イセカイ日記

豆子

文字の大きさ
上 下
1 / 5

前編

しおりを挟む

俺はどうやら異世界に召喚されたらしい。
どうしてこんなことになったんだか分からないけど、慌てたって仕方ない。
これまでの人生を変える良いチャンスだ。
召喚されたからには俺にしかない役目というものがあるはずだ。
前向きにこの世界で生きていこう!





……そう決意したのに、まさかの異世界召喚されてから部屋に閉じ込められて放置されている。
壮大な物語が始まる気配は微塵もない。

日がな一日ごろごろごろごろ食っちゃ寝食っちゃ寝。
やることがなさすぎてこのままじゃ頭がボケてしまいそうなので、日記を書き始めてみることにする。


1日目


なんでか異世界に来てしまったわけなんだが、びっくりするほどすることがない。

てっきり魔王退治とか危機に瀕している国を救うため旅に出るとかそんなファンタジーめいたことをするのかと思ったが、俺が毎日やってることといったら、ふかふかのベッドで寝て、美味しい食事を三食取って、時々おやつ食べて、日がな一日ごろごろして、風呂に入って、寝る。以上。

これまでの生活を考えたら夢のようだけれど、さすがにこのままじゃ太りそうなので明日から腹筋とか始めてみようかな。
それに突然魔王退治を頼まれた時に体力がないと困るだろうし。
まずは腹筋と背筋をがんばろう。


2日目

腹筋と背筋を30回ずつやってみた。
息切れした。
ごろごろだらだらしすぎたのか体力も筋力も落ちてる。とは言っても元々全然筋肉ないんだけど。
とりあえず三日坊主にならないよう、明日もがんばろう。


3日目

腹筋・背筋×30

ここに来た時のことを覚えておくためにも日記に書いておこう。

この世界に来る前、最後覚えているのは白い光だ。
目の前で突然白い光が弾けた。
オレは一人で公園にいた。
夜も遅くて腹が減ってて動く気になれなくて、なんとなし顔を上げた時だ。
空が白く光った。
何かが爆発したような感じだった。
おどろいて目を閉じて、で、次に目を開けたらこの世界にいた。

最初は病院に運ばれたんだと思った。
白い光は何かの爆発で、それに巻き込まれてケガをしたんだろって。
でも身体や顔のいたるところを確認したけど、ヤケドあともアザもすり傷も切り傷もきれいさっぱりなかった。おどろいた。
その後さらにおどろいた。

この部屋はなんていうんだろ。
中世ヨーロッパ風っていうのかな。
布がひらひらしたベッドに、なんともいえない模様の壁に、なんかすごい豪華なマットレス。いやこれ絨毯か。

オレんちはこんなに立派じゃないし、病院だってごてごてしたインテリアにしたりはしないだろ。

部屋の中にはオレ一人で他には誰もいなかった。
しばらくしたら部屋の奥の扉が開いて、人が三人だったかな、入ってきた。
人って表現じゃおかしいか。
ぱっと見はオレと同じ人間なんだけど、みんなオレよりもはるかに背が高くて、体が大きくて、なんでか白い民族衣装みたいなのを着てて、なにより頭のてっぺんに耳が生えてたんだ。
人間の耳じゃない。いやでも人間の耳が頭のてっぺんから生えてる方がこわいか。
話がそれたので戻す。
犬の耳みたいな、毛がふさふさした耳が全員の頭から生えてた。尻には尻尾まで生えてた。犬耳コスプレか!?って叫ばなかったオレはえらい。
犬耳コスプレ集団に囲まれて最初はまじでこわかったっけ。

みんなオレを見てわーわー何か言ってた。
たぶんオレに話しかけてたんだろうけど、何を言ってるのかさっぱり分からなかった。
日本語じゃないのはもちろんのこと、英語やフランス語でもなかった。フランス語メルシーしか知らんけど。

言葉がまるで違った。
彼らが発するのが言葉なのか音なのか歌なのか、それすら判別できなかった。

こわくてシーツにくるまってたら無理矢理はぎとられて、また目の前で光が弾けてたぶん気を失った。
次目を開けたら誰もいなくなってた。

あとなんでか手の甲によく分からない黒い模様?らくがき?みたいなのがあって、こすってみたけど取れなかった。

それが一週間くらい前のこと。
手の甲のらくがきは風呂に入っても消えないままで、こするのは諦めた。

今日までオレは特段やることもなくひたすらごろごろした日々を送っている。
この日記帳とガラス製のキラキラしたペンは、3日前に来た犬耳のひとが置いていった。
何に使えという指示もなかったので、日記帳として使ってる。


4日目


腹筋・背筋×30
部屋の中を10周ランニング

今日も今日とてやることがない。
暇なので部屋の中を調べた結果を書く。

オレがいるこの部屋は無駄に広くて、でも寒くも暑くもない。
天井には明かりがついてて、ヨーロッパ風にあわせて豪華なシャンデリアなのかと思ったら、天井付近でなぜかよく分からない球体が浮いていてそれが部屋を照らしてた。

なんで球体が浮いてるのか分からん。
しかもエアコンや暖房があるわけでもないのに、部屋の中は一定の温度が保たれてる。
どういう仕組みなんだこれ。

部屋の扉は鍵がしまっているのか、押しても引いても開く気配はない。
そもそも鍵穴自体もなくて、どうやって扉に鍵がかかっているのかも分からない。

他にも不思議なものはある。
この部屋にはトイレと風呂があるんだけど、なんというか、不思議としか言いようがない。
トイレは俺が知ってる形と一緒で、自動で流れていくところはウォシュレットみたいなんだけど、問題は風呂だ。
透明なガラスで囲われただけの空間に入るだけで、なんでか体が綺麗になる。
水とか風が体に巻きついてるような感覚にびっくりして目を閉じて、次目を開けたら頭がさっぱりしてて髪の毛もからっとかわいてるんだ。

この部屋にあるものの仕組みがまるで分からない。
浮いてる明かり、自動で流れるトイレ、入るだけできれいになる風呂、空調もないのに快適な部屋。
これが魔法ってやつなんだろうか。


5日目

腹筋×30

犬耳のひとが久しぶりに部屋にきた。
初めて見るひとだった。
彫りが深くてハリウッド俳優とかにいそうな顔立ち。髪の毛は明るい茶色で、頭の上にはピンとした同じ色の犬耳が生えてた。あとやっぱりめちゃくちゃでかい。身長何センチあるんだ。2メートルは軽く超えてる気がする。

イケメン犬耳男はオレに向かって何か話しかけてたけど、何を言ってるのかやっぱり分からなかった。
しばらくしてオレとの会話を諦めたのか、男は部屋から出て行った。

背筋をサボってしまったので明日がんばる。


6日目

腹筋・背筋・腕立て伏せ×20

まさかの今日も同じひとが来た。
やっぱりオレに話しかけてきたけど、何を言ってるのかまるで分からなかった。
そもそも魔法で言葉が通じるようにできないものなんだろうか。
オレの知ってるファンタジーマンガや小説では、だいたい魔法で言葉が一瞬で通じるようになってたと思うんだけど。

オレが分からないって意味を込めて首を振ったら、そのひとは落ち込んだみたいに耳としっぽを垂れさせてた。それがしょんぼりする大型犬にしか見えなくて、かわいくてちょっと癒された。


7日目

腕立て伏せ×30

今日も同じひとがきて、オレに話しかけてきた。自分を指して、ルウォー?って単語を何回も繰り返してた。
試しにルウォーって言ったら、めちゃくちゃ嬉しそうに笑ったので、このひとは「ルウォー」って名前なんだって分かった。

その後、ルウォーはオレのことをなんでか「タロ」って呼んだ。
オレの顔見てタロ、タロって言うんだけど、俺の名前タロじゃないんですけど。
オレの名前を何度か伝えてみたけど伝わらなかったみたいでタロ呼びが定着してしまった。
仕方ない。あだ名だと思おう。


8日目


ルウォーが今日もきた。
オレの顔見てタロって笑って、しっぽをぶんぶんふってた。
犬飼ったことないからよく知らないけど、嬉しいと犬ってしっぽふるもんなんだよな。オレに会えて嬉しいってことだろうか。

ルウォーはなんでかいつも一定の距離をあけてオレのことを見てる。オレが近づいたらすって少し距離を取るんだ。試しに走って追いかけてみたら逃げられた。なんでだ。

でも追いかけっこが楽しかったのか、ルウォーは始終笑ってた。
超大型犬と遊んでる気分だ。


9日目


ルウォーが初めて見る食べ物を持ってきてくれた。触るともこもこふわふわしてて、ほんのりピンク色をしてる、綿菓子みたいなお菓子。でも綿菓子みたいに手でちぎってもべたべたしない。食べるとしつこすぎない甘さが口に広がって、めちゃくちゃ美味しかった。クセになる味だ。
紙に包んで何個かくれたので、明日食べる用においておこう。


10日目


ショックだ。
昨日、今日食べようと思ってとっておいたお菓子がなくなってた。
ベッド横の机においていたはずなのに。
なんでだ。
魔法か、魔法なのか。そんな魔法はいらん。
それともオレの知らぬ間に誰か部屋に入ってきて回収していったのか。謎すぎる。
食べるの楽しみにしてたのに。ショックだ。

落ち込んでたら、ルウォーが心配気にオレのことを見てた。
お菓子一つで落ち込むのもダサいので、平気なふりをしておいた。


11日目


ルウォーがよく分からないものをくれた。

オレが中に入れるくらいのサイズの、球体?みたいなやつ。ルウォーが一生懸命使い方を説明してくれようとしてくれてることは分かったけど、肝心の使い方が分からなかった。なので部屋の端っこで謎の球体は転がってる。

ルウォーは残念そうに耳を垂れさせていた。
落ち込まれても困る。だって使い方がわからない。



12日目


ルウォーがボールを持ってきた。
サッカーボールくらいのサイズのボールだ。オレに向かって手で転がしてきたので、それを蹴り返したら嬉しそうにボールを追いかけてた。

ボールを蹴ったり投げたりしてルウォーと遊んだ。
最近腹筋と背筋をさぼりがちだったので良い運動になった。
犬耳生えているだけあってボール遊びが好きなのかもしれない。

楽しかったけど冷静に考えて、異世界に来てから寝て食べて風呂入ってルウォーとお菓子食べてボールで遊んでってしかしてないんだけどいいんだろうか?

今のところ魔王退治を頼まれる気配はまるでない。


13日目


ルウォーが今日初めてオレに触ってきた。
大きな手で頭を撫でられた。
びっくりした。
でも怖くはなかった。
大人しく撫でられたままにしてたら、ルウォーが一際嬉しそうにしっぽ振ってた。
タロ、って優しい声でオレのことを何度も呼んでた。



14日目


いつもならルウォーは部屋に何時間かいた後出て行くんだけど、今日は違った。
ずっとオレにくっついて、時々頭撫でたり首をさすったりしてた。
それが少しくすぐったくて、でも嫌じゃなかったからオレはずっとルウォーの腕の中にいた。
すっぽり抱き込まれてそれが心地よくて、そのまま気づいたら寝てたみたいだ。

顔を上げたらルウォーがオレのことじっと見つめてて恥ずかしかった。


15日目


ルウォーはとにかくオレに優しい。
言葉はまったく通じないけど、オレに触れる手がとても優しいことは分かる。
オレのために毎日何かしらのお菓子や絵本のようなものを持ってきてくれる。
文字が読めないから絵を見るだけなんだけど、キレイな絵を見るのは楽しいので嬉しい。

この世界に来て二週間以上が経った。
自分がなぜこの世界に呼ばれたのか未だ分からない。
一度だって外にも出れていない。
てもルウォーがいるから案外と平気な自分がいる。


16日目


久しぶりにルウォー以外の犬耳のひとが来た。白い装束を着たひとたちはオレのことを囲うと何やらわーわー言って、で、また目の前で光が弾けて気を失ったみたいだった。

目が覚めたら目の前にルウォーがいて安心した。
オレから抱きついてみたら、ルウォーが優しく抱きしめ返してくれた。



19日目


色々あって日記を書くのが3日ぶりだ。

この世界にきて一番のびっくり事態が起こった。
なんとオレは、あの部屋から出ることになったのだ。
今オレは、ルウォーと一緒に新しい場所で暮らしている。

3日前ルウォーが部屋に来たかと思うと、オレを抱え上げた。
そのまま部屋の扉に向かって歩き出したもんだから慌てた。
どこに連れてかれるのか分からなくて怖かった。
そしたらルウォーが落ち着かせるようにオレの頭を撫でたので、大人しくすることにした。
まだルウォーと出会って一月も経ってないけど、ルウォーがオレを変なところに連れて行くとは思えなかったからだ。

外はヨーロッパ風の部屋内とは違って銀色の無機質な廊下が続いていた。部屋の外と中の雰囲気があまりに違うのでびっくりした。
ルウォーはオレを抱えたまま廊下を歩いて、途中白装束の犬耳のひとと何かを話すと、そのひとから受け取った腕輪をオレの手にはめた。
金色の細かい模様の彫ってある腕輪だ。今もオレの手にはまってる。

腕輪をはめた後、オレを大きな布で頭から体まで包むとそのまま歩き出した。
周りが何も見えなくてオレはずっとルウォーにしがみついてた。だから外の様子がどうなっているのかは未だによく分からない。

気づいたら寝てたみたいで、起きたら新しい場所に着いていた。

新しい家は雰囲気はヨーロッパ風で、でも前にいた部屋よりもめちゃくちゃ広い。
オレが走り回っても余裕がありまくる。

新しい場所には、オレとルウォーしかいないみたいだった。

ルウォーはオレにしきりに嬉しそうに話しかけていたけど、何を言いたいのかはやっぱり分からなかった。
たぶん、ここが新しい家だよって言ってたのかな。

その日はルウォーとふたりでご飯を食べて、一緒に風呂に入った。
そうだ嬉しいことが一つ。
なんと今回の家にはバスタブがあるのだ!
しかもかなりデカめのやつ。オレとルウォーがふたりで入っても余裕なサイズだ。
初めて見たときはテンション上がった。
やはり日本人としては湯船に浸かりたいもんな。

でもルウォーとふたりで風呂ってのはちょっと恥ずかしかった。
腹筋やら背筋やら頑張ってみたけど、オレの体はひょろひょろのままで、対してルウォーは見た目通り引き締まったイイ身体をしてた。

ちなみにあの部屋と同じで、バスタブの横には透明なガラスに囲まれた空間があって、そこに入ると体が自動できれいになるようになっていた。
一家に一魔法という仕組みなんだろうか。

一応オレ専用の部屋もあるみたいで案内されたけど、夜はルウォーの部屋で一緒に寝た。


20日目


ルウォーはオレに朝食を用意すると、名残惜しげにオレの腹をすんすん嗅いでから家を出て行った。
犬だから臭い嗅ぐのが習慣なのか?

扉には鍵穴がないのに押しても引いても開かなかった。
場所が変わっただけでオレはやっぱり外には出られないらしい。
窓もあるけど開かなくて、ガラスじゃないから外の様子は見えない。

ご飯は昼になったら突然机に出てくる。
魔法すごい。
チャーハンみたいな感じなんだけど、米とちょっと食感が違う。でも美味しいので気にせず食べてる。

暇だったので家の中を探検してみた。
部屋がたくさんあるけどどれも鍵がかかってて入れなかった。
オレが入れるのはソファや机のあるリビングみたいなところと、オレ専用のベッドのある部屋と、ルウォーの部屋だけみたいだ。

とりあえずルウォーが置いていった絵本を読んで過ごす。
あと久しぶりに腹筋と背筋を再開してみよう。


21日目


ルウォーがオレ用の服を大量に買ってきた。

オレは毎日白のTシャツと黒のゆるっとしたズボンを履いている。
それが楽だし気に入ってるから新しい服を欲しいとは思ってなかったんだけどな。

ルウォーが買ってきたのはパーカーとかニットとかシャツとか色々だった。
ほとんど男物だったけど、なんでか女物のワンピースも入ってて、着て欲しそうにこっち見てたけど絶対着ないからな。

そもそもなんで女物買ってるんだ。


22日目


昨日の夜、ルウォーが疲れた顔をして帰ってきた。色々なんか言ってたけど分からないので、おつかれさまの意味を込めて抱きついてみたら、オレを抱えたまま床をごろごろしだしてびっくりした。
奇声もあげてた。
ちょっと怖い。

そのあとはずっとルウォーとソファでくっついてた。
ルウォーはオレを撫でたり首に顔を埋めたりしてた。

あと、

たぶんだけど、勃ってた。
尻になんかすごいでかいのがあたってた。
男の生理現象なんだろうけどちょっと気まずかった。


23日目


ルウォーがめちゃくちゃご機嫌で帰ってきた。オレを見るなり抱き上げてぎゅうぎゅう抱きしめてくるもんだから苦しかった。
そんでほんとなんでか分からないけど、キスされた。
今まで触られたり首を舐められたりされたことはあったけど、口にキスされたのは初めてだったから驚いた。

でもキスした後、ルウォーもびっくりした顔してた。慌ててオレに何か言ってたけど、全然分からん。
間違えてキスしちゃってごめんってことだろうか。

誰と間違えたんだよ。

無性に腹が立ったので無視してたら、ルウォーがオレの腰にすがりついて何か言ってたけど、知らん。ルウォーとは別の部屋で寝た。


24日目


なんで昨日あんなに腹が立ったのか、冷静に考えてみよう。

キスされたのが嫌で怒ったんじゃない。
気持ち悪いとも思わなかった。



他の誰かと間違えてキスされたのが、ムカついたんだと、おもう。

ルウォーに抱きしめられると安心するし、撫でられると嬉しい。
オレを見て嬉しそうに笑うルウォーを見てるとオレも嬉しくなる。

オレはルウォーのことが好きなんだろうか。




30日目


随分と日が空いた。
久しぶりに日記を開いてる。
何から書こうか。
この数日間で色々あったけど、まず一番の出来事は、ルウォーとセックスしたことだ。

文字にすると恥ずかしい。
でも頭の中を整理するためにも書こうと思う。

あれは、たぶんセックスで間違いなかった。
オレはルウォーに抱かれた。

5日前、ルウォーが真剣な顔で帰ってきた。いつもなら帰ってきてすぐにオレを抱きしめるのに、それがなかった。
ご飯を食べている間も表情が固くて、オレの方をあまり見なかった。
オレはもしかしてルウォーに捨てられるんじゃないかって考えが浮かんでぞっとした。

食事後、ソファに連れていかれて座らされた。
真正面から見つめられて、オレはどうしたらいいのか分からなかった。
突然触れるだけのキスをされた。
そのあとルウォーがゆっくり何か言った。
何を伝えたいのか分からなかったけど、ルウォーの目が熱で潤んでいて、それでオレはルウォーが何をしたいのか分かった。
オレも男だ。
オレの頰に触れる手の熱さだとかルウォーの股間を見れば、ルウォーがオレに何を求めてるのか分かる。

オレがルウォーに抱きついたら、ルウォーが優しく抱きしめ返してくれた。
そのまま抱き上げられて、風呂場に連れていかれて、さすかにそこでされたことは恥ずかしくて書けないので省略。

とにかくすごかった。
ルウォーの手つき全部がエロすぎた。

ベッドに連れていかれて押し倒されて、色んなところにキスされた。
気持ちよくて変な声が出ちゃって恥ずかしかったけど、ルウォーは嬉しそうだった。

ルウォーのアレはとにかくでかくて、尻に入れられた時は裂けるかと思った。
気持ち良さよりも痛みの方が強くて、それにルウォーも気づいていたからか、オレの胸やら首やらを舐めて気を紛らわせようとしてくれた。

正直言って、入れられること自体はあまり気持ちよくなかったけど、オレの中でルウォーが達した時、満たされた気持ちだった。
今まで生きてきて一番幸せだと思った。
ルウォーに抱かれながらバカみたいに泣けた。
だってこんなに優しく触れられたのは初めてだったんだ。





オレはずっと、虐待されて育った。
親からはオイとかお前とかしか呼ばれたことがなくて、名前の意味なんてなかった。
殴られ蹴られが当たり前で、いつも汚れた服を着てたから学校でもみんなから避けられてた。
先生もオレのこと見ないふりしてた。
殴られるから腕とか腹は汚いアザだらけで、制服の上から毎日おんなじ長袖のパーカーばっかり着てた。
金もないから友だちと放課後遊んだりなんかもしたことなくて、毎日食べるものだって満足になかった。

ずっと逃げ出したかった。
あの小さくて汚くて殴られるだけの家から逃げたかった。
でもオレはまだ学生で、アルバイトは親の許しがなくてできなくて、逃げ場所なんて公園くらいしかなくて、だからあの日も一人で公園でうずくまってた。

光が弾けたあと、目が覚めてからは驚くことばかりだった。
腹や腕にあったアザやタバコを押しつけられた火傷あとはきれいさっぱりなくなってた。
汚い制服から綺麗な服に着替えされられてて、何もしなくても美味しいご飯が出てきた。
部屋は広くて綺麗で快適で、何よりオレを殴ったり蹴ったりする人間は一人もいなかった。

夢を見ているんだと思った。
たとえ外に出れなくても、あの場所から逃げられたのならそれだけで良かった。

毎日当たり前に美味しいご飯が食べられて、殴られる心配なく眠れて、ちゃんと風呂に入れる。それだけで幸せだった。

ルウォーが来てくれてからはもっと幸せだった。
言葉は通じないけど、ルウォーがオレを大切に扱おうとしてくれているのは分かった。たぶん、俺を好いてくれているんだろうことも。

一緒にボールで遊んでくれた。
美味しいお菓子をくれた。
優しく抱きしめてくれた。
タロってオレのことを呼んでくれた。

オレはルウォーのことが好きだ。

この状況が変だってことは分かってる。
異世界に来てから今までルウォー以外のひととまともに会ったことはないし、外にだって出られない。
誘拐されて監禁されてるのとまるで変わらない。

ルウォーしか頼るひとがいないから、好きだって思い込んでいるのかもしれない。
なんだっけこういうの。
誘拐犯と一緒にいるうちに、相手のこと好きだって頭が誤解しちゃうやつみたいだ。

でも、ルウォーはオレに優しくて、今まで生きてきた中でオレにこんなに優しくしてくれたのはルウォーが初めてで、だからもうどうでもよかった。

何のために異世界に呼ばれたのかも分からないし、これからも言葉は通じないだろうし、一生外に出ることはできないかもしれなくても、それでもオレは間違いなく幸福だ。

書いたらすっきりした。

そろそろルウォーが帰ってくる時間だ。
玄関で待っていよう。
きっと喜んでしっぽをぱたぱた振ってくれる。

ルウォーが帰ってきたら抱きついて、伝わらないのは分かってるけど、大好きだって言おうと思う。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

家事代行サービスにdomの溺愛は必要ありません!

灯璃
BL
家事代行サービスで働く鏑木(かぶらぎ) 慧(けい)はある日、高級マンションの一室に仕事に向かった。だが、住人の男性は入る事すら拒否し、何故かなかなか中に入れてくれない。 何度かの押し問答の後、なんとか慧は中に入れてもらえる事になった。だが、男性からは冷たくオレの部屋には入るなと言われてしまう。 仕方ないと気にせず仕事をし、気が重いまま次の日も訪れると、昨日とは打って変わって男性、秋水(しゅうすい) 龍士郎(りゅうしろう)は慧の料理を褒めた。 思ったより悪い人ではないのかもと慧が思った時、彼がdom、支配する側の人間だという事に気づいてしまう。subである慧は彼と一定の距離を置こうとするがーー。 みたいな、ゆるいdom/subユニバース。ふんわり過ぎてdom/subユニバースにする必要あったのかとか疑問に思ってはいけない。 ※完結しました!ありがとうございました!

彼は罰ゲームでおれと付き合った

和泉奏
BL
「全部嘘だったなんて、知りたくなかった」

「優秀で美青年な友人の精液を飲むと頭が良くなってイケメンになれるらしい」ので、友人にお願いしてみた。

和泉奏
BL
頭も良くて美青年な完璧男な友人から液を搾取する話。

鬼ごっこ

ハタセ
BL
年下からのイジメにより精神が摩耗していく年上平凡受けと そんな平凡を歪んだ愛情で追いかける年下攻めのお話です。

黒に染まる

曙なつき
BL
“ライシャ事変”に巻き込まれ、命を落としたとされる美貌の前神官長のルーディス。 その親友の騎士団長ヴェルディは、彼の死後、長い間その死に囚われていた。 事変から一年後、神殿前に、一人の赤子が捨てられていた。 不吉な黒髪に黒い瞳の少年は、ルースと名付けられ、見習い神官として育てられることになった。 ※疫病が流行るシーンがあります。時節柄、トラウマがある方はご注意ください。

十七歳の心模様

須藤慎弥
BL
好きだからこそ、恋人の邪魔はしたくない… ほんわか読者モデル×影の薄い平凡くん 柊一とは不釣り合いだと自覚しながらも、 葵は初めての恋に溺れていた。 付き合って一年が経ったある日、柊一が告白されている現場を目撃してしまう。 告白を断られてしまった女の子は泣き崩れ、 その瞬間…葵の胸に卑屈な思いが広がった。 ※fujossy様にて行われた「梅雨のBLコンテスト」出品作です。

学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語

紅林
BL
『桜田門学院高等学校』 日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である

王子様の愛が重たくて頭が痛い。

しろみ
BL
「家族が穏やかに暮らせて、平穏な日常が送れるのなら何でもいい」 前世の記憶が断片的に残ってる遼には“王子様”のような幼馴染がいる。花のような美少年である幼馴染は遼にとって悩みの種だった。幼馴染にべったりされ過ぎて恋人ができても長続きしないのだ。次こそは!と意気込んだ日のことだったーー 距離感がバグってる男の子たちのお話。

処理中です...