2 / 5
三条輝沙良編
尚子とわたしその一
しおりを挟む
彼女、尚子とは中等部で初めて一緒のクラスになった。
小学の時から顔は知っていたけれど、仲が良いわけでもなく悪いわけでもなく、そもそも特に接点がある同士でもなかった。
「ごきげんよう三条さん」
方やスポーツ、方や美術部。部活も校舎内と校庭。その上クラスが今まで異なれば、同じ学校に通う者同士程度で、繋がりは限りなく希薄。
「ごきげんよう鎌田さん」
接点を積極的に持とう! という最初に思い立ったナニカでもない限り交流は深まることもない。そしてお互いがよく知らない者同士では、その前提が起こりようもなかった。
「わぁ、すごい汗……」
所謂、好きな人でも嫌いな人でもない、中立の人同士。それが得てして尤も厄介で尤も動かしにくい人間なのである。そしてそんなことは小学上がりたての小娘に解るはずもない。
「あはは、朝練で走り込んでたからね~」
そんな時は何かしら、外部からのきっかけが足がかりとなり手がかりになり、すいよすいよと手を伸ばして掴み取ったり取られたりして、交流が始まるわけだ。
「うぇー朝から……あ、でもマラソンする人って確かに公園とかで朝……」
かと言って、全員が全員尚子のように美術が好きなわけではないし、わたしみたいに走りまくれるわけでもない。得意分野や好きな分野というのは、個人個人で必ずあるのだ。
「そうそう、朝は少し動かすと調子がいいんだよー」
なので、美術の授業があってそこで面白い授業がなされて興味が出たところで、わたしは同じクラスの娘に聞くわけで
「ふむ……やっぱり走り込みは朝に限るのね」
なので、体育の授業があってそこで面白い授業がなされて興味が出たところで、尚子も同じクラスの娘に聞くわけで
「おお!? 鎌田さんもやる!? 朝練楽しいよ!!」
ラインとしては、スタートラインなわけだから、結局、同じクラスになっただけでは出身小学が一緒、というだけで、急速に親しくなるなんて事はなかった。
「私美術部でーす」
「デスヨネー」
□□□□□
ひと月もすれば、同じクラスの中でも大体仲良しグループは固まってくる。
わたしは、華道部の千葉阿津華と水泳部の三国蘭と仲良くなって、楽しく過ごしていた。蘭とわたしだけだと脳筋ズウェーイ今日も特訓今日も走り込み今日も筋トレジャンプダッシュ!! になってしまうけれど、そこに文化系の阿津華が加わってくれたのは非常に大きかった。特に勉強の面で。いやわたしも蘭もちゃんと人並みには出来るんですけど。すうがく50てんなんですけど。すいません。
その頃のあの娘……尚子は、よくわからない。お互い挨拶をしあう程度で、お互い部活のお話をちょいちょいするくらい。席もそこまで近くなかったので、彼女が早く来るので他の人よりも少し話せる間柄、くらいだ。
「うん。朝に少しだけ絵を描いててね」
「そうなんだ。えへへ、じゃあ朝練仲間!」
そんな会話を少し前にしていた。その時聞いたのは、絵の具の匂いが移るから授業開始前は基本的に色付けまではやらない方向なの、ということらしい。なるほどと感心する。
「ペンキの匂いがずーっと続く感じよ」
「あ、それはやだ」
「でも慣れると気持ちいいんだよー」
「それ中毒なんじゃない?」
確かペンキの匂いはシンナーのそういう傾向だったと思う。絵の具も、あの独特な匂いは特徴的だ。少しの間なら清潔感が感じられる事も相まって、いい香りだとは思うんだけれど、やっぱり長時間絵の具の匂いがするというのは、あまり良くはないようだ。
「美術室は匂いが染み付いてるから良いけどね」
「いいんだ」
「いいのいいの」
「いいのかぁ」
くすくす笑う彼女は、可愛かった。
そういう会話をして、そういう会話を出来て、そういう会話で笑うんだ。
恐らく、今思えば
初めて彼女を意識したのは、この時からだったのかもしれない。
小学の時から顔は知っていたけれど、仲が良いわけでもなく悪いわけでもなく、そもそも特に接点がある同士でもなかった。
「ごきげんよう三条さん」
方やスポーツ、方や美術部。部活も校舎内と校庭。その上クラスが今まで異なれば、同じ学校に通う者同士程度で、繋がりは限りなく希薄。
「ごきげんよう鎌田さん」
接点を積極的に持とう! という最初に思い立ったナニカでもない限り交流は深まることもない。そしてお互いがよく知らない者同士では、その前提が起こりようもなかった。
「わぁ、すごい汗……」
所謂、好きな人でも嫌いな人でもない、中立の人同士。それが得てして尤も厄介で尤も動かしにくい人間なのである。そしてそんなことは小学上がりたての小娘に解るはずもない。
「あはは、朝練で走り込んでたからね~」
そんな時は何かしら、外部からのきっかけが足がかりとなり手がかりになり、すいよすいよと手を伸ばして掴み取ったり取られたりして、交流が始まるわけだ。
「うぇー朝から……あ、でもマラソンする人って確かに公園とかで朝……」
かと言って、全員が全員尚子のように美術が好きなわけではないし、わたしみたいに走りまくれるわけでもない。得意分野や好きな分野というのは、個人個人で必ずあるのだ。
「そうそう、朝は少し動かすと調子がいいんだよー」
なので、美術の授業があってそこで面白い授業がなされて興味が出たところで、わたしは同じクラスの娘に聞くわけで
「ふむ……やっぱり走り込みは朝に限るのね」
なので、体育の授業があってそこで面白い授業がなされて興味が出たところで、尚子も同じクラスの娘に聞くわけで
「おお!? 鎌田さんもやる!? 朝練楽しいよ!!」
ラインとしては、スタートラインなわけだから、結局、同じクラスになっただけでは出身小学が一緒、というだけで、急速に親しくなるなんて事はなかった。
「私美術部でーす」
「デスヨネー」
□□□□□
ひと月もすれば、同じクラスの中でも大体仲良しグループは固まってくる。
わたしは、華道部の千葉阿津華と水泳部の三国蘭と仲良くなって、楽しく過ごしていた。蘭とわたしだけだと脳筋ズウェーイ今日も特訓今日も走り込み今日も筋トレジャンプダッシュ!! になってしまうけれど、そこに文化系の阿津華が加わってくれたのは非常に大きかった。特に勉強の面で。いやわたしも蘭もちゃんと人並みには出来るんですけど。すうがく50てんなんですけど。すいません。
その頃のあの娘……尚子は、よくわからない。お互い挨拶をしあう程度で、お互い部活のお話をちょいちょいするくらい。席もそこまで近くなかったので、彼女が早く来るので他の人よりも少し話せる間柄、くらいだ。
「うん。朝に少しだけ絵を描いててね」
「そうなんだ。えへへ、じゃあ朝練仲間!」
そんな会話を少し前にしていた。その時聞いたのは、絵の具の匂いが移るから授業開始前は基本的に色付けまではやらない方向なの、ということらしい。なるほどと感心する。
「ペンキの匂いがずーっと続く感じよ」
「あ、それはやだ」
「でも慣れると気持ちいいんだよー」
「それ中毒なんじゃない?」
確かペンキの匂いはシンナーのそういう傾向だったと思う。絵の具も、あの独特な匂いは特徴的だ。少しの間なら清潔感が感じられる事も相まって、いい香りだとは思うんだけれど、やっぱり長時間絵の具の匂いがするというのは、あまり良くはないようだ。
「美術室は匂いが染み付いてるから良いけどね」
「いいんだ」
「いいのいいの」
「いいのかぁ」
くすくす笑う彼女は、可愛かった。
そういう会話をして、そういう会話を出来て、そういう会話で笑うんだ。
恐らく、今思えば
初めて彼女を意識したのは、この時からだったのかもしれない。
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

8年間未来人石原くん。
七部(ななべ)
青春
しがない中学2年生の石原 謙太郎(いしはら けんたろう)に、一通の手紙が机の上に届く。
「苗村と付き合ってくれ!頼む、今しかないんだ!」
と。8年後の未来の、22歳の自分が、今の、14歳の自分宛に。苗村 鈴(なえむら すず)
これは、石原の8年間の恋愛のキャンバスのごく一部分の物語。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
彗星と遭う
皆川大輔
青春
【✨青春カテゴリ最高4位✨】
中学野球世界大会で〝世界一〟という称号を手にした。
その時、投手だった空野彗は中学生ながら152キロを記録し、怪物と呼ばれた。
その時、捕手だった武山一星は全試合でマスクを被ってリードを、打っては四番とマルチの才能を発揮し、天才と呼ばれた。
突出した実力を持っていながら世界一という実績をも手に入れた二人は、瞬く間にお茶の間を賑わせる存在となった。
もちろん、新しいスターを常に欲している強豪校がその卵たる二人を放っておく訳もなく。
二人の元には、多数の高校からオファーが届いた――しかし二人が選んだのは、地元埼玉の県立高校、彩星高校だった。
部員数は70名弱だが、その実は三年連続一回戦負けの弱小校一歩手前な崖っぷち中堅高校。
怪物は、ある困難を乗り越えるためにその高校へ。
天才は、ある理由で野球を諦めるためにその高校へ入学した。
各々の別の意思を持って選んだ高校で、本来会うはずのなかった運命が交差する。
衝突もしながら協力もし、共に高校野球の頂へ挑む二人。
圧倒的な実績と衝撃的な結果で、二人は〝彗星バッテリー〟と呼ばれるようになり、高校野球だけではなく野球界を賑わせることとなる。
彗星――怪しげな尾と共に現れるそれは、ある人には願いを叶える吉兆となり、ある人には夢を奪う凶兆となる。
この物語は、そんな彗星と呼ばれた二人の少年と、人を惑わす光と遭ってしまった人達の物語。
☆
第一部表紙絵制作者様→紫苑*Shion様《https://pixiv.net/users/43889070》
第二部表紙絵制作者様→和輝こころ様《https://twitter.com/honeybanana1》
第三部表紙絵制作者様→NYAZU様《https://skima.jp/profile?id=156412》
登場人物集です→https://jiechuandazhu.webnode.jp/%e5%bd%97%e6%98%9f%e3%81%a8%e9%81%ad%e3%81%86%e3%80%90%e7%99%bb%e5%a0%b4%e4%ba%ba%e7%89%a9%e3%80%91/
「南風の頃に」~ノダケンとその仲間達~
kitamitio
青春
合格するはずのなかった札幌の超難関高に入学してしまった野球少年の野田賢治は、野球部員たちの執拗な勧誘を逃れ陸上部に入部する。北海道の海沿いの田舎町で育った彼は仲間たちの優秀さに引け目を感じる生活を送っていたが、長年続けて来た野球との違いに戸惑いながらも陸上競技にのめりこんでいく。「自主自律」を校訓とする私服の学校に敢えて詰襟の学生服を着ていくことで自分自身の存在を主張しようとしていた野田賢治。それでも新しい仲間が広がっていく中で少しずつ変わっていくものがあった。そして、隠していた野田賢治自身の過去について少しずつ知らされていく……。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる