある場所に行く必要はない。
「化け物が中央都市を出た時は連絡が来る。必ず伝えるから、その間は俺の指示に従え。あいつらなりに中央都市を楽しんでいるし、西部出身は少ないから滅多にないがな」
「心遣い、感謝します」
ラウリーの冒険者としての道はここまで。
「ラウリー、ここでの頂点は変わらず目指せよ」
「……そうですね」
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