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星花こぼれ話その六 ~千ノ緑ノ只中二 一点咲クハ 可憐華~

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 だいぶ前になる、とは思う。

「阿津華さん阿津華さん」
「なーに?」

 彼女が語る。あたしが返す。
 笑っている彼女は、自然体。
 ふわさらさらりと揺れるあたしの長髪に。
 すぅっとさらりと流れるセミロング。

「で、次はどうするべきか悩んでるのですよ」
「そのまま恵さんらしく突撃、では何か違う気がする、と」
「ええ」

 応えながら、彼女は何時からだったかと思い出す。彼女とは何時からだったかと思い返す。
 最初はもっと、ぎこちなかったっけ。その次も、そのまた次も。
 一体何時からだっただろうか。

「……初心はどうだったかな」
「はい?」

 ポツリと出た、その言葉。
 恵の初心は、どうだったんだろう? あたしに対する、皆に対する、件の苦戦中の彼女、十さんに対する、最初は。

 それは、だいぶ前になるとは思う。

「ああ、恵さんには余計なお世話になっちゃうから」
「そうですか……」

 だから、今の恵には必要のない事。
 彼女はいつの間にかめんどくさがりなあたしよりも、どんどん進んでいっている。みのりや輝沙良も追い抜いていって、いずれはあたしと同じような道を歩むんだろう。

(その道が過酷だとしても……ね)

 だが、十さんは、どうだろう? あたしや恵が遥か前に過ぎ去った地点。未だそこにいるのではないだろうか?
いや、居て当たり前。彼女は遥かに年下のハズ。そこらあたりに齟齬が生まれているのかもしれない。

「でも、知りたいですね」
「ふふっ、それが今の恵さんだわ」
「ふぇ?」

 クスリと笑うあたしに、クエスチョンマークがいっぱい頭上に浮かんでいるであろう恵。うんうん、今日もとてもかわいい。だから、教えてあげないのだ。ちゃんとツッコんでくれる恵。解らなかったらどんどん突撃する姿勢。その領域、何時からだっただろうか。その領域。今の恵らしさになるまで、どのくらいだっただろう?

「十さんは、今どの辺りかしら?」
「う、うーん? ……なんですかー? あーつかさーん?」

 白旗が早い。恵焦ってるなぁ。ますます楽しくなるので、やっぱり教えてあげないのだ。

「ふふっ、いいのいいの。恵さんなら直に解るんだもん」
「えー! なーんでーすかー!!」

 ><こーんな目してポカポカ殴って訴えてくる同級生に苦笑いしつつ、撫でくしゃにして曖昧に流してしまう。

「いいからいいから、あたしよりも件の彼女、お時間平気?」

 煙にふわんと混ぜ合わせて、時間なんかを添えれば

「……あっ」
「ふふっ、放課後長々、大分お熱のようねぇ」
「ふぐぐぐ……また時間をわすれて……っ」
「ささ、特効薬なんだから、行ってあげなさいな」
「うにゅーー……ありがとうです」

 序に助言とからかい上乗せで、カラカラ笑いながら見送る。それが、あたしの立ち位置。もやもやしっぱなしながらも、まんざらでもない顔の友。疑問が疑問のままどころかあたしが引っ掻き回したような形で終わったため、更に厄介になったようだ。

(そこで、ありがとう、だからねぇ)

 ……いつからだろう? 四方田恵がああも強くなったのは。
 こっちに来たすぐは、片鱗こそあれここまで強くはなかった。

「鮮やか」
「いぇい」

 後ろで座っていたあたしの恋人が、漸く口を開いた。こいつにも恵とお話して欲しいものだけれど、ヤキモチなのかあたしとお話が弾んでいると、押し黙る傾向にある。

「……しかし最後は随分あしらったわね?」
「あら、いつも通りよ」
「それが何時も通りって……何だか可愛そう」
「可愛いからね、恵は」
「……」
「可愛い子には旅をさせるものよ」
「娘じゃないんだから……」

 敵愾心めいたモノから呆れ顔、巻き込まれた恵に同情するほどに変わる彼女。ひどい。そこまであたしも鬼じゃないのに。困ってる恵が可愛いから悪い。懸命に頑張る姿が可愛いのが悪い。あたしわるくなーいもん。

「ね」
「何?」
「好きよ」
「……ばーかっ!」

 不意打ちで、彼女にほろりとささやき、至近距離で浴びた恋人は、堪らず悪態をつきながら顔を背ける。

 この、行為。

 いつからだろう?

 いつから、あたしたちはこうだった?

「ね」
「……なーにっ?」

 力が篭りつつ怒りながら、そして嬉しそうな彼女の声。弾む怒声というのも、なかなかこの娘にしては器用だなと感じる。
 そう、嬉しがる。
 同性からの囁きを、嬉しがる。
 同性からの、愛のささやきを、感情を、受け入れ喜ぶ。

「初心はどうだったかな」
「はい?」

 二回目の、それは同じく同じ音で受けられて

「一目惚れ?」

 違う音で、返された。

「……案外、そうなのかもね」
「あっかの方は、違ったけど、さ」

 あたしたちは、そういう生き物。
 あたしも彼女も、恵も。
 ねぇ恵? 貴女はちゃんと、十さんを、確かめた? あの娘はいつから、こうだった?
 そして、本当にこっち側?

「……あっかぁ?」
「……はい、反省。すいません」
「いいの。あっかのそゆとこも含めて好きだから」
「待たせて放置した挙句、別れた余韻まで全部恵さんに向かってたんじゃ、反省よ」

 クスクス笑いながら応えるあたしに、彼女は、へっと一つ軽く笑い、慣れてるわよと、同じくクスクス笑い出す。そうそう。貴女はそういう人。あたしなんかにはもったいないくらい一途な女。

「じゃ、今夜は阿津華の料理食べたいわ」
「いいわよ~変なのとか嫌いなものたっぷり入れちゃおうっと」
「前言撤回、嫌い」
「ゆるしてくださいなんでもします」

 今は、楽しもうじゃない。その後目一杯悩む時が来るとしても。
 あたし達は、この世界で生きていくのだから。
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