坂津眞矢子星花短編集

三条輝沙良編

例えば貴女を失っても わたしは貴女が揺るがない

　あの娘に恋して二年あまり。
　今日もあの娘はとっても静か。
　昨日も静かでどっしりと。
　明日もきっと静かで清楚で厳かで。
　あなたはきっと、静かで清楚で動かない。
　浮ついたものが嫌いな貴女だったから。
　さぞや今も静かで何時も通りに過ごしているのではないかしら？

　あの娘に恋して、三年あまり。
　今日もあの娘はとっても静か。　
　昨日も静かでずっしりと。
　明日もおそらく静かで清楚で厳かで。
　あなたはやっぱり、静かで清楚で動かない。
　にぎやかなのが好きな貴女だったから。
　さぞや今は賑やかさに、少し驚いているかしら？

　あの娘に恋して四年あまり。
　今日もあの娘はとっても静か。
　昨日も静かでしっとりと。
　明日も必ず静かで清楚で厳かで。
　あなたは変わらず、静かで清楚で動かない。
　決めたら動かないのが貴女だったハズだから。
　さぞや今は賑やかさに、少し辟易しているかしら？

　尚子に恋して、もう五年あまり。
　今日も貴女はとっても静か。
　昨日も静かでずっしりと。
　明日はまた静かで清楚で厳かで。
　尚子は、もう二度と、静かなままで、清楚なままで動けない。進めない。
　女々しいのが嫌いな貴女のことだから……――
　さぞや今は、わたしのヘタレた姿を見たら、蹴っ飛ばしてくるでしょう。


　貴女との思い出も遠くなってしまった。これから先はもっとずっと遠くなってしまう。
　そういうコトで、誰かが、例えばわたしが貴女を忘れず思っていてもいいでしょう。
　そして……こんなわたしが再度誰かに恋をする、というのも、変な話なのだけれどね。
　ちゃんと変わっていくよ、わたしもさ。
　頑張って生きて、頑張って死んでいくから、ずっと後でまた会おうね尚子。