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第19話 ~めいるしゅとろりむさくせん~

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「おねえちゃんとおっふろー♪ おねえちゃんとおっふろーっ♪」
「ふふっ。流しっこですね~」

 さて、脱衣所できゃっきゃとおねえちゃんおねえちゃんとさわぐ夏服な彼女に、まだ少し引きずられながらの、のんびりゆったりな冬服のわたし。この際なので、引きずられローテンションも利用して、こういう場所でもお姉ちゃんとして、彼女に静かな方面のお手本を示すのです。まずは、ぱさりとするりとそろそろと。服をゆっくり脱いでいく。今日いっぱいかいた汗で、べとついたアンダーシャツも下着も、その元凶の厚い熱い冬服も、丁寧にそろりと脱いでいく。

「こーお?」
「うんうん。そうそうです」

 衣服の乱れは心の乱れ、とかなんとかそんな言葉もあった通り、余裕のある優雅な姿が望ましい。それは、脱いだ後も残るというもので。いくら四姫ちゃんが子供だからって、心に闇があるから自由にといって、それで自由にさせすぎて、乱雑に脱ぎ捨てるのを見過ごし続けていたらそれが癖になる。乱れる。結果、四姫ちゃんの為にはならないのだ。こういう事象は日々の修練が物を言う。まずはこうして、脱いだ衣服も軽く折り畳む癖を付けさせる。当然ながら、最初から出来ないのが当たり前なので、させるぞという強制ではなく、常日頃から四姫ちゃんが慕っているであろうおねえちゃんの立ち位置に何故か収まったわたしが、きちんと畳んでいる姿を見せ続「きゃー! おねえちゃんおはだすべすべーーっ!?」
「はにゃああああっあっあっああーーーーーっ!?」

 説明どころか畳んでいる最中に、思いっきり腕にぎゅむーっ、と抱き付かれて、叫び声よろしく腕もぴょいーん。畳む予定の服も序にぴょいーんとその辺に盛大にぶちまける。脱いだおねえちゃんを前にして、四姫ちゃんは大人しく待つとかそんなよゆうなかった。

「えへへーおふろおふろーおふろでやりたいほうだいっ!!」
「なっなにをするんですか!?」

 わたしの片腕抱いて嬉しそうに浮かれている四姫ちゃんに、とっても嫌な予感が駆け巡るものの、四姫ちゃんだし大丈夫大丈夫……だよね?
 ……あ、まてまて? 子供の頃どんなお風呂の入り方してたっけわたしは……

「とーーー!!!」
「あーーーっ!?」

 迂闊。わたしが愚かにもお風呂方向で心配事をしていたスキを突かれた格好で。テンション高めな彼女を止める間もなく、畳まれるのを待っていたわが制服は無情にも四姫ちゃんに鷲掴みにされて、洗濯機にぽーんと投げ込まれる。制服、という認識がないのかあるのか。はたまた服の種類とかよく解っていないのか。洗濯機にぐじゃっと入れる系の服じゃないのにぃ。

「こ、これは入れなくていーのですよっ」
「いーのですー?」
「ですです」
「ですーーっ♪」

 ふにょんとむにゅっとくっついてくる彼女。裸なので今はやめて下さい。お風呂中ならまだしも、お風呂前だと、なんだか気恥ずかしい上に、相手が今は四姫ちゃんでも、身体は今も好きなお相手そのものなんだから、精神上肉体上とっても厄介極まりない。……身体は今も好きなお相手、とか、また外道な言葉に聞こえるから不思議ですねぇ。完全に身体目当てみたいに聞こえるじゃないですかよりによって四姫ちゃん相手にそれは最低のペド野郎じゃないですかどういうことですかそして何も間違ってないから誤解しか招かないじゃないですかどうするつもりですか。

「は、離れ……」
「やーっ!!」

 やーっ!! らしいので、ぐいぐい引き離そうとするわたしにぐいぐいむにむにゅ離れず抱きついてくる彼女。腕に抱きついてくるから四姫ちゃんの胸が当たり放題だしその先のわたしの手なんて間違いなく人生最大にピンチな座標に位置してるし。その近くにある、四姫ちゃんのとある箇所にうかつにも指が触れたら神の左手じゃないですか。何言ってんだわたし落ち着け。至近距離ながら触らないでいられている、絶対防壁展開中な今こそ神の左手の御力発動中なんじゃないですかね? ……いや、だから、落ち着くのですわたし。いっそこのまま此方から触って確かめたりした方がまさに真の神の左手解放状態ごっどはんど……
 だから!! 落ち着け!!! わたし!!!! 悪質なハンドで社会的にレッドカード採られちゃうじゃないですか!!!!! てか、そもそも確かめるって四姫ちゃんのその箇所の何を確かめるんだろうか? 左手だけじゃなくて悪魔の右手も合わせればそれはもう詳細に事を確かめられ……・・・・  ・・・・……いや、いやいやいやいやいや、まじ落ち着いてわたし? 今ロリどころかペド相手に煩悩におぼれてちゃダメなんですよ? 例えそれが好きな相手で裸で無防備で無邪気に待ち構えているとしても。そしてこの裸娘は困ったことに、おねえちゃんをじっと待ってるだけとか大人しくもないので、無邪気に遠慮なく恥ずかしげもなく大胆に胸をすりすりぎゅむぎゅむと、抱きつき序にわたしの腕にくっつけ押し付けてくるんですよちくしょうだれかなんとかしてくださいしんでしまいます。

「お、おねえちゃんお顔真っ赤!!」
「だいじょうぶですだいじょうぶですしめちゃんはわたしがそだてるんです」

 そして、その無邪気は時に残酷で冷酷で凶器に凶悪に黒く輝く。……まぁ、その時っていうのが、今まさに、なんですけどね。真正面から素っ裸の四姫ちゃんが、ずずいっと心配そうに覗き込んでくる。心配のあまり、そのままぎゅーっと真正面から抱き付いて来る前に、意味不明な言葉で母性を召喚しつつ、もはやヤケ気味のテンションでなんとか乗り切るしかない。と言うのも、正直今のわたしの精神状態で、理性を一旦超えてしまったら、抱き返し序に押し倒してしまうかもしれない。今の人格は押し倒していい相手じゃないし。どんな人格でも問題かもしれないけれど、裸の幼稚園児や小学生を裸の女子高生が押し倒すとかマジ犯罪だからね!? とにかく、理性理性。心頭滅却しても超熱いままですが、凶器凶悪残酷色気の塊、素っ裸状態の四姫ちゃんですらも、きっと必ず、わたしはじきに慣れるはずだし、ここさえ乗り切ればおそらくきっとたぶんまだだいじょうぶ……です。ですから、ジロジロ顔を見つめたり、そこからにゅにゅーんとむにゅむにゅくっつけたりすりすりふにふに擦り寄ったり、おねえちゃんすべすべふにふにいいにおい~!!! とか、笑顔でにこにこにへにへしながら言わないでくれませんかねぇ!? 嬉しいですけどね!! ……すべすべふにふにいいにおいー! が元凶だと言うならば、いっそ肌荒れ放題枝毛祭りにした上で筋トレガチムチフェスティバルしてにんにく食べまくって特殊能力くさいにおいでも装備していた方が良かったかな……それはそれで、おねえちゃんきたなくてかたくてくさい!!! 近寄んないで!!!! とか言われて死ぬ。死ねる。いもうとつよいですねぇ。

「あっ、でもでもっ! おねえちゃんもばたーのかおりちょっとする!!」
「シ、シメちゃんもでーすよ~?」

 図らずもくさい姉になっていた。それもバター臭い。色々まずい。罵倒されてるわけじゃないけど、結構刺さる。罵倒されていなくても刺さるので、身だしなみやファッションには気を配ろう。幸いお茶のおねーさん、的な香りは、一二三さんにも四姫ちゃんにも好評だったみたいだしね。茶葉で香水を作ったりするのもあり、かな?

「おそろい! おそろいー!!」
「ふふっ、じゃあ取り除くのもお揃いにしないといけませんね」
「おねえちゃんとなら、あたしばたーくさくてもいいよ!!」
「……それは色々問題があるのですよーシーメちゃん」

 四姫ちゃん状態の十さんと一緒に、翌日彼女の家からバターくさいまま登校したら死ねる。死ぬ。さっきから死んでばっかりですねこのおねえちゃん。生存ルートを構築しないと明日は学校サボって引きこもりになっちゃいます。それはそれで、学校サボってロリと一日中にゃんにゃんしてた疑惑が生まれるので色々死にます。また死んだ。このおねえちゃん残機少ないのでてかげんをしょもうするのです。

「そーなのです?」
「そーなのですよー」
「ですーっ♪」

 わたしがシミュレートで死に戻ってる間にぴょんぴょんと嬉しそうに跳ねる四姫ちゃん。ちっちゃなタオル一枚からあっちもこっちも一杯見えるので危険が危ないです。何がとは言いませんが。主にわたしが危ないです。正直危険人物一歩手前な一杯一杯の精神なので、なるべく見ずに触れずに感じずにおふろたいむを送るのがいいのだけれど……それは、久々のおねえちゃんもしくは、待望のおねえちゃんが接触避けてると採られかねないので、四姫ちゃんとわたしの心が双方お揃いで色々死ぬ。また死んだ。たかしろおねーちゃんたすけて!!

「……ささ、そんなわけで早めに洗い流しっこしましょうねー?」
「うんーっ!!」

 葛藤を他所に覚悟を決めて、ぴょんぴょん跳ねてる四姫ちゃんに明るく告げると、うんー! という更に明るいお返事と笑顔を引っさげ、真正面からぎゅーっと抱きついてくる。あっあっあーーー!? あ゛ーーーーーーーーーーーーーっっ!!?

「わっわぎゃーーーっ!? だーかーらーくっつかないでえええーーっ!?」
「やーーーーーーっ!!」

 やっぱり、やーっ!! らしいので、相も変わらずぐいぐい必死で引き離そうとするわたしに、ぐいぐいむにむにむにゅむにゅむぎゅむぎゅすりすりーっと、接触密着全力で抱きついてくる彼女。

「ふ、ふにゃああああぁぁぁぁ・・・・・・」
「にゃんにゃーんっ!」

 お、お風呂って一緒に過ごす以上避けて通れないし、だったら初日で通っておかないと絶対こじれるふにゅむにっ。そしてなぁなぁに先延ばしにして碌でもないことになるにゅむむにゅ。こういう時は即断即決なのですにゅ。図らずも、わたしが突然にゃんこの真似をしたと思われたようで、同じ様にネコの様な鳴き声を鳴らしながらスリスリゴロゴロと甘えるように、自身の裸体を惜しげもなくこれでもかとこすりつけてくる。……四姫ちゃん的には、あたしもにゃんこのマネするーっ! 的な、おねえちゃん大好き精神の延長行動の一つなのかもしれないけれど、それをはだかでやられると肝心のおねえちゃんが死ぬのです。また死んだ。おねえちゃんはなにげにつなわたりいのちがけなのです。

「えへへへーーっ!!」
「はっはわわっ!? やっちょっちょ……あっあにゃーーっ!!」

 ……ふにゅふにゅすりすり密着が止まらない中、顔真っ赤全身灼熱状態でメチャクチャ熱いけれど、何としても落ち着いてお風呂イベントを乗り切るのです。これは四姫ちゃんじゃなくても難易度高いだろうし、最初が肝心なのだから、始まりの冒険で逃げたら物語は進まないというもので。そしてこれは個人的な感情になるのだけれど、屋上デート告白は一二三さんに、最初のラブレターとわたしからの告白は百々さんに譲っている形なので、今回のお家お泊りイベントは四姫ちゃんに譲る番だ。あくまで冷静冷徹な割り切り割り振り判断なので、むしろ四姫ちゃん状態の十さんで、お風呂一番乗りは達成しなくてはならない。まだ相まみえていない他の数多の人格でも当然良いのだけれど、その人格との最初の対面がお弁当中でもなく保健室でもなく学園ですらもなく、いきなり自宅のお風呂で裸密着から始まったらたぶん命がない。わたしが。また死んだ。

「っくぅ……っあっ……」
「ほかほかー! おふろおねーちゃんだーっ♪」

 お風呂まだなんですけどね。お風呂おねーちゃん、とかどことなくソープを連想させるので勘弁してください。ハーレム状態って、いざ自分がなってみたら難しい……なりたくてなったわけじゃないんですけどね? ハーレム。いや、そもそもこれはハーレムかなぁ……などと、なるべく冷静に冷静に現実逃避を試み続ける。その現実は、女子中学生が裸で無邪気に真正面から抱きついてきている、なので、意識を、そらす、のです。現状一杯一杯なので、これ以上ちょっとでもそれを見たり意識したりしたら、たぶん、止まれる自信がない。好きな相手の柔らかな身体を前にして、この現状でこれ以上密着状態を我慢しきれる自信は、ない。そのまま抱き返す序に押し倒しそう。真正面気質なわたしだから尚の事止まれる自信がない。ハーレムこあい。

「っこ、転ぶと危ないんですよ?」
「あっ、そっか!」

 さて置き、ハーレム要員の一人(?)の四姫ちゃんは、わたしが離れたがる真っ当な理由が分かると、素直にぱぱっと自分から離れてくれて、今度はごめんなさーいとへにゃんと反省しきりになった。……ううう、こういうところは素直だなぁと、ひしひしと感じる。一二三さんだったら、裸同士で真正面から抱き合ってるなどというこんなチャンスを自ら捨てる筈もないから絶対離れそうにないですしね。胸に抱きついたままの彼女ごと、ずるずる引きずって湯船にどぷんと沈むしかなくなるような気がする。それもそれで怠惰なカップルっぽくて良いかも……。とりあえず今は、その手の無しで、無邪気な姉妹、でいいのです。まぁこの無邪気妹の攻撃力がやたら高いんですけどね。おねえちゃん紙装甲なので勘弁してください。色んな意味でさっきから大破寸前です。ふらふらです。

「っとと、こ、これはですねー、洗わなくて良いのです」
「そうなのー?」

 自由になったので、まずはと四姫ちゃんがぶん投げて放り込んでくれた制服をお洗濯機から取り出して、それを、くるりくるりとぱたぱたと見せながら、ブレザーがどういうものか教えていく。冬服はブレザーなので、洗ったりしたらポロシャツとは違うので大惨事になる。洗ってしまった後でもクリーニングでどうにかなる……かなぁ? やったことがないのでわからないけれど。毎日着ていくのに洗わなくていいという事について、うーん? と、首を傾げ腕組みして悩む四姫ちゃん。お洗濯も出来る娘っぽいものの、どうやらこの系統はちょっと未知の領域なのかもしれない。コートとかと同じなんですよー

「うーん……かっこいい服!」
「ふふ、そうでしょう?」

 まじまじと見つめて、目を輝かせる。わたしも頬が緩んでつい微笑んでしまう。うん、女の子だもんね。お洋服には興味津々なのだろう。わたしもお気に入りの服。でもこれは制服だ。四姫ちゃんもこの春から星花に通い始めているのだから、自分が着ていたり……・・・・・・いや、そう言えば、四姫ちゃんはまだ冬服着たことないのかも? そんなに出てこない人格、と高城先生も言っていたし、衣替えが終わった後で初めて出てきた人格、なのかもね。そう考えると、懐かせるのにあの先生が手間取った、というのも頷ける。

「天日干しと滅菌スプレーと、時折クリーニングに出しちゃうのですよ」
「おおーー!! くさそう!!」
「くさくねーですよっ!!」
「いたーーーいっ!?」

 ぺしーんと軽く叩く。くさい言うな。色んなあだ名に上乗せして臭いキャラまでくっつけないで下さい。ロリペドヤクザ痴女子高生下着ドロハーレム系おねえちゃんにも積載量には限度があるのです。いやもっと容量減らしたいですよ? とっくにオーバーしきってますよ? おねえちゃん、だけでいいのですよー? そもそもわたし、お茶の匂いじゃなかったでしたっけー? ねー? いもーとー?

「えへへーでもでも、あたしおねえちゃんのにおい! だいすき!!」
「……ありがとうございます」

 あーもー、ここでだいすき! ですか。ずるいなぁ妹。そして、このおねえちゃんは何で四姫ちゃんに好かれているのかは未だに良く解らないままなんですよね。まーだご飯とお菓子しか提供できていませんしー? お菓子好き、甘いもの好き、というのは判りましたけれど、それを求めるためとか、それをくれたお礼とかで、こうしてベタベタくっついているわけではなさそうですし。

「おねえちゃんってふっしぎー」
「ふっしぎー、ですか」
「うんっ!」

 がらがらーと、お風呂の扉を開けながら、そんな会話をし始める。ふっしぎーな十さんに言われると、どのくらい不思議なのかはよく解らない。四姫ちゃん目線でふっしぎー、な訳なのだけれど、そんなにおかしい行動してましたっけね?

「優しいおねえちゃんだもん」
「ふふ、そうですよー」

 そこは自画自賛しておく。その優しさはあまり見せられてるとは思いませんが、本人がそう思うなら、そうなのだ。その認識は大事。相手の価値観を認めるのは特に大事。鍵なのだから。

「えへへ」
「ふふー」

 笑いながら、シャワーを止めてばしゃばしゃ湯船をかき混ぜて、からからかこーんしながら、先の四姫ちゃんからの、何気ない言葉を考える。
 優しいお姉ちゃんだから好き。そしてそれが、ふっしぎー、だ。二つを合わせてそのままの意味で捉えれば、今までの大多数のお姉ちゃんは優しくないお姉ちゃんだった? になるわけで。でも、だったら、おねえちゃんそのものを嫌悪、恐怖する筈。お姉ちゃん、とはその対象の筈。ひいては今いない母親のことも考えると、年上女性全般を嫌悪していく可能性の方がむしろ高い。

「まーぜこぜー♪ まーぜこぜー♪」

 けれど、保健室で待ち構えて望む程に、おねえちゃんおねえちゃんと叫ぶほどに欲する状況になったりしていたわけだ。なんだか、普通の家庭崩壊ならば、絶対至らないハズなんですがねこの領域。その前に高城先生がおねーちゃんだったわけだし、そしてそれは受け入れられている……

(そう考えると、濃い線としては……元からお姉ちゃん自体存在してない?)

 過酷な現実から逃れる為の空想内の世界で、いつの間にか存在しないお姉ちゃんに助けを求める感じになったのだろうか。頼れる素敵なお姉ちゃんを生み出して、それを、心の頼りにでもしていたのかなぁ。

「ゆーぶねーのそーこもーまーぜーこぜー♪」

 血は繋がっていないものの、いざ【お姉ちゃん】が、現実に出来た格好の今はどうなのか。頼れる姉はどう考えても高城先生の方だとは思うのだけど、当の高城おねーちゃん曰く、懐き具合はわたしが上、らしい。……まぁこれも、明日以降件の先生とお話したり戸籍関係調べれば判明もするんだけれど、やっぱり気にしてしまう。と言うのも、今のを考えれば、四姫ちゃんは既に最低一度は現実から逃げ出していたという証でもあり、そしてそこに今でも留まっている。だからこその、おねえちゃん欲であまえんぼ欲で。ここは重要なキーポイントで………・・・・

(ですから、わたし)

 こつん。頭を一つ、小突いて反省。
 また、また、何度めかの、十京に意識が持っていかれるお時間。
 ……う……ん……恋心……って、こんなにも、どうしようもなくなるものなのか……明日以降わかる……って、何度も何度も頭で理解しているというのに。ずーっとぐるんぐるんと、考えては消えて考えては消えてを繰り返している。……輝沙良きさらあたりなら、そのあたりも詳しく聞き出せそう。おべんと一緒になった時にでも聞き「しゃわーー!!」
「わぶぷっ!?」

 そうしてスキを見せると、その大事な恋人で妹が勢い良くバシャーとアタックしてくる。狭いお風呂場で逃げ場なんかないので、わあわあきゃあきゃあとバシャバシャ濡れる。お互い早くもびしょ濡れで。

「洗いっこだー!!」
「洗いっこですよーー!!」

 何故かシャワー片手にタオルを片手に身構える四姫ちゃんに、とりあえず石鹸とシャンプーを手にして構えるわたし。何やってんだろう。人ん家に来てすっ裸で何戦闘態勢とってんでしょうね? シャンプーマンとかそんなキャラですかわたし。名前的にどんなに良くても中ボスじゃないですかこれ。下手すれば雑魚です。AとかBとかシャンプーマン4ひき、とか一杯出てきそうです。たぶん相棒とか居るならコンディショナーマンとかリンスマンあたりですね。油っぽそう。

「しゃわーとたおるあたーっく!!」
「それじゃ洗えないじゃないですかーっ!」
「しまったーーーー!!」

 よく解らないテンションのままよく解らないシャワー攻撃を喰らいつつ、よく解らないまま四姫ちゃん目掛けて石鹸をぐいーっと突き出すと、タオルで受け止められて、くるくるくるりと奪い取られ

「ふははははー! せっけんはもらったー!!」
「おのれー!」

 何故か勝ち誇られた。何故か悔しがってみた。ああ、こういう意味不明なの、確かに楽しいなぁ。

「それー!! をーたーそーぷあたーっく!! おねえちゃんかくごーーー!!」
「ぐわーーーやーらーれーたー」

 やる気のない声でぽすんと椅子に乗っかるわたしに、にゃはーと楽しそうにぽふんとべちゃんとわしゃわしゃと、石鹸つけつけあわあわタオルで洗ってくれる四姫ちゃん。攻撃されつつも、先の画室での、ATTACKの意味が比較的和らげて嬉しかった。をーたーそーぷあたーっく!! には少なくとも害する意識は欠片も感じないし。油断こそ出来ないものの、こういう細かい箇所は大事だ。

「じゃーあたしの番だよーっ!」
「そーなのです?」
「ですーっ♪」

 きゃっきゃっと嬉しそうにきゅっきゅごしごししてくれる四姫ちゃん。どうやらルールは不明ながら、今の謎の戦いは、どっちが先にお互いを洗うかを決める勝負だったみたい。……単純に、それじゃんけん勝負じゃダメなんですかね? そこはまぁ、わたしが慣れればわかるとしても、をーたーそーぷあたーっく、とやらは、そこはかとなくエロい感じがするので改名して欲しい。何一つ名称は間違ってないんですけどね? 現実は、見知らぬお姉ちゃんと一緒にお風呂場で泡だらけの裸のロリが、そーぷそーぷ楽しそうに連呼してるので通報される恐れがある。もちろんわたしが。……わるいことなにひとつしてないのにほんとりふじんですね!! おねえちゃんせいかつはかこくなのです!!

「かゆところはありませんか~おだいかんさまぁ~ん」
「ないですよー後色々混じってますよー」
「ぶらんど!」

 多分、ブレンド! って言いたいんだろうなぁ。きゃはー♪ と笑顔でニコニコなので、訂正なしでいいや。いいのかわたし。おだいかんさまぁ~ん、とか、四姫ちゃん所々渋いですね。年の割に渋い、というシリアスな面もさることながら、往々にして、あっちもこっちもそっちもあれもこれもそれもそこはかとなくエロに誤解させるワードなのは何でですかね!? エロへの誘導尋問とかいうやつですか? いやでも四姫ちゃんの年齢でそこまで思いつか……・・・
 いやー……うーん……? あれ? 結構、保育園生って品のない言葉好きだし、それに親が観ている番組の影響で、時代劇の真似とかアニメの真似とかドラマの真似とかする人もいるし……現に、わたしが茶道やら剣道やら柔術やら犯罪心理学やらに詳しいのとかは、まさにそれらに当たる。

(ふむむむ……)

 ちょっと前は、人格同士が交ざり合ってる、深層下で幾つかの記憶が繋がっている、という推定で固まっていた。けれどこの、色にふやけた頭が思い掛けずに役に立ったカタチで、改めて早計、冷静に冷徹に、と思い直せた。他の人格が混ざっている影響なのか、これが四姫ちゃんの素で得た知識行動なのか、それらの判別はまだ早い、ということにしておこう。スカートめくり! とか、年少の頃は結構流行ってたしね。その延長で考えれば今のソープもお代官様プレイも神の手もその延長行動に……いやだからおねえちゃんに乗っける積載量減らして下さい。軒並み全てエロい気がするんですけど。エロもそうだけど、この渋さとかまで考えると、あまりにも一日で許容しきれる情報量じゃない。ひとまず、その多様性方向性があるよ的な程度でいいや。焦ってもさっきまでの様に、変にハマって真っ黒な方向に傾いてしまうから。

(心理学方面、あくまで素人だしなぁ)

 あくまで知識があるだけで、こなすにはまだまだ若い17歳。下手したら十さんのどれかの人格より幼い可能性があるのがわたしなのだから。ちゃんと若輩を意識して、手の届く範囲で頑張っていきましょう。テンションと恋心も手伝って変な解釈してしまいそうだしね。少しだけ、彼女について新しいところが解った気がして、一人で軽くうんうんと頷くと、それが嬉しかったのか、えへへ~♪ と真後ろからぎゅむぬるるーっと抱きついてくる。それはやーめえええ…………いやー……でもお風呂だし今ならだいじょう…………・・・・・・
 あーっ!! にゃーーーっ!!! やっぱだめーっ!!!! からだあつい!!!!! やわらかい!!!!!! ぬるぬるあわあわ!!!!!!!

「にゃっにゃーーっ!? やっやややややあやああああーーーっ!!?」
「あははー♪ おねえちゃんであたしもゴシゴシするーっ」

 むじゃきこわい。背後から抱きついて泡だらけの身体でスリスリにゅるにゅるぎゅむぎゅむっ、とか、身体が一気に瞬間沸騰し始める。こんな爆弾行動でも四姫ちゃん的にはきっとたぶん……

『おねえちゃんといっしょのタイミングであらいたいんだもんっ』

 とか、大好きおねえちゃん追っかけおそろい程度の、妹的な気持ちの一つなのかもしれないけど、けど! これまじソープになるんでやめて下さい!? ソープって行ったこと無いし今後絶対行くはずもないしそういうものなのか良くわからないけれど!! そして今はわたしの精神状態が一番の危険なので、危険人物一歩手前状態のわたしあいてにそれはですね……・・・・れ、れれ……れーせーにー……そうですそうですこれはすかーとめくりのえんちょうなのです……まぁ今はめくった先の先の先くらいの段階なので、お互い素っ裸なんですけどね!!

「あっあああっあっあーーーーっ!!? ちょっ……・・・あっそこっ……!」
「かゆいー? かゆーい~?」

 そして、例えその延長行動だとしても、それが行き着く先は近い将来同性えっちである。ぺどえっちである。……いくら好きな相手だからって四姫ちゃん相手は、その、あの…………せ、せめて、あと、四、五年は待って下さい。まぁそれでも小学三年~六年生くらいなんですけど……ってそれじゃぺどAからぺどBに変わっただけじゃねーですか!! やっぱり四姫ちゃんと致すのは犯罪者だから冷静にわたし!!!! ですので、おちついて? ひとまずペドとロリについて考えるのを止めるのです。真後ろにロリなのにペド状態の娘がくっついてヌルヌルあわあわすりすりむにゅむにゅ、をーたーそーぷあたーっく!! してくるんですけど、これについて考えてはダメなんですよ? いるのに考えちゃダメとかロリなのにペドとか、とにかくややこしさと飽きさせ無さは十京の専売特許で、四姫ちゃん状態でも変わらずだ。ロリなのにペドとはまた新しい……こんな変なのうりょくもってるわたしのこいびとすごいでしょう? どーだどーだまいったかーをーたーそーぷあたっくだぞーえへん。あ、なんだかちょっと頭がふやけすぎて脳みその方向が色々まずいしヤケ気味になってる。まだこいびとじゃねーしいもうとだしこいびとだし……? あれ、どっちだっけ……いもうとでこいびととかまた一つカルマがうわのせされてるきが……と、とにかく、裸の四姫ちゃんにくっつかれつづけている非常事態宣言なのだから、こんな時こそ、冷静冷徹冷酷のしんこっちょうのみせば……・・・・・・

(冷酷ならぺどとむりやりえっちしてもべつにいいよね……・・・・・)

 ……いやだから!! だめだって!? 何してんのわたしの冷酷!? そもそもわたしそんな性癖無いってば!? そんな方面の真骨頂なんか発揮しないでっ!?あーもーーっ!! わたしの冷酷つかえねー!! 役に立たねーー!! こーなったら残されし冷静と冷徹さで頑張るのです!! ふたりのじゅんけつはおまえらふたつにかかっているのです!!

「ふあっ……!! あひっ……やっ……・・・あぁっ」
「あっあーーーー…? なんだかふるえてるー? おねえちゃんだいじょうぶ?」

 だめです。喘ぎ声気味なのも溢れるくらいに、ビクンビクンと震えるくらいにはだめです。股間とか胸とかお腹とか背中とか脚の付け根とかもあらいっこされて、だいじょうぶ? の姿勢で、図らずもわたしのふとももとソコに腕と腋ですりすりソープしてる状態で四姫ちゃんぴたりと止まってます。振り向き上目遣いソープ妹とか何この性拷問。大丈夫なはず無いじゃないですか。こんな状態で冷静さんも陥落して唯一残された冷徹さんだけでこの難局切り抜けるには………っ!

「き・・・緊急脱出ぅーーーーっ!!」
「あにゃーっ!? おねえちゃーーっあーっあわーっ!!?」

 これ以上ソープされてると完全にとぶので、泡だらけのまま湯船にどぼん。ちょ、ちょっと物理的にも間を……間を……あ、だめ……意識が………・・・

「あーもー、おねえちゃんあわだらけー♪」

 そんな、薄れる意識を救ってくれたのは、やっぱり四姫ちゃんだ。もーしょうがないおねえちゃんだなぁーという風に、泡だらけになった湯船に、にこにこえへへと、入ってくる。

「ふ、ふふふっ湯船に入りたくなったんですよ」
「え~? 流さなくちゃ、めっめっ! だよー?」

 構わず自分も泡だらけのまま入ってくる。おそろいおそろい!! と嬉しそう。

「シメちゃんだって、あわあわですよ?」
「おねえちゃんとおそろいなんだもーんっ」

 なので、当然彼女も洗い流さずに泡だらけのまま入ってくる。咎めるわたしも、入ってくる四姫ちゃんも、お互い流して何時もは入るというのに、流さないでも笑顔だった。

「ふふふっ湯船大好きですから、お姉ちゃん我慢できなくなっちゃったんですよ」
「あははーしょうがないおねえちゃんだなーっ♪」

 しょうがないおねえちゃんですからね。煩悩に負けそうでした。でもね、好きな人がはだかであわあわぬるぬる状態で、背中からむぎゅーと抱きついてきたらこっちもパニックになりますって。おねえちゃんちょっとソープ状態はダメージでっかかったので、洗いっこはしばらくお預けです。

(うむむむむ……)

 お風呂に限らず、まず前提として四姫ちゃんの行動には慣れないとダメですね。あ!! ましょうめんから はた゛かのろり か゛ た゛きついてきた!! この行動レベルの四姫ちゃんを、いつでもどこでもいなせるように弄れる程度に、序に返す刃でくすぐったりぽふぽふしたり出来るくらいまでおねえちゃんは強くならなくてはいけないのです。……かてるびじょんがまったくみえませんねおかしいなぁ。

「でもでも、あわあわおふろってなんだかあたらしー!」
「新しい発見ですよねー」

 二人共通の話題でばしゃりばしゃりと、湯船でようやく束の間の休息。お風呂ですらなかなか休息できないあたり、四姫ちゃんは確かに手強いですね。ね? 高城綾音おねーちゃん?
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