とある冒険者セルジュ

相伽

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出会い編

17 土下座される。

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「抱いてくれないだろうか」

 何事かと思っていたけれど、本当に何事? とラウリーは唖然とした。

「えっ、何で?」

 ロイはセルジュよりも更に一回りは体が大きく、より筋肉質。
 勝手にタチだと思っていたが、腰布は確かにネコ? だったのか……? 思わず何故か聞いてしまった。

「私は自分がタチなのかネコなのかがわからないのだ。だからネコに評判のドSのタチに興味があってだな」

 誰も抱いたことはないが、確かに評判だけは滅茶苦茶いいらしいなとラウリーは思った。
 何故かラウリーのタチの評判が独り歩きをしており、ネコからのお誘いが日々絶えない。

 冒険者は体力もあるし、性欲が強い奴も多い。皆気軽に誘って性欲を発散しようとする。
 その考えはラウリーも同じなのでいいのだが、タチとしての評判が良過ぎて辛かった。ネコだもの。

「……すみません、パスで」

 タチもネコもお互いに気軽に声をかけるため、恥をかかせない断り方というものが確立されている。
 相手を否定せず、自分の都合が無理な感じに断るのがマナーだ。それで定着している言葉がパスか今度ねだ。

 土下座で頼まれている状況で、あまり意味はない気はするが。
 尊敬し始めた先輩に恥をかかせたくないという気持ちもあるが、ネコなラウリーにはどうやっても無理だ。
 抱かせてくれなら、まだ。厳めしい顔はラウリーの好みではないが、人格者なのでなんとかなるだろう。

「どうしても、駄目だろうか」
「一度だけでも構わんのだ」
「今日でなくてもいい」

「えっ、無理……」

「そうか、残念だ」

 押しの強さについ本音が出た。タチとして無理以前に、ラウリーは抱けない。純然たるネコだから。
 恥をかかせたのにキレられなくてほっとはするが、フォローはしておこうと思った。

「えーと、悩む時点でネコとは言い難い、かと。どちらか決めずに相手によって決めたらどうですか」

「……相手がいないのだ。だからどちらに声をかければいいのか」

「……はぁ。シたくなった時に、シたい方でいいんじゃないですか」

「それも、よくわからず……」

 ロイはいい人だが、相手選びの最優先に体の関係を持ってくるところが間違っている気がする。
 発散目的だとしても人となりも見て欲しい。それに本当にどちらでもいいのなら、むしろ選択の幅は広がると思うのだが。

「見た目や性格で選んで、相手の要望に合わせたら……?」

「そうか、その手があったか!」

 新しい気付き!! とばかりに勢いよく立ち上がったロイの腰布が、風に吹かれて何もかも丸出しだった。
 当たり前のことを言っただけのラウリーは、感謝されていたとしてもスンッとなった。

「流石モテ男だ!!」

 ロイはラウリーの両肩をばんばん激しく叩いた。丸出しで。やっぱりまずは腰布をどうにかすべきだと思う。

「ところで私はモテないのだが、どうしたらモテるようになると思う?」

「……多分それ、腰布のせい」

 ロイはさっと目を逸らした。腰布は変えたくないらしい。露出狂か?
 実力に問題はない以上に素晴らしい人なので、誘われれば有難く一緒に仕事をさせてもらう。

 だが、腰布は気になる。

 新しくオイデンに来た冒険者も、何度もマジかよ!? って感じで見ている。ラウリーも最初はそうだった。
 オイデンの住人は既に慣れているようだし、流石に町中ではロイも丸出しにならないように気を付けている。

 ネコとしてネコの気持ちを考えるなら、あれだけ堂々と丸出しされていると声をかけにくい。とっても。
 それ以前に誘いたいともラウリーは思わない。もっと普通な人がいい。二人になった途端、思いもしない性癖を暴露されそうで怖い。
 大変失礼だが、尊敬すればするほど知りたくないこともある。他の人にも土下座をしているなら……他にも?

「すみません、人前で!」

 ラウリーはセルジュがいることを今思い出した。驚き過ぎて存在を忘れていた。かなり不味い。

「構わない。セルジュにはもう土下座をした後だ」

「えっ」

 ついセルジュを見ると、目を逸らされた。好みまではまだ詳しくないが、多分可愛い系だと思う。
 だけど多分恥をかかせてはならないと抱いた気がした。多分。そんな雰囲気がセルジュからする。
 もし抱かせてくれと言われていたら、多分ラウリーもそうしたと思うから余計に。

 ラウリーはこれ以上、この話題を深堀したくはなかった。だから賢明なラウリーは黙る事にした。なのに。

「なぁ、俺の定宿で、飯を食おうぜ」

 セルジュにがっちりと肩を掴まれ、宿まで連行された。
 ロイとセルジュの話も聞きたくないというラウリーの願いは、諦めるしかなさそうだった。

 セルジュが用意してくれた飯は普通な感じで、嫌な話を聞く対価にはちょっと足りない感じ。
 けれどすぐに対価について考えるのは悪い癖だと思うようになったので、話を聞く姿勢にはしてみた。

「恥をかかせまいと思ってな」

「あーうん。頑張ったね」

 幸いセルジュは詳細を話すことはなかった。
 ロイも土下座してまで頼む相手は選んでいるようで安心した。そうでなければ噂になっているだろう。

「ロイさんはいい人だし、絶対にモテないのは腰布のせいだよな?」

 セルジュが遠い目で言う。

「俺もそう思う。誘っているとか誘われているとかじゃなくて、何か変態臭が凄い」

「それなっ!!」

 タチのセルジュにそう思われる変態臭となると、大分重症な気がした。
 詳細は絶対に聞きたくないので聞かないが、抱いた時にも感じるところがあったのだろう。

 それから腰布の話になったので、普通に話せた。

 それからセルジュとはよく一緒に飯を食い、共闘もする仲になった。
 セルジュはいい奴だし、ロイに感謝すべきなのか? するべきなんだろうが、素直に感謝できない何か。
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