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第六章 おいでよ!男性保護省の巻
第六十九話 きちゃった
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――目覚めた寧々音の変化は劇的であった。吸い寄せられるように朝日の元へふらふらと向かい。自らその手を握りしめる。先ほどまでとは別人である。
「朝日お兄様! 私たちは今日から兄妹なのね」
「えええっ!?」
こんな妹が欲しいとは言ったが……。
「だから、私はお兄様といっしょに暮らすことに決め――――あうっ」
濃紅のジト目を輝かせ、飛躍した理論を語り始める寧々音の後頭部を梅が叩く。
「ば、か、か、てめえ! どんだけだよ? んなことが許されるわけねーだろ」
「痛いわね。私とお兄様の邪魔をしないで貰えるかしら? 脳筋平面体先輩」
や、ま、と、三文字へ含みたっぷり。梅がひくついた笑顔のあちこちに血管を浮き立たせる。
「てめえ……どうやら病院送りでここから退場したいらしいな?」
寧々音の胸ぐらを掴もうとしたところで――。
「そこまでだ」
「「ふぎゃっ!?」」
矢地の両手が二人の頭をがっちりとホールドする。
「もう時間が無いと言っているだろう。大人しくして貰おうか」
「おい。ちょっと待て矢地!? このガキがうるさいだけで俺まで――」
「えっ? や、矢地教官。何を――」
「「ふんぎゃああああああっ!!」」
――二人を伸した後で、矢地は依頼主にして男性保護大臣『六宝堂弥生』へ手早く電話報告をすませる。特別訓練は見事成功? 任務完了となった。
朝日には電話口で弥生から直々に『ほんにありがとうよ坊や。お礼にこのババにできることなら、どんなわがままでも一つだけ聞いてあげるからね。いつでも言っておいで』と、謎のご褒美が進呈された。矢地曰く。冗談抜きで国の法律すら変えかねないのでご利用は計画的にとのことだ。
別れ際になっても、寧々音は朝日への妹アピールを欠かさない。引き離すのにも一苦労する有り様であった。まさにトラウマと言う鎖から解き放たれた妹属性肉食女子である。
そんな寧々音に仕方なく朝日があれこれと言い聞かせている。
「――なのでごめんね。いっしょに生活とかは無理だけど。メールくらいなら、ね?」
「む……それなら……わかったわ。お兄様がそう言うなら」
とりあえずメアド交換でしぶしぶ納得させる。
「あっ、そうだ! それに僕の妹(認定)一人目は梅ちゃんだから。これからは二人とも仲良くしてね」
「おまっ!? 何言ってんだああああああ!!」
梅、流れ弾直撃。この設定は朝日の中でまだ有効な模様だ。
「なああっ!? や、大和先輩!? 貴女お兄様より年上よね? ま、まさかっ!! 見た目がロリで中身がショタ? 悪夢。悪夢だわ! こんな変態がお兄様の側にッ!」
「あっ、姐さん? …………ハッ!? まさか、朝日さんと兄妹プレイを? そ、それは人として許されるラインを踏み越えてるっスよ!」
「うおおおいっ、そりゃ朝日がそう言ってるだけだっつーの! 本気にしてんじゃねええええええ!!」
「やれやれ、賑やかなことだな。さあ笠霧、時間だ。行くぞ」
梅への熱い風評被害はともかく。寧々音はビシリと指差しポーズを決め「私、必ず一番で卒業してSランクになる。そして、朝日お兄様の担当になるわ!」と矢地に引きずられながら宣言し、「きっと迎えに行くわ。私の朝日お兄様!」の声を響かせつつ訓練室から消えていくのであった。
――午後四時三十分。特別訓練は無事終了。矢地は寧々音をM校へ送り返し、朝日ら三人はエレベーターで移動中だ。
「ところで今日って、この後の予定はどうなってたっけ?」
「あれ? 聞いてないっスか? 夕食を兼ねて朝日さんの歓迎会があるっスよ」
本日、午後五時より催される予定だ。
「えっ? 僕の歓迎会? そうなの?」
「歓迎会と一口に言ってもあれっスよ。みんな基本的にお祭り好きっスからね」
「へっ、どうせ上の連中が宴会したい口実だろ?」
「そんな感じっス」
そう、男性保護省は警護課を中心に超体育会系女子の集まりである。この世界の体育会系女子である。お察しいただきたい。
「まあ、おかげで俺らは堂々とタダ飯とタダ酒にありつける訳だ。朝日様々って奴だな」
胃袋的にやる気満々の梅が笑顔を朝日に向ける。
「あはは。そうだね、梅ちゃんたちも楽しめるんなら僕も嬉しいし。いいんじゃないかな」
「うっし、じゃあよ。さっそく着替えてから会場に向かおうぜ。朝日を盾に飯と酒を確保すんぞ餡子!」
「姐さん……それ絶対ひんしゅくものっスよ……」
――着替えを終えた三人はすぐさま会場へ向かう。朝礼で使われた大講堂だ。学校の体育館を豪華にした場所。と言うのが朝日のイメージだったが、今はまるでホテルのパーティー会場と見紛わんばかりに改装されていた。
大講堂はほぼ一階層全てを使っている広さだが、それでも朝日や矢地たち役職者など、一部の者以外は立食パーティーとなる人数であった。会場内に全職員が集まってるのでは? と思えるほどである。
歓迎会は矢地のスピーチから始まり、乾杯の音頭は流れで朝日が振られてしまう。これまた照れと緊張から『きゃんぴゃいッ!』と可愛く噛んでしまった。それに萌え尽きて卒倒するもの、鼻血を吹き散らすものが続出したが、さすがの超体育会系。それすらもノリと勢いに変えて宴会は滞りなく進んだ――。
「えっ!? かくし芸大会……ですか?」
朝日の訪問が決まってから連日行われた課長会議。そこで検討されていたかくし芸大会は冗談でもなんでもなく。しっかり実施となっていた。
「ああ、神崎君の前で披露できるとあって各課の連中もはりきっていてな。色々と趣向も凝らしてあるので是非楽しんで欲しい」
こいつら本気である。
「へえ! それは楽しみですね。かくし芸かあ……」
朝日は高校の文化祭的なノリを想像する。手品だったり、ちょっとした曲芸だったり――そんなわけが無い! 現実は朝日の常識を超越したかくし芸と呼ぶのも憚られるものであった。
『――続きまして有志五名による瓦斬り競争です』
「えっ? か、瓦……斬り……? 割りじゃなくて?」
朝日困惑。
「そうっスね。素手で瓦を斬って切り口の鮮やかさを競うっス」
「えええええ!?」
「数割るのは誰でもできっからな」
「そうなんだ……」
――他にも。
「あっ、梅ちゃん。あれは僕でも知ってるよ。弓で頭にのせたリンゴを打ち抜くんでしょ? でも、あの弓なんか凄く危なそう……。それに距離も近いし……大丈夫なの?」
射手からの距離は十メートルも無い上に、その手に握られているのはクロスボウである。見た目でわかる危険度に朝日もドキドキだ。
「何言ってんだ朝日? そんなんでかくし芸になるかよ」
「えっ!?」
「頭のリンゴを落とさずに矢を受け止めるに決まってんだろ」
「うええええええええっ!?」
「矢を受け止めるのは簡単なんだけどよ。頭のリンゴ落とさないのが難しいんだよな。あれ」
「……ちょっと何言ってるかわからないかな」
以降も『含み五寸釘』他、世界のびっくり超人大集合的な『かくし芸』は続く。色々とドン引きしていた朝日であったが、途中からは開き直って楽しむことにした。こうして歓迎会の夜は更けて行く――。
翌朝。本日は移動日に設定されており、これで男性保護省訪問は実質終了である。混乱を避けるため出発時と同様に開庁時間前の移動となっている。朝日は少し早めに朝食を取ってから、部屋で荷物をまとめていた。
するとスマホが呼び出し音を鳴らす。梅からかと思って画面に目をやると表示はなんと『愛LOVE深夜子たん』――もちろん登録名称は深夜子のリクエスト。ひどいセンスだ。
こんなタイミングで電話とはどうしたのだろうか? と思いつつも通話に出る。
「もしもし深夜子さん。何かあったの?」
『んあああああああああ! 朝日君の声ぇ。癒されりゅううううう!』
開幕からご挨拶である。
「うえっ!? え、えと……み、深夜子さん?」
『ハッ!? あっ、ご、 ごめん。んと朝日君。そっち何時に出発?』
「えっ、出発? 八時の予定だけど……」
『おおっ! もう一時間無い。らじゃ! ありがと。んじゃ切るね』
「あっ、うん。……変なの? どうしたんだろ」
そんな深夜子からの謎の電話を終えて、再び荷物の準備を進める。
――少し時間は経過して、ただいま午前七時四十分。帰りの準備も完了し、一息ついた頃合いで部屋の呼び出しが鳴る。どうやら梅も帰り支度がすんで迎えに来たようだ。朝日は荷物を手に持って扉を開ける。
「はいはーい。梅ちゃん僕も準備できて――」
「やっほ、朝日君。来ちゃった」
「えっ!?」
電話を切ってからここまで三十分強しか経過していないはず。驚きに固まる朝日の目の前に、見慣れたスーツ姿で黒髪セミロング。猛禽類を思わす鋭い目の女性――寝待深夜子が満面の笑みを浮かべて立っていた。
「朝日お兄様! 私たちは今日から兄妹なのね」
「えええっ!?」
こんな妹が欲しいとは言ったが……。
「だから、私はお兄様といっしょに暮らすことに決め――――あうっ」
濃紅のジト目を輝かせ、飛躍した理論を語り始める寧々音の後頭部を梅が叩く。
「ば、か、か、てめえ! どんだけだよ? んなことが許されるわけねーだろ」
「痛いわね。私とお兄様の邪魔をしないで貰えるかしら? 脳筋平面体先輩」
や、ま、と、三文字へ含みたっぷり。梅がひくついた笑顔のあちこちに血管を浮き立たせる。
「てめえ……どうやら病院送りでここから退場したいらしいな?」
寧々音の胸ぐらを掴もうとしたところで――。
「そこまでだ」
「「ふぎゃっ!?」」
矢地の両手が二人の頭をがっちりとホールドする。
「もう時間が無いと言っているだろう。大人しくして貰おうか」
「おい。ちょっと待て矢地!? このガキがうるさいだけで俺まで――」
「えっ? や、矢地教官。何を――」
「「ふんぎゃああああああっ!!」」
――二人を伸した後で、矢地は依頼主にして男性保護大臣『六宝堂弥生』へ手早く電話報告をすませる。特別訓練は見事成功? 任務完了となった。
朝日には電話口で弥生から直々に『ほんにありがとうよ坊や。お礼にこのババにできることなら、どんなわがままでも一つだけ聞いてあげるからね。いつでも言っておいで』と、謎のご褒美が進呈された。矢地曰く。冗談抜きで国の法律すら変えかねないのでご利用は計画的にとのことだ。
別れ際になっても、寧々音は朝日への妹アピールを欠かさない。引き離すのにも一苦労する有り様であった。まさにトラウマと言う鎖から解き放たれた妹属性肉食女子である。
そんな寧々音に仕方なく朝日があれこれと言い聞かせている。
「――なのでごめんね。いっしょに生活とかは無理だけど。メールくらいなら、ね?」
「む……それなら……わかったわ。お兄様がそう言うなら」
とりあえずメアド交換でしぶしぶ納得させる。
「あっ、そうだ! それに僕の妹(認定)一人目は梅ちゃんだから。これからは二人とも仲良くしてね」
「おまっ!? 何言ってんだああああああ!!」
梅、流れ弾直撃。この設定は朝日の中でまだ有効な模様だ。
「なああっ!? や、大和先輩!? 貴女お兄様より年上よね? ま、まさかっ!! 見た目がロリで中身がショタ? 悪夢。悪夢だわ! こんな変態がお兄様の側にッ!」
「あっ、姐さん? …………ハッ!? まさか、朝日さんと兄妹プレイを? そ、それは人として許されるラインを踏み越えてるっスよ!」
「うおおおいっ、そりゃ朝日がそう言ってるだけだっつーの! 本気にしてんじゃねええええええ!!」
「やれやれ、賑やかなことだな。さあ笠霧、時間だ。行くぞ」
梅への熱い風評被害はともかく。寧々音はビシリと指差しポーズを決め「私、必ず一番で卒業してSランクになる。そして、朝日お兄様の担当になるわ!」と矢地に引きずられながら宣言し、「きっと迎えに行くわ。私の朝日お兄様!」の声を響かせつつ訓練室から消えていくのであった。
――午後四時三十分。特別訓練は無事終了。矢地は寧々音をM校へ送り返し、朝日ら三人はエレベーターで移動中だ。
「ところで今日って、この後の予定はどうなってたっけ?」
「あれ? 聞いてないっスか? 夕食を兼ねて朝日さんの歓迎会があるっスよ」
本日、午後五時より催される予定だ。
「えっ? 僕の歓迎会? そうなの?」
「歓迎会と一口に言ってもあれっスよ。みんな基本的にお祭り好きっスからね」
「へっ、どうせ上の連中が宴会したい口実だろ?」
「そんな感じっス」
そう、男性保護省は警護課を中心に超体育会系女子の集まりである。この世界の体育会系女子である。お察しいただきたい。
「まあ、おかげで俺らは堂々とタダ飯とタダ酒にありつける訳だ。朝日様々って奴だな」
胃袋的にやる気満々の梅が笑顔を朝日に向ける。
「あはは。そうだね、梅ちゃんたちも楽しめるんなら僕も嬉しいし。いいんじゃないかな」
「うっし、じゃあよ。さっそく着替えてから会場に向かおうぜ。朝日を盾に飯と酒を確保すんぞ餡子!」
「姐さん……それ絶対ひんしゅくものっスよ……」
――着替えを終えた三人はすぐさま会場へ向かう。朝礼で使われた大講堂だ。学校の体育館を豪華にした場所。と言うのが朝日のイメージだったが、今はまるでホテルのパーティー会場と見紛わんばかりに改装されていた。
大講堂はほぼ一階層全てを使っている広さだが、それでも朝日や矢地たち役職者など、一部の者以外は立食パーティーとなる人数であった。会場内に全職員が集まってるのでは? と思えるほどである。
歓迎会は矢地のスピーチから始まり、乾杯の音頭は流れで朝日が振られてしまう。これまた照れと緊張から『きゃんぴゃいッ!』と可愛く噛んでしまった。それに萌え尽きて卒倒するもの、鼻血を吹き散らすものが続出したが、さすがの超体育会系。それすらもノリと勢いに変えて宴会は滞りなく進んだ――。
「えっ!? かくし芸大会……ですか?」
朝日の訪問が決まってから連日行われた課長会議。そこで検討されていたかくし芸大会は冗談でもなんでもなく。しっかり実施となっていた。
「ああ、神崎君の前で披露できるとあって各課の連中もはりきっていてな。色々と趣向も凝らしてあるので是非楽しんで欲しい」
こいつら本気である。
「へえ! それは楽しみですね。かくし芸かあ……」
朝日は高校の文化祭的なノリを想像する。手品だったり、ちょっとした曲芸だったり――そんなわけが無い! 現実は朝日の常識を超越したかくし芸と呼ぶのも憚られるものであった。
『――続きまして有志五名による瓦斬り競争です』
「えっ? か、瓦……斬り……? 割りじゃなくて?」
朝日困惑。
「そうっスね。素手で瓦を斬って切り口の鮮やかさを競うっス」
「えええええ!?」
「数割るのは誰でもできっからな」
「そうなんだ……」
――他にも。
「あっ、梅ちゃん。あれは僕でも知ってるよ。弓で頭にのせたリンゴを打ち抜くんでしょ? でも、あの弓なんか凄く危なそう……。それに距離も近いし……大丈夫なの?」
射手からの距離は十メートルも無い上に、その手に握られているのはクロスボウである。見た目でわかる危険度に朝日もドキドキだ。
「何言ってんだ朝日? そんなんでかくし芸になるかよ」
「えっ!?」
「頭のリンゴを落とさずに矢を受け止めるに決まってんだろ」
「うええええええええっ!?」
「矢を受け止めるのは簡単なんだけどよ。頭のリンゴ落とさないのが難しいんだよな。あれ」
「……ちょっと何言ってるかわからないかな」
以降も『含み五寸釘』他、世界のびっくり超人大集合的な『かくし芸』は続く。色々とドン引きしていた朝日であったが、途中からは開き直って楽しむことにした。こうして歓迎会の夜は更けて行く――。
翌朝。本日は移動日に設定されており、これで男性保護省訪問は実質終了である。混乱を避けるため出発時と同様に開庁時間前の移動となっている。朝日は少し早めに朝食を取ってから、部屋で荷物をまとめていた。
するとスマホが呼び出し音を鳴らす。梅からかと思って画面に目をやると表示はなんと『愛LOVE深夜子たん』――もちろん登録名称は深夜子のリクエスト。ひどいセンスだ。
こんなタイミングで電話とはどうしたのだろうか? と思いつつも通話に出る。
「もしもし深夜子さん。何かあったの?」
『んあああああああああ! 朝日君の声ぇ。癒されりゅううううう!』
開幕からご挨拶である。
「うえっ!? え、えと……み、深夜子さん?」
『ハッ!? あっ、ご、 ごめん。んと朝日君。そっち何時に出発?』
「えっ、出発? 八時の予定だけど……」
『おおっ! もう一時間無い。らじゃ! ありがと。んじゃ切るね』
「あっ、うん。……変なの? どうしたんだろ」
そんな深夜子からの謎の電話を終えて、再び荷物の準備を進める。
――少し時間は経過して、ただいま午前七時四十分。帰りの準備も完了し、一息ついた頃合いで部屋の呼び出しが鳴る。どうやら梅も帰り支度がすんで迎えに来たようだ。朝日は荷物を手に持って扉を開ける。
「はいはーい。梅ちゃん僕も準備できて――」
「やっほ、朝日君。来ちゃった」
「えっ!?」
電話を切ってからここまで三十分強しか経過していないはず。驚きに固まる朝日の目の前に、見慣れたスーツ姿で黒髪セミロング。猛禽類を思わす鋭い目の女性――寝待深夜子が満面の笑みを浮かべて立っていた。
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