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第六章 おいでよ!男性保護省の巻
第五十九話 おいでよ!男性保護省
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結論からすると朝日の訪問は大歓迎とのことだった。何せ保護男性が訪問するという好意的行為は男性保護省のイメージアップとして内外へのアピール効果も充分。さらにはMapsたちを筆頭に特務部職員の士気向上に繋がると矢地もノリノリで対応してくれたそうだ。
「――詳細はまた詰めますが、朝日様にしっかりと男性保護省を視察いただきたいと矢地課長からの申し入れで二泊三日の行程予定ですわ」
「んなっ!? 二泊!?」
その言葉に反応して、妄想世界から深夜子が帰還を果たす。
「むう、三日も朝日くんのいない生活なんて……あたし死ぬかも」
「ちょっと深夜子さん、それは大げさだよ」
どうも深夜子の頭の中では一泊二日予定だったらしく不満を口にする。朝日も苦笑いで受け流そうとするが深夜子は納得できないのか愚痴を続ける。
「あたしにとって朝日君は、酸素よりも――」
「ご心配なく、深夜子さん」
そんな深夜子の目の前に五月の手によってドサリ! と置かれたのは日報を始めとする書類の山である。
「ふえっ!?」
「ここ三ヶ月分くらいですわね。深夜子さんがご担当された日報や報告書――再提出でたっぷりと返って来ておりますわ。あら? あらあら? 来週三日間もお暇があってよろしかったですわねー」
これには五月さんもニッコリ。
「ちょっ!? これ!?」
「もちろん! 何があっても絶対に来週中に再提出するようにと、矢地課長からしっかり言伝いただいておりますわ。あっ、それに一回私のチェックが入る大サービス付きですの」
先ほどまでの不満顔はどこへやら、さっーと青ざめた深夜子は涙目で朝日へと顔を向ける。
「……朝日君……あ、あたし死ぬかも……」
「あー、うん。頑張ってね深夜子さん」
「ぎゃはは! まあ頑張れよ深夜子。せっかく――」
「大和さん」
「あん? 何だよ?」
「二泊三日の行程になったのは、貴女が半日缶詰で書類再提出のお時間が必要になるのも一因でしてよ」
「んなにいいいいいいいっ!?」
すでに先が思いやられる梅と朝日の社会見学デート。数日後に出発である。
――一方、朝日訪問が決定した男性保護省特務部に激震走る。
「いったい何が始まるんです?」
「第一次男性訪問だ」
深夜子たちMapsが所属する警護課の課長矢地亮子を始めとして、その他の課長から主任まで役職者総勢で緊急会議勃発である。
本日は木曜日、そして朝日訪問は週明けの月曜日。これは土日返上確定コースだ。しかしながら、五月から連絡を受けて男性視察を即断即決した矢地に対しては『サンキューヤッチ』と称賛が飛ぶあたり、実にこの世界らしいと言うべきか……。
事実、過去に男性側からの申し入れで視察訪問があった記録は存在しない。それが好意的理由ともなれば、男性保護省の歴史に残るであろう一大慶事だ。その立役者となれる役職者たちのテンションは実に高かった。
土日を通して連日行われた緊急会議。最初は真っ当に男性滞在中の安全対策検討から始まったのだが――無駄に高いテンションが災いして、気がつけば”歓迎会”と称した隠し芸大会と言う実に頭の悪いイベントが真面目に検討されるあたりもこの世界らしいと言うべきだろう。
さて、そんな会議の合間をぬって矢地は課長室に一人のMapsを呼び出していた。
「えええええっ!? じっ、自分がヘルプっスか!?」
「そうだ。ヘルプの指名は警護任務中の者に優先権があるからな……梅――いや、大和から君をヘルプにと連絡があった」
「うひょおおおっ! や、やったーーーーっ!!」
身長は170センチ程度、茶髪のおだんごショートヘアーで犬のような愛嬌ある顔の女性がガッツポーズを決めている。
彼女の名前は『餅月餡子』梅が可愛いがっている同い年ながら一期下の後輩だ。必然、深夜子と同期の間柄で仲の良かったCランクMapsである。餡子は期せずして朝日の滞在期間中、行動を共にする役割をゲットしたのであった。
「うおーーっ!! やっぱり持つべきものは姐さんっス。ヤバいっス! 噂の美少年の身辺警護ができるなんて夢みたいっス!」
「ああ、気持ちはわかるがはしゃぐのはここだけにしておけ。当日まで黙っておくことを勧めるぞ。何せ募集もしてないのに、どこから聞きつけたか知らんが……神崎君のヘルプ希望を私に直談判しにきた連中は山といる」
「も、もちろん了解っス。自分も死にたくないっスから……」
「うむ」
ちなみに先ほど話に出た『ヘルプ』と言う言葉。これはMapsたちの業界用語で仕事内容を表す言葉である。病欠などによる穴埋めや交代、そういった数日間の任務を『ヘルプ』と呼んでいる。
ヘルプは単発、短期ながら、男性の御眼鏡に適うと追加人員として雇われる場合も稀にあり、意外と馬鹿に出来ない仕事と言うのがMapsたちの常識だ。しかし、今回のヘルプは特に注目度が高い理由が別にあった。
人の口に戸は立てられぬ。男性訪問については開示情報なのだが……内部故の情報規制の甘さか、本来役職者のみでしか共有してなかった朝日個人の情報が噂レベルながらも出回ってしまった。
その内容は――。
『どうもやってくる男性はかなりの美少年らしい』
『しかも何やら女性に結構好意的らしい』
『とどめに十七歳未婚(最重要)らしい』
――などと、なんだか期待に胸膨らむ内容であった。
大半の者は噂に背ビレ尾ビレがついた女性たちの希望的観測だと笑って聞いた。しかし、それでも次の任務待ちをしているくらいなら……と矢地の元に向かった者も出たのだ。
そして実物が背ビレ尾ビレどころか、噂にフィンファンネルとサテライトキャノン装備レベルであることを彼女らは知らない。
――出発当日、朝日家の玄関。
現在、朝日にまとわりつく往生際の悪い者が約一名。
「うう……あ、あしゃひくん。行かないでー、行かないでぇー」
「あー、えーと……み、深夜子さん。僕が行かなくてもさ……あのお仕事はしなくちゃいけないんじゃないかな?」
半べそで足にまとわりついてくる社会人女性(十九歳)を優しく諭す男子高校生(十七歳)の図。
「あ、朝日君が居てくれれば……朝日君に五月の機嫌とって貰って、あとタイミング見てなんか理由をつけて頼んだら……五月仕事してくれるからー」
「よくも本人を目の前に堂々とその発言ができますわね……」
「むしろ清々しいな……どんだけ冷静さ失ってんだよ!? つか俺だって向こうで半日缶詰め確定だっつーの」
ごもっとも。
「はうううう……地獄。これから地獄の三日間が……悪魔が、五月が待ってるうううう」
「誰が悪魔ですのっ!? そもそも自業自得ですわよねっ!」
「しょうがないなあ。じゃあ深夜子さん――」
しつこくグズる深夜子を見かねたらしく、朝日が耳元で何やらボソボソと耳打ちをする。するとその猛禽類のような目がたちまち大きく見開いたかと思うと、凄まじい勢いで跳ねるように立ち上がった。
「さささ五月!!」
「えっ? は、はいいっ!?」
おもむろに五月の腕をつかむや否や!
「やるぞおおおおおおっ! 朝日君いってらっしゃーーーーーいっ!!」
「!? っきゃあああああああっ!? 何? 何事ですのぉーーーーっ!?」
鼻息荒い見送りの言葉を叫ぶと同時に、猛ダッシュで玄関から家の奥へと五月を連れ去る深夜子であった。
「ああああ朝日様お気をつけてーーーーーっ!!」
五月の声が廊下の奥から響き、部屋の扉が閉まる音が聞こえる。
「……なんだありゃ、おい? ……朝日、深夜子に何言ったんだよ?」
一部始終を呆然とながめていた梅が朝日に問いかける。
「ん? 僕が帰って来るまでにちゃんとお仕事終わらせてたら、ほっぺにちゅーしてあげるって」
「はああああああ……あのアホ……しっかしお前もあいつらの扱い上手くなって来たな」
「そうかな? それに梅ちゃんだったらいつでもしてあげるよ」
そう言ってイタズラっぽい笑みを梅に向ける朝日である。
「んなななななな!? な、に、を、言ってやがる! 俺をあんなエロスケベどもといっしょにすんなってーの!」
「またまたー」
「いいから出発すっぞ! それから向こうで変な話とか、いらねー話すんじゃねーぞ。いいな? わかってんな?」
押すなよ、絶対押すなよの理論。
「えー、せっかくのデートなのに梅ちゃんのけちー」
「けちじゃねえっつーの! 一応仕事場なんだ。それに俺は硬派で通ってから、深夜子たちとは違うんだよ」
「あはは。はーい了解」
そんなやり取りをしつつ、車へと乗り込み男性保護省へと向かう二人であった。
「――詳細はまた詰めますが、朝日様にしっかりと男性保護省を視察いただきたいと矢地課長からの申し入れで二泊三日の行程予定ですわ」
「んなっ!? 二泊!?」
その言葉に反応して、妄想世界から深夜子が帰還を果たす。
「むう、三日も朝日くんのいない生活なんて……あたし死ぬかも」
「ちょっと深夜子さん、それは大げさだよ」
どうも深夜子の頭の中では一泊二日予定だったらしく不満を口にする。朝日も苦笑いで受け流そうとするが深夜子は納得できないのか愚痴を続ける。
「あたしにとって朝日君は、酸素よりも――」
「ご心配なく、深夜子さん」
そんな深夜子の目の前に五月の手によってドサリ! と置かれたのは日報を始めとする書類の山である。
「ふえっ!?」
「ここ三ヶ月分くらいですわね。深夜子さんがご担当された日報や報告書――再提出でたっぷりと返って来ておりますわ。あら? あらあら? 来週三日間もお暇があってよろしかったですわねー」
これには五月さんもニッコリ。
「ちょっ!? これ!?」
「もちろん! 何があっても絶対に来週中に再提出するようにと、矢地課長からしっかり言伝いただいておりますわ。あっ、それに一回私のチェックが入る大サービス付きですの」
先ほどまでの不満顔はどこへやら、さっーと青ざめた深夜子は涙目で朝日へと顔を向ける。
「……朝日君……あ、あたし死ぬかも……」
「あー、うん。頑張ってね深夜子さん」
「ぎゃはは! まあ頑張れよ深夜子。せっかく――」
「大和さん」
「あん? 何だよ?」
「二泊三日の行程になったのは、貴女が半日缶詰で書類再提出のお時間が必要になるのも一因でしてよ」
「んなにいいいいいいいっ!?」
すでに先が思いやられる梅と朝日の社会見学デート。数日後に出発である。
――一方、朝日訪問が決定した男性保護省特務部に激震走る。
「いったい何が始まるんです?」
「第一次男性訪問だ」
深夜子たちMapsが所属する警護課の課長矢地亮子を始めとして、その他の課長から主任まで役職者総勢で緊急会議勃発である。
本日は木曜日、そして朝日訪問は週明けの月曜日。これは土日返上確定コースだ。しかしながら、五月から連絡を受けて男性視察を即断即決した矢地に対しては『サンキューヤッチ』と称賛が飛ぶあたり、実にこの世界らしいと言うべきか……。
事実、過去に男性側からの申し入れで視察訪問があった記録は存在しない。それが好意的理由ともなれば、男性保護省の歴史に残るであろう一大慶事だ。その立役者となれる役職者たちのテンションは実に高かった。
土日を通して連日行われた緊急会議。最初は真っ当に男性滞在中の安全対策検討から始まったのだが――無駄に高いテンションが災いして、気がつけば”歓迎会”と称した隠し芸大会と言う実に頭の悪いイベントが真面目に検討されるあたりもこの世界らしいと言うべきだろう。
さて、そんな会議の合間をぬって矢地は課長室に一人のMapsを呼び出していた。
「えええええっ!? じっ、自分がヘルプっスか!?」
「そうだ。ヘルプの指名は警護任務中の者に優先権があるからな……梅――いや、大和から君をヘルプにと連絡があった」
「うひょおおおっ! や、やったーーーーっ!!」
身長は170センチ程度、茶髪のおだんごショートヘアーで犬のような愛嬌ある顔の女性がガッツポーズを決めている。
彼女の名前は『餅月餡子』梅が可愛いがっている同い年ながら一期下の後輩だ。必然、深夜子と同期の間柄で仲の良かったCランクMapsである。餡子は期せずして朝日の滞在期間中、行動を共にする役割をゲットしたのであった。
「うおーーっ!! やっぱり持つべきものは姐さんっス。ヤバいっス! 噂の美少年の身辺警護ができるなんて夢みたいっス!」
「ああ、気持ちはわかるがはしゃぐのはここだけにしておけ。当日まで黙っておくことを勧めるぞ。何せ募集もしてないのに、どこから聞きつけたか知らんが……神崎君のヘルプ希望を私に直談判しにきた連中は山といる」
「も、もちろん了解っス。自分も死にたくないっスから……」
「うむ」
ちなみに先ほど話に出た『ヘルプ』と言う言葉。これはMapsたちの業界用語で仕事内容を表す言葉である。病欠などによる穴埋めや交代、そういった数日間の任務を『ヘルプ』と呼んでいる。
ヘルプは単発、短期ながら、男性の御眼鏡に適うと追加人員として雇われる場合も稀にあり、意外と馬鹿に出来ない仕事と言うのがMapsたちの常識だ。しかし、今回のヘルプは特に注目度が高い理由が別にあった。
人の口に戸は立てられぬ。男性訪問については開示情報なのだが……内部故の情報規制の甘さか、本来役職者のみでしか共有してなかった朝日個人の情報が噂レベルながらも出回ってしまった。
その内容は――。
『どうもやってくる男性はかなりの美少年らしい』
『しかも何やら女性に結構好意的らしい』
『とどめに十七歳未婚(最重要)らしい』
――などと、なんだか期待に胸膨らむ内容であった。
大半の者は噂に背ビレ尾ビレがついた女性たちの希望的観測だと笑って聞いた。しかし、それでも次の任務待ちをしているくらいなら……と矢地の元に向かった者も出たのだ。
そして実物が背ビレ尾ビレどころか、噂にフィンファンネルとサテライトキャノン装備レベルであることを彼女らは知らない。
――出発当日、朝日家の玄関。
現在、朝日にまとわりつく往生際の悪い者が約一名。
「うう……あ、あしゃひくん。行かないでー、行かないでぇー」
「あー、えーと……み、深夜子さん。僕が行かなくてもさ……あのお仕事はしなくちゃいけないんじゃないかな?」
半べそで足にまとわりついてくる社会人女性(十九歳)を優しく諭す男子高校生(十七歳)の図。
「あ、朝日君が居てくれれば……朝日君に五月の機嫌とって貰って、あとタイミング見てなんか理由をつけて頼んだら……五月仕事してくれるからー」
「よくも本人を目の前に堂々とその発言ができますわね……」
「むしろ清々しいな……どんだけ冷静さ失ってんだよ!? つか俺だって向こうで半日缶詰め確定だっつーの」
ごもっとも。
「はうううう……地獄。これから地獄の三日間が……悪魔が、五月が待ってるうううう」
「誰が悪魔ですのっ!? そもそも自業自得ですわよねっ!」
「しょうがないなあ。じゃあ深夜子さん――」
しつこくグズる深夜子を見かねたらしく、朝日が耳元で何やらボソボソと耳打ちをする。するとその猛禽類のような目がたちまち大きく見開いたかと思うと、凄まじい勢いで跳ねるように立ち上がった。
「さささ五月!!」
「えっ? は、はいいっ!?」
おもむろに五月の腕をつかむや否や!
「やるぞおおおおおおっ! 朝日君いってらっしゃーーーーーいっ!!」
「!? っきゃあああああああっ!? 何? 何事ですのぉーーーーっ!?」
鼻息荒い見送りの言葉を叫ぶと同時に、猛ダッシュで玄関から家の奥へと五月を連れ去る深夜子であった。
「ああああ朝日様お気をつけてーーーーーっ!!」
五月の声が廊下の奥から響き、部屋の扉が閉まる音が聞こえる。
「……なんだありゃ、おい? ……朝日、深夜子に何言ったんだよ?」
一部始終を呆然とながめていた梅が朝日に問いかける。
「ん? 僕が帰って来るまでにちゃんとお仕事終わらせてたら、ほっぺにちゅーしてあげるって」
「はああああああ……あのアホ……しっかしお前もあいつらの扱い上手くなって来たな」
「そうかな? それに梅ちゃんだったらいつでもしてあげるよ」
そう言ってイタズラっぽい笑みを梅に向ける朝日である。
「んなななななな!? な、に、を、言ってやがる! 俺をあんなエロスケベどもといっしょにすんなってーの!」
「またまたー」
「いいから出発すっぞ! それから向こうで変な話とか、いらねー話すんじゃねーぞ。いいな? わかってんな?」
押すなよ、絶対押すなよの理論。
「えー、せっかくのデートなのに梅ちゃんのけちー」
「けちじゃねえっつーの! 一応仕事場なんだ。それに俺は硬派で通ってから、深夜子たちとは違うんだよ」
「あはは。はーい了解」
そんなやり取りをしつつ、車へと乗り込み男性保護省へと向かう二人であった。
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