とある冒険者セルジュ

相伽

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若気の至り編

02 現状と不満

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 セルジュが立てた物音に寄って来たゴブリンの顔を拳で殴る。ゴブリンはそのまま吹っ飛んで気絶した。
 遺体を放置すると腐敗して色々と面倒なことになるので、人通りの多い場所では殺した後の処理が必須。

 けれどセルジュの火魔法では森に延焼する可能性がある。そうなると毎回穴を掘って埋めなければいけない。
 それがセルジュは面倒なので、殴って気絶させることにしている。

「本当に四方八方からゴブリンが湧いて来るな……。金にならないのに」

 時々ゴブリンを殴りながら、セルジュは狩り場に到着した。ここには豚がよく来る。
 セルジュが探索魔法で周囲の安全を確認していると、腰布の中にスライムが飛びついて来たので払った。

 スライムは服を溶かし、ゴブリンなどは服を破る。だからズボンは側面だけに生地があり、陰茎から臀部にかけて生地はない。
 その上から腰布を巻いているが、スライムはちゃんと腰布の下に飛びついてくるし、二足にも腰布をめくるくらいの知能はある。

「ブヒッ」

「おっ、豚が来たな」

 ブラブラしていたらお目当ての豚が来た。

「ブヒッブヒッブヒッーーー」

 豚は人を見ると突進してくる。

 バチィィィン!! 顔は多少潰れても買取金額は変わらないので、思い切り顔面を剣で鞘ごと殴ればいい。

「ブヒヒィ……」

 気絶して倒れた豚を、荷物から出したロープと棒で逆さにして吊り上げる。こうしておけば目が覚めても豚は何も出来ない。
 肉は鮮度がいい方が美味しいので、このままギルドに提出する。豚を担いで帰路についた。

「あっ、セルジュ兄ちゃん! 一緒に帰ってもいい?」

「おう」

 どこの誰だか知らないが、こういう事はたまにある。一種の慈善事業になるので嫌なら断ればいい。
 十五歳未満でも一人で森に入るのは、家が貧しい証拠だ。この子もかばん一杯に森の恵みが入っている。

 敢えて一人で入るのは、普通の人はゴブリンに掘られているところを人に見られたくないからだ。
 危険はあるが、ここまで浅いと四つ足も滅多に来ないからと常態化している。

「でも俺は豚を担いでいて片手は塞がっているから、アナルにスライムは入れたままにしとけよ」

「うん!」

 そのまま連れ立ってゆっくり歩く。セルジュは歩幅も広いので、普通に歩くと置いて行ってしまう。

「なんかさっきからゴブリンがざわついている感じがして、嫌な感じだったんだよ」

「あー、少し入った先でお愉しみの奴がいた影響だろうな。順番待ちされてたし」

「はぁ、ほんと迷惑。ヤリモクはもっと森の奥に行って欲しいよ」

「ーーーーーーーーーー!!」

 微かにではあるが嬌声が聞こえた。

「急ごう。面倒だ」

「うん! ほんと迷惑!」

「だな」

 慌てて二人で走るように森から離れた。あれだけ大きな声を上げれば、聞こえる範囲にいたゴブリンが声の場所を目指して集まる。
 午前中にもう一度行ける時間ではあったが、今行くとゴブリンがいて面倒なので止めた。ギルドで迷惑行為の報告だけはしておいた。

「誰かわかるか?」

「うーん、見たことあるような気もするんだが、金髪で小柄だったと思う」

「ちゃんと見て来いよ!」

「ただ掘られてただけの段階で、ジロジロ見たりしねぇよ」

「まぁそうだな。情報ありがとう。注意喚起しとくわ」

「おう」

 午後にもう一度別のルートから森に入ったが、また豚しか捕まえられなかった。だがこれでも、町全体でも収入は良い方になる。

「今日も剣さえ抜かなかったな……」

 ギルドを出ると、「今夜僕とどう?」と声をかけられた。
 セルジュはタチで、声を掛けて来たのはネコ。彼とは既に何度か関係を持っている。

 セルジュは体格が良く金の短髪に碧眼。この町に金髪碧眼は多いが結腸に届くからか、こういう誘いは多い。
 今日はあの男のせいで森に入る回数が減り運動不足だし、もやもやした気分は別のことで発散させればいい。

「いいぜ」

「っお風呂入って待ってるから」

「おう、飯食ってから行くわ」

 行けばアナルには既にスライムを入れて準備万端だったので、ハメてと言う願い通りに結腸にハメた。
 セルジュが射精するまでに何度もイっていたので、悪くはなかっただろう。日付が変わる前に家に戻り、自分のベッドに入った。

 冒険者になって半年。森での行動には慣れて来た。まだ半年とも言えるがこのままここに居ても、という気持ちがある。
 もっと大きな町へ移動すれば、もっと強い魔物も冒険者もいる。最終目標はやはり西で一番大きな町のオイデンだと思っている。
 それをどのルートで目指すか。

「明日は狩りに行かずにじいさんのとこに行くか」

 セルジュは翌日拠点を移したいとじいさんに相談した。

「お前ならやっていけるだろうが、慎重にな。驕った奴、油断した奴から死んでいく。忘れるなよ」

「ああ。慎重に行動する」

 ノアが渋い顔をしているのにセルジュは気が付かなかった。もう目は未来を見ていたからだ。
 ノアにしてみれば今のセルジュは驕っていた。確かにこの町では強いが、世界は広い。
 取り返しがつかなくなる前に、セルジュが気付いてくれることを心から願っていた。

「それから。お古だが持っていけ」

「いいのか?」

 この町には大した武器屋も防具屋もない。セルジュの装備は普通の服に剣を持っているだけだった。
 じいさんがくれたのは、一部金属が使われた革の胸当てだった。

「ここでは必要ないから、ほとんど処分しちまってこれくらいしか残っていない。流石に綿のシャツとパンツに腰布ではな」

「革のロングブーツも履いてるぞ」

「それじゃあなぁ、アズルでは冒険者とも思われんて」

 セルジュが目指す次の拠点はアズルだった。ここよりも三倍くらい大きな町で、各地から冒険者を目指す若者が集まってくる。

「ありがとう。大事に使うよ」

「大事になんてせんでいいから、金が貯まったらさっさと買い替えろ」

 セルジュはじいさんの前で胸当てを付けた。単純だが、自分がちょっと強くなった気がした。
 セルジュは家族以外にも多くの人に見送られて旅立った。ノアはその背中を静かに見送った。
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