上 下
62 / 83

星花こぼれ話その八 ~ごむ~

しおりを挟む
「ゴムっていくつ必要ですか?」
「くたばれ変態」

 頭が痛くなってきた。おかしくなってしまった同居人にお皿をべちーん。避けずに顔面にそのまま受けるのは彼女らしかった。あ、めっちゃ怒ってる。

「紙皿とはいえいてーですよ」
「恵が変なこと言うからでしょ、もう」

 文化祭が終わって数日、休日にのんびり過ごしていた何でもない一時。その油断しきった時に、なんとなしにするりとそんな事をほざくからたまったものじゃない。紙皿に乗っかった彼女特製のお豆腐チーズケーキは残り二切れ。それごとぶつけられたらまぁ彼女もそうもなる。けど原因はあんただし。

「むー……恵玲奈なら詳しいかと思ったんですけどね」
「なんでよ! 詳しくないよ!」

 どれだけ変態と思われてるんだろうか。そりゃ確かに、性知識とか性関係に関しては恵よりかは私が詳しいというのは正しいと思うけど。確かにそんな系統のプレイには心当たりあるけど! その上同室だからそういうのを悟られるかもしんないけど!! ね? ほら恵さんや? オブラートって言葉もあるのよ? 直球も直球なあんたらしいっちゃらしいんだけどさー? ゴム言うな。いくつ必要とか具体的な個数言うな。状況に拠るし。いやそうじゃないし。女同士でそんなに使うか。どんなプレイだ。

「でも恵玲奈いつもしてるじゃないですか?」
「何時もしてないよ!? どんなだよ私!?」

 ウサギみたいに言うな。確かに寂しいと死んじゃう系かもしんないけど! ……くそう部分部分で当たってるのが憎らしい。恵らしい。鋭いトコ鋭いし見てるとこ見てるからなぁこいつはー

「ほむ……確かにココではあんまりしてないですね」
「あっ……うぅ……ぅん……」
「?」

 回数がバレてたとかもんのすっごく恥ずかしいんですけど!? かあぁぁ、と紅く熱くなる私を、冷静な顔で首を傾げながら眺めて、ふにゅ、とか納得したのかしてないのかよく解らない呟きを残して、残りのお豆腐チーズケーキをさくりと小綺麗に小さく切り取り分けていく恵。うーん、冷凍用にもう少し濃ゆく作りましょうか、とか呟いている。

(家庭的な娘、よねぇ。色々含んで、さ)

 あんまり自身を評価しない彼女だけど、こういう繊細で小さな事をこなしてくれるし、その仕草も一々可愛いかったりもする。ファンクラブとかも、彼女の、往々にして直情径行な方向だけじゃなく、それとは真逆とも思える静かな箇所を見逃していないから好きなのだろう。ふにゅ、とか敬語とか敬語なのにどっか悪い口調とか、時々意味不明な仕草も合わせて、結構かわいいんだよね、恵。

「えっろい唸り声出さないで下さいよもう、身の危険感じます」
「やらないよ!! 食べないよ!!」
「ふふふっ」

 今みたいに真っ直ぐすぎるのが魅力でもあり、弱点でもあるんだけど。そこはわりと柔軟だったりするからあなどれない。今もそう。立て続けにゴムとかいうエロ話題を聞かない押さないで、こうして一先ず間を作ろうとしてる。出来ればそのまま忘れ去って欲しいなぁー

「恵玲奈ーわたしそんなにおかしい事聞いてますかね?」
「一先ずデリカシープリーズ!!」
「はいどうぞ」
「わーい♪ ってチーズケーキじゃねーか!!」

 ぺしーん。何時もの漫才で特に意味のない会話で序に雑学が増えていく会話。こういう変な漫才ができるのも、恵の特色なんだろう。気品はあるのにお嬢様らしくない。最近はその気品も疑われるけれどね。いいよねロリ相手にゴムとかって。いや良くない。随分高度じゃない恵さん?

「デリカシーケーキって何かありそうじゃないですか?」
「デリシャスケーキとかなら聞いたことあるわね」

 てかデリカシーケーキってなんだ。おしとやかそう? ……ううん、想像つかないわね。でも、恵なら何か創ってしまえる気もする。創作意欲の塊でもあるのが彼女の魅力の一つでもあるし。

「んで? このチーズケーキはデリカシーなのかしら?」
「チーズじゃなくて豆腐ケーキですってば」
「チーズもちゃんと入ってるし別に良いんじゃないかな?」

 もぐ。もぐもぐ。

「味もチーズだし」
「そうでしょうそうでしょう」
「ふふ」

 目を閉じて無い胸張ってどやぁする恵。かわいいわね。

「ふふっ、要はタンパク質ですからね」
「まっそれもそうか。バター使わないと不味くなるのも」
「ええ。使うべきトコにさえ使えばそれで良いのですよ」
「チーズそのものが少ないのもそのため、かぁ」

 そう。言われれば豆腐、なんだけど、言われなければチーズケーキそのもので押し通せるほどだ。チーズ少々豆腐一丁。最初はうへぇーと思ったものの、食べたらケーキだったから大げさに驚いたっけ。発酵食品を使ってるから成し得る技なんだろう。

『原稿書く際甘味欲しがるだろうから、わたしのおやつの序ですけどね』

 と、毎日じゃないものの結構作ってくれるのは嬉しいしありがたい。クッキーも豆乳入りで作ってくれる。序ですから、と言う割に頻繁に作ってくれる。ツンデレめー。恵さまさまだ。低カロリーを意識して作り方を色々学んだらしいけど、お互いこれがぺたんこの原因の一つなんじゃないかな……高カロリーのほうが膨らむかなぁ……

「ええ。でもチーズ主力じゃないのにチーズと嘘をばら撒くのは良くないですしね」
「甘い甘い。人間嘘は7割つくものよ!」
「それ、饒舌な時は、じゃなかったでしたっけ?」

 そんな事を思いながら、あてもないお話で二人でもぐもぐ、お茶をずずーと頂くおやつ時。何の事はない休日のひと時で、それでもお互いが近頃漸く迎えた平穏な日々ってやつで。偶には学校もお勉強も部活も、恋も置いてく時間も欲しいのよ。

「そ言えば文化祭はどうでしたか?」
「ん、上々……いや……うーん……」
「まぁそうですよね」
「……むー」

 こてん、とテーブルに突っ伏する私に、髪の毛をさらりさらりと梳かしていく恵。さらさらですねー、とか聞こえる。うん。さらさらだぞーこころはどろどろだぞー

「そーゆーめぐみはどーなのよ~」
「やりました」
「早えよ!?」
「ふふん」

 がばっと見上げたら、どーんと腕組みしてドヤ顔してる。まだひと月足らずだというのに、もう? 致しちゃったの? 十さんとやっちゃったの? あと致しちゃった後でゴムとか最低なんですけど……?

「でも恵って今からゴム使うの?」
「ええ。十さんにも渡そうかと思いまして」
「ろりぺど……」
「ちげーです」
「えーえー! だめでーすおかーさんは納得できませーん!!」
「そんなにおかしい事わたし言いましたかねぇ……恵玲奈おかーさん?」

 今度は首をひねって本格的に悩みだす彼女。おかーさんと言い出した私に乗ってくれるのも、また彼女らしい。お腹つままないで。このおかーさんは太ってないですー

「だ、だって、そりゃあんた必要ないんじゃない?」

 致しちゃったんだろー? ほらー? 今更いらないでしょー?

「そりゃそうかもしれませんけどね?」

 すぐ認めんなよ!

「でも、ファッションって大事じゃないですか?」
「えーー!?」

 ゴムを装着するのがふぁっしょんとか、何処までいくんだこの娘。やばい私より格段に変態への階段を一足飛びで登ってる気がする!!

「ほら、素朴もいいですけど我らは文化圏に生きてるんですし」
「またスケールが大っきいわね」
「わたしですからね」
「そーだわね」

 まぁ文化には違いない……うーんうーん聞いてると間違ってないように聞こえるから不思議だなぁ。ゴム装着は文化の証……いやおかしいだろ。間違ってるよ。どんな文化圏よ!?

「使えるものは使ってみるのもおしゃれ、ですよ?」
「えー、うーん……」
「なんか恵玲奈は何時もしてる割に否定的ですねぇ……」
「何時もそんなエロいことしてないっての!!」
「……」
「……」

 固まった。おーい。もしもーし? めーぐみさーん? ばすと78くらいのめーぐみさーん?

「今何か失礼なこと考えませんでした?」
「カンガエテナイヨー」
「それよか、ばんざーい」
「……?」

 な、なんだろ? バンザイした瞬間上着をめくられて身動き取れなくして殴り倒してくるのかな? いやいや78だからって胸よろしくそこまで心も狭くないでしょ。私もそんなんもんだけど。くそうなんか悔しい。

「ほら、恵玲奈、ばんざーい」
「ば、ばんざーい?」

 とりあえず、する。ばんざーい。恵も、ばんざーい。うん、二人で何やってるんだろうか? ちょこんと小さな恵はこんなポーズも可愛らしい。

「そのまま、肘曲げてーそうですそうです、髪の結び目」
「……?」
「それ、てしてししてみて?」

 …………・・・・・・・・ ・ ・ あ

「あ、あー……」
「はい。それ、触ってるのなんですかね?」
「……ゴムです」
「ゴムですね」
「……」
「……」
「あ、うー……はい」
「はい」
「あのですねめぐみさま」
「遺言あったら聞きますよ?」
「り、リボンの日もあるし……」
「うるせーですよこのドエロ! 変態!! 恵露奈!!!」
「ごっごめんなさーいっ!!」

――――――――――――

「で、ゴムでいったいどうやってなにをするつもりなんですかねぇ……?」
「たんこぶいたい」
「うるせーへんたい」
「めぐみはもうすこしおぶらーとを!!」
「おぶらーと……ふむ、膜で包むのですね……確かに柔らかくなるかも……」
「あ、やだひわい……」
「?」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

憑依転生~女最弱騎士になった『俺』が最強に成り上がるまで

水無土豆
ファンタジー
 この世のありとあらゆる【不運】を配合し、焙煎させて粉砕し、抽出したものをさらに濃くしたような不運を経験し、最終的にしょーもない死を遂げてしまった主人公、タカシ。  神様はそんなタカシに一抹のお詫びを込めて、古今東西ありとあらゆる最強スキルを地獄の特訓の末に身につけさせた。 「もはや人の身で、そなたに勝る人間はおらぬだろう。……たぶんね。(はぁと」 「ハァハァ……じ、ジジイが。いまさら可愛い子ぶってんじゃ――あああああああああああああ!!(転生)」  神は一方的にそう告げると、剣と魔法が支配するファンタジー世界へタカシを強制的に転生させた。  どうせなら、と第二の人生を、おお手を振って謳歌しようとするタカシ。  しかし、その転生先は腹を刺し貫かれ、死んでいたアルバイト女騎士のルーシー。  タカシは激痛を我慢しつつ、とりあえず周りにいた敵を殲滅したものの、気が付くと体の持ち主であるルーシーもヒトダマとなって復活していた。 『ちょっと! ねえ! わたしの体、返してくださいよ! わたしのですよ、わたしの! ていうか、あなた誰ですか? ……あれ? 返事がない? おーい、聞こえてますかー?』 「チッ……、またあとでな」 『ああ! いま舌打ちしましたね!? 聞きましたよ、聞いちゃいましたよ! しっかりと! あーあ、怒っちゃったもんね。怒っちゃったんですよ! わたし! おこ! ぷんぷん!』 「(なんだこいつ。無視しよ、無視)」  周りの環境に翻弄されながらも、持ち前の最強スキルと汗と涙、その他いろいろな液体を垂れ流しながら頑張る、ドタバタサクセスストーリー。

ぜ、絶対にデレてやるもんか!

寝癖王子
青春
上谷香月は憧れの生徒会の一員となったものの、同級生の神谷玲奈との折り合いが悪く、三ヶ月で彼女と共に生徒会を追い出される。 生徒会復帰の為に香月の提案したどちらが生徒会を辞めるかを決する「先にデレた方が負け」という勝負。 それはなんと二人で非常に恥ずかしいことをするという罰ゲームのようなものだった――!? 「お前なんかこっちから願い下げだ!」 「ふんっ、荷物纏めて出てくのはあんたの方よ!」 (ああああっ! なんだこいつ可愛すぎだろ……語彙力死んだぁぁっ!) (やっぱり、嘘嘘! 気づきなさいよ、バガバカバカっ……) これは天邪鬼な二人が互いにキュン死しながら、素直になるまでの青臭〜いお話。 ※小説家になろう、カクヨム、ノベルバでも掲載

暴走♡アイドル2 ~ヨゾラノナミダ~

雪ノ瀬瞬
青春
夏だ!旅行だ!大阪だ! 暁愛羽は神奈川の暴走族「暴走愛努流」の総長。 関東最大級の東京連合と神奈川4大暴走族や仲間たちと激闘を繰り広げた。 夏休みにバイク屋の娘月下綺夜羅と東京連合の総長雪ノ瀬瞬と共に峠に走りに来ていた愛羽は、大阪から1人で関東へ走りに来ていた謎の少女、風矢咲薇と出会う。 愛羽と綺夜羅はそれぞれ仲間たちと大阪に旅行に行くと咲薇をめぐったトラブルに巻きこまれ、関西で連続暴走族襲撃事件を起こす犯人に綺夜羅が斬られてしまう。 その裏には1人の少女の壮絶な人生が関係していた。

この一球に

今居 勇気
青春
春から中学生になる早川 尚 中学になって初めてできた友達に誘われた部活に行ってみるとそこに広がっていたのは…… 3年間という限られた時間の中で精一杯にもがき続ける早川 尚のストーリー

自らを越えて 第二巻

多谷昇太
青春
小説が長くなってしまったので2巻に分けました。こちら第二巻もよろしくご愛読のほどをお願い致します。 これは一言で云ってしまえば「青春小説」です。大人のネット小説である当アルファポリスには不向き?と思いましたが、この小説は別趣「プラトニック・ラブ小説」の要素もあり、僭越ながら常々私はもし最たる官能小説があるとするならば、それはSEXの四十八手をひたすら追求描写するよりも、ピュアな、それこそキス一つの場面さえない、互いの互いに対する心模様と何気ない行為を、丹念に描写するに限る…と思っているのです。ですから当小説には強弁にはなりますが確かにそのプラトニック・ラブの要素もありますので、読むに不向きと仰らずに、どうかご一読のほどをお願い申し上げます。作者・多谷昇太より。

嘘もメイクもやめられない!

蒼獅
青春
「本当の自分を隠して、友だちと接することって、誰でもあるよね?」 高校1年生の橘サクラ(タチバナ サクラ)は、いつも友達と楽しく過ごしているけれど、実は“本当の自分”を隠してる。SNSが当たり前のこの時代、彼女の周りの友達もまた、メイクを重ねるように、嘘で作られた関係を築いている。でも、その偽りの姿が思いもよらない形で彼女たちを傷つけ、混乱させていく…。 メイクするみたいに嘘を重ねる毎日に、心がどんどん疲れていく中で、彼女は「本当の私」を見つけられるのか? 共感できる!と思ったあなたは、ぜひ『嘘もメイクもやめられない!』をチェックして、お気に入り登録お願いします✨

金貨1,000万枚貯まったので勇者辞めてハーレム作ってスローライフ送ります!!

夕凪五月雨影法師
ファンタジー
AIイラストあり! 追放された世界最強の勇者が、ハーレムの女の子たちと自由気ままなスローライフを送る、ちょっとエッチでハートフルな異世界ラブコメディ!! 国内最強の勇者パーティを率いる勇者ユーリが、突然の引退を宣言した。 幼い頃に神託を受けて勇者に選ばれて以来、寝る間も惜しんで人々を助け続けてきたユーリ。 彼はもう限界だったのだ。 「これからは好きな時に寝て、好きな時に食べて、好きな時に好きな子とエッチしてやる!! ハーレム作ってやるーーーー!!」 そんな発言に愛想を尽かし、パーティメンバーは彼の元から去っていくが……。 その引退の裏には、世界をも巻き込む大規模な陰謀が隠されていた。 その陰謀によって、ユーリは勇者引退を余儀なくされ、全てを失った……。 かのように思われた。 「はい、じゃあ僕もう勇者じゃないから、こっからは好きにやらせて貰うね」 勇者としての条約や規約に縛られていた彼は、力をセーブしたまま活動を強いられていたのだ。 本来の力を取り戻した彼は、その強大な魔力と、金貨1,000万枚にものを言わせ、好き勝手に人々を救い、気ままに高難度ダンジョンを攻略し、そして自身をざまぁした巨大な陰謀に立ち向かっていく!! 基本的には、金持ちで最強の勇者が、ハーレムの女の子たちとまったりするだけのスローライフコメディです。 異世界版の光源氏のようなストーリーです! ……やっぱりちょっと違います笑 また、AIイラストは初心者ですので、あくまでも小説のおまけ程度に考えていただければ……(震え声)

タビスルムスメ

深町珠
青春
乗務員の手記を元にした、楽しい作品です。 現在、九州の旅をしています。現地取材を元にしている、ドキュメントふうのところもあります。 旅先で、いろんな人と出会います。 職業柄、鉄道乗務員ともお友達になります。 出会って、別れます。旅ですね。 日生愛紗:21歳。飫肥出身。バスガイド=>運転士。 石川菜由:21歳。鹿児島出身。元バスガイド。 青島由香:20歳。神奈川出身。バスガイド。 藤野友里恵:20歳。神奈川出身。バスガイド。 日光真由美:19歳。人吉在住。国鉄人吉車掌区、車掌補。 荻恵:21歳。熊本在住。国鉄熊本車掌区、車掌。 坂倉真由美:19歳。熊本在住。国鉄熊本車掌区、車掌補。 三芳らら:15歳。立野在住。熊本高校の学生、猫が好き。 鈴木朋恵:19歳。熊本在住。国鉄熊本車掌区、車掌補。 板倉裕子:20歳。熊本在住。国鉄熊本車掌区、車掌。 日高パトリシアかずみ:18歳。大分在住。国鉄大分車掌区、客室乗務員。 坂倉奈緒美:16歳。熊本在住。熊本高校の学生、三芳ららの友達・坂倉真由美の妹。 橋本理沙:25歳。大分在住。国鉄大分機関区、機関士。 三井洋子:21歳。大分在住。国鉄大分車掌区。車掌。 松井文子:18歳。大分在住。国鉄大分車掌区。客室乗務員。

処理中です...