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第26話 ~手を繋いで引き連れて?~

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 茶道部部室は未だがらんとしていた。

「あれ? 副部長? 一年もも居ないのです?」
「ああ、今んとこコレだけよ」
「うんうん、丁度いいわ」

 なか、とは、中等部部員達のコト。頭文字を取っただけだけれど、同じく三学年ある高等部と中等部、二年生とか一年生とかで纏めて呼ぶ際には特に紛らわしくなってしまうので、シンプルながらもこの呼び方は重要だ。苗字や名前が被ろうものならミスの連発。楽しいこともあるけれど、基本マイナスが多いのでこういう名称が生まれたとの事。

(それにしても、初めてかも)

 副部長と沙姫とわたし、三人だけの部室。殴られた頭を擦りながら思い返す。お姉さま目的で真っ先に来たりする娘が大抵居る。それを超えるために他のお姉さま目的の部員がもっと速く登校して、それを超えるために他のお姉さま目的の部員がもっと速く登校して……と、ループしてループして、結果、大凡大体お姉さま好きな年下達が部室一番乗りをする。自動的にお掃除やら準備やらが彼女達に。そしてそのうちに一番乗りした人がお姉さまに甘える権利とか変なルールを生み出したり、上の人達はそんなひよっ子達を可愛がったり叱ったり窘めたり、基本可愛がりつつお菓子を持ってきて、きゃいきゃいしながら部活準備という流れ。そんな、我が部活動の先陣を切る彼女達が今一人も居ない。先を争う彼女達より早いのは、教室の位置と、この離れの場所の関係もあって、久しく味わっていなかった。

「城咲さんも美晴さんも来てないのは新鮮ですねぇ」
「シロちゃんみはるんはどっちか常にいるイメージあるからねー」

 沙姫と二人で頷き合う。城咲紅葉に泉美晴。可愛い後輩達の中でも、姿を見ない方が珍しい存在。図書館によく足を運ぶ城咲さんはともかく、特に向上心の塊でもある美晴までいないというのはなかなかお目にかかれない。おでこをさすりさすりしつつ、そんな後輩たちが誰もいない部室をきょろりと見渡すと、何時もよりも、ずっと広くずっと静かに感じられた。開放感のある和室。広々とした空間。何時もは障子を締め切っていて、こじんまりとした印象が強いけれど、全てを開け放すと、厳かというより、剛毅な造りという方がしっくりくる。

「にしても副部長ももちょっと手加減欲しいなー」

 同じく頭を擦っている沙姫は、わたしより強めにツッコまれたのか、その箇所は少し赤い。もっと突っ込まれてもいいのに。

「二人揃ってやかましーもの。たまにゃーお淑やかさも出しなさい?」
「え? わたしも?」

 コクリと頷く島津美空しまづみそら副部長。

「えー!」

 心外だ。こいつほど騒がしくした覚えはないのに。お淑やかさには自信が……………あ、あれ? 振り返ってみると程々にはしっかり騒がしかった気がする。しょっちゅう。あの時もあんな時も……

「えっと……その……」
「思い当たる節があるようで」
「ははーっ!!」

 何故か変な謝り方になった。それを受けて苦笑いする副部長。こんな所がわたしはお嬢様らしくないのだ。うーんでもお淑やかさまで欠け始めているのは不味いなぁ。十さんの見本にもなりたい手前、今一度初心を思い出さなくてはね。

「まっそれは四方田も進化してるという証拠だから大目に見てる!」
「きゃーさっすが島津先輩やっさしー!!」

 わたしがぽりぽり頬をかいてる間に、嬉しそうに先輩の腕に抱きつく沙姫に、苦笑いなままでぐいぐい引っぺがす副部長。

「だ~か~らーそれをやめろーってのっ!!」
「えー違う女の匂いを一生懸命付けてる健気な後輩にひどーい!!」
「尚悪いわ!! そんな健気はいりませんー!!」

 困った後輩をペシペシはたく副部長にひどい台詞を隠しもせずに垂れ流しながらの悪戯顔の沙姫。大胆に胸をぎゅうっと腕に身体に押し付けて、ぴっとりくっつきすりすりと、悪戯猫のように自身の身体を、匂いをこすりつける。部長と副部長が出来てるのを知っていて、こういうコトをしょっちゅうするから沙姫は叩かれるんだけど……その前にアンタ宇田さんとにゃんにゃんしたんじゃなかったのかよ。さっき四回連続とか下着つけたままとか欲しくもない情報もらって知ってしまっているのだからわたしは知ってるんですよ?

 ……

(……付き合うとやっぱり)

 …………いやいや。うん。わたしはそんなことしないしない。……うん。浮気じゃないし。違うし。四夜連続とか激しいこと多分しないし。……しないほうがいいよね。うん。いや、うーん……どうなのかなぁ……

(うーん)

 二人のじゃれ合い(?)を見ている間に、何かもやもやと変な気持ちが膨らんできていて、何時もならば、やれやれ、といいながら二人を叩きながらわたしも引っぺがす。のだけれど。

「わたしも付けてみましょうか」

 なんだか、そんな気分。えいっと空いた片方にくっつく。運動系でもないのにカラッとしている島津先輩らしく、さわやかな香りがわたしに降り注ぐ。うん、副部長の香りだー

「あっちょっ!? しっ四方田が攻める!?」
「ふっふっふーどーですか~みそらせんぱーい? うちのめぐにゃんいい物件ですよ~?」
「ふふふ~そんな沙姫さんも優良物件じゃないですか~」

 すりすりふにふにと悪戯顔でくっつく後輩二人に焦る先輩副部長。引退直前でわたしからこんな謎攻撃食らうとは思ってもいなかっただろう。まぁ、スキあり! というわけで、スキが多いらしいわたしとしては、むしろこういうことをよくされる側なのである。なので、こういう時何処にスキが出来やすいか、何となく分かる。普段のお返しなのだ。仕返しなのだ。

「だっだめだって!!」
「いいじゃないですかぁ~スキンシップスキンシップ!」
「ですです。ぶら下がっちゃいますよー」
「あーちょちょちょ……重いー! 重ーいっ!」
「めぐみはおもいおんな!」
「おもくねーですよっ!!」

 きゃいきゃいじゃれつくわたし達に、おもいおもいー!! 言いながらぶんぶんぐるぐる振り回しー

「とあーーーっ!!」
「「きゃー」」

 ぶん回してぶん回されて、結果は後輩二人の完敗で。べたーっとごろごろ転がって、大の字二つが出来上がり。少し遅れて、先輩一人もふらふらどさりと倒れこむ。お嬢様らしくないお嬢様がお嬢様学園内で三人完成。活発一人に元気一人に変なの一人。誰が変なのだ。

「いっぽーん、しまづせんしゅのかちー!」
「それ言うなら二本じゃないですかね」
「そもそも今の柔道じゃないでしょ……」

 畳ぐらいしか繋がりが無いので御尤も。わたしと沙姫の二人ボケ状態。普段ネタをよく振ってくれる、ボケ役な先輩だけど、ちゃんとツッコんでくれもする副部長は、ふざけながらもやっぱり面倒見のいい先輩だ。こういう時も、ちゃんとしっかり先輩だった。

(いなくなっちゃうんだよね)

 寝転がったまま、首を向ける。視線の先には沙姫とギャンギャン言い合う彼女。さっきーはもっと家元の格をだねーとか、先輩こそ九州の武将じゃないですかー鬼島津の格をですねー、とか、武将言うなエロ娘ー、とか言い合いながら、笑ったりムスッとしたり弄ったり。その表情はコロコロ変わる。こざっぱりとしたボーイッシュな先輩。

「うーん」
「ん? どうしたの?」
「なになに~なーになーにめーぐめぐー」

 二人が目ざとく耳ざとく。口も意識も二人の間。だというのに此方にもしっかり応えてくる。彼女達らしいなぁ、と心の中でクスリと微笑み

「副部長って、大変かなって、考えてました」

 僅かな思巡後、そんな言葉がついっと出る。

「四方田らしくやればいいの」

 それに応じて、カラッとした空気で、爽やかに、笑いながら副部長が応える。

「私のように、とか、あの痴女のように、とかやんなくていいからね」
「そーなのです?」
「そーなのよー」
「そーなのかー!!」

 痴女、とは、部長のコトだろう。ひどい言われようだけれどしょうがない。わたし自身、活動的かと言われるとそうでもないし、どちらかと言えば保守的なのだし。あたりまえだし。和室で、茶室で、畳の上でやってこそだと思うのだけれど、部長も副部長も、序に沙姫も、そこにはあまりこだわらない。そして、その拘らない流れを一年二年通してやってきたわけで。

「ううん」

 悩んでしまう。所謂この部活は今はいい流れ、というやつだろう。そこを止めてしまうのは、わたしもやはり気が引ける。美沙もそうだろうし良子もなんだかんだ言いつつ、これも茶道の一法と受け止めている。元々が運動系な京子は言わずもがなだ。その京子宜しく受け止めるのは気の持ちようなんだろうけれど、最初のわたしや京子が感じたように、その最初で大きく躓きやすいという欠点もある。つまりは、入り口がおかしい。部員が集めづらいという現実的な問題だ。

「破壊と創造は交互に、でもいいしさ」

 悩んでるわたしに手が添えられ、つっと見上げるとそこには副部長の凛々しい顔。
 
「破壊ばっかりだと、どんなのが元がわからなくなるし」

 続けてぽふっとそのまま頭を撫でられる。されるがままに、寝そべりながらコクコク頷き甘えてみる。少し頭を寄せると、太ももで受けてくれた。この破壊者は、温かい。とても、温かい。

「わたしも、程々に壊していきますよ」
「えー全部壊そうぜ!!」
「茶道が跡形もなくなっちゃいますよぅ」

 反対側からの友人の声にくすりと微笑み、あははと返され、壊して壊して瓦礫の上からスタートだー!! とか変なポーズ付きで続ける友は、やっぱり元気で、眩しい。とても、輝いていて眩しい。瓦礫になって一から造る身にもなって欲しい。わたしと美沙に何を背負わせようというのかこの友人は。

「……さっきーを副部長に選ばなくて、ホンット良かったわ」
「あ、みそらんひどいですー」
「みそらん言うな。敬語使え」
「えー味噌ラーメンみたいで可愛いからいいじゃないですか」
「良くない。可愛くない可愛くない。そもそもかわいい分類に属する単語じゃない」
「めぐが塩ラーメンなんですから責任取って味噌ラーメンを名乗るべきですよ」
「何の責任だよ。なんで必須なのよ」
「副部長としての責務ですよ重要じゃないですか何言ってんですか」
「そんなラーメンの引き継ぎいらないわよ……ってかなんでキレ気味なのよ」
「みそらんだけめぐとあだ名お揃いとかずるい!」
「揃えたのアンタでしょ沙っ姫ー」
「おのれ! 図ったなバスト82!!」
「バラすんじゃねぇ!! てか何で知ってんのさ!?」
「適当言いました!! 当たった!! やった!! 勝った!!」
「ええい勝つな!! このやろ!!」
「あだっ!? いたいいたい! たんこぶできちゃう! うまれちゃう!!」

 先輩相手に副部長相手に敬語ながらも敬意があるのか無いのか意味不明な言葉をぽんぽん投げつける沙姫に、そんな彼女をうっとおしがるふりをしながら、空いた片手でぺしぺし叩きながらぽこぽこお相手する副部長。見れば沙姫も、わたしの反対側で、ころんと横になっていた。二人で一人の先輩にくっついて、なでなでペシペシされている。ペシペシが加速している。口が減らない沙姫らしくてふふっと笑ってしまった。生まれる言うな。まだ病院行ってないでしょ。82とか爆発しろ。

「ところで、今日みんな遅いですね?」

 声を出した流れの序で、ポツリと気になる事を訪ねてみる。今日は学園祭の準備だったはずであり、最も人手が必要な筈の日だ。そのハズの日に三人はいくらなんでもおかしい。授業だってとうの昔に終わっている時間なのに。

「うん。今はみんなお外だもん」
「え」

 ……あれ?

「え、あれ? じゅ、準備は?」
「うん。準備だよ~」
「準備よー」

 人手が必要なのに何時まで経っても三人で、そのうち二人はなんかニヤニヤしてる。なんだ。あれか。なんか計られたか。わたしがいない間になんて身勝手な……わたしのほうがみがってでしたすいません。と言うわけで、いくらニヤニヤされようと個人処置は甘んじて受けなければならない。それはいい。けれど。部活全体学園祭に関わることだ。みんながみんな準備放置で何時もの部活を行っているという可能性は少ない。何時もと言うか郊外部活ではあるらしいけれど、それ自体おかしい。郊外でお茶を点てる場合は土曜日曜のはず。

「みんなも準備しているのですか?」
「ええ。丁度今日仕上がるからね。みんなで受け取りなのよ」
「そーそー、あたし達は飾り付け担当!」

 何かを受け取るらしい。その事はメールには書かれていなかったと思う。

(……)

 まぁ、さっきのニヤニヤで大体読めるのですけれどね。わたしに何か内緒で何かをさせるために準備したネタがあるのだろう。それをわたしが現れないうちにこっそり取ってきてるというわけで。

「うーん、まぁ学園祭ボイコットとかでなければなんでもいいですよ」
「よーし、四方田の言質とった!!」
「取りましたねーほーら言った通り!!」

 言った通りらしい。なんか悔しいのでケリを入れておく。ふべっとか聞こえたけど気のせいです。幻聴です。

「めぐーほねおれたー」
「気のせいです」
「きのせいならしょうがないな!」
「復帰はえーです」
「速い女だからね!」

 速いらしい。沙姫はその綺麗な容姿の割にこういう意味不明なギャップが面白いので、ついついみんなで絡んでしまう。大抵絡んだそばから酷いことになるのだけれど。バストサイズバラされるとか現在進行形でひどい事になっているのだけれど……実のとこ、それがまた楽しい。予想だにしない反応が楽しい。そういう不思議な魅力を持っている女、源沙姫。

「速い女かぁ……何が速いかは聞かないでおくわ」
「へっへっへ、それはもう夜の営へべっ」
「おっと脚が勝手に」
「めぐぅいたーい!! ひざにくりてぃかるひっとしたー!」
「気のせいです」
「気のせいよ」
「きのせいならしょうがないな!! ひざにやをうけてしまった!!」

 兵士は置いといて、副部長に詳しい話を聞くと、喫茶店をやることになったのでその衣装を整えているとのこと。喫茶店の部屋の方は飾り付けるだけでいいから、三人で残って説明も含めて後は任せた、という事らしい。放置プレイとはひきょうなーとか変態兵士がほざいてる気がする。幻聴ですね。

「飾り付けもしすぎると和室の粋が潰れてしまうの。だから、最低限よ」

 やはりここを使う、との事。和室を活かした和風喫茶店。うん。とてもシンプルで良さそうだ。外観が洋風な学園なので、和を前面に全面にと、こうやってぐいぐい出すのも却って良いかもしれない。

「成る程……それにしても、衣装受け取りに大人数使うのですね?」
「そりゃ全員分の衣装だもの。本来は私達もいかないといけないわ。サイズも出来も、修正があればその場で言わなくちゃいけないし」
「間に合わなかったら手作業ですからね!」
「そそ。私達の分は修正がききやすい服だからってことでね」
「ふむふむ……」

 服。二人の反応を見る限りネタ的要素があるのは解る。和風でネタかぁ……どこかの和風喫茶店みたいな格好をみんなでするのかな。

「で、やるのはコスプレ喫茶店!」
「……はい?」
「コスプレ喫茶店!」
「こすぷれきっさてん……?」

 オウム返しなわたしに、よく出来ました、パチパチパチーと拍手が二人から。やかましいわ。

「あ、あの?」
「なんだその目はー」
「いや副部長正気ですか!?」
「正気も正気よ~なーによー」
「こすぷれ!? なんで!?」
「何でって……何で?」
「え? あたしに振るんですかそこ?」
「うん」

 何故か副部長が沙姫にバトンタッチ。沙姫も訝しがりながらも、まあいっか、と切り替えわたしに向き直る。

「んーと、めぐなら解ってると思うけどさ? ふつーに喫茶店やったんじゃ、他のクラスに持ってかれちゃうし、何より普段からあたし達お茶配ってるわけじゃない?」
「うーん、それはわかりますけどぉー」

 他に方法はないのかと。客寄せじゃないけれど、他にもっと何かあるとは思うのだけれど。

「見た目でも楽しく華やかに! って事ね。そこを補うための、コスプレなのよ」
「う……うむむむむ……」

 華やかさに欠けると言われると否定したくなるが、否定できない。あくまで、茶道をしている者たちからすれば華やかであって、立派な花が飾られていたり思い切った部屋の工夫をした所で、この部屋は基本和風基調のしっとり薄めの色合いだ。ギラギラしたネオンのような、とまではいかなくとも、派手さを持つ紅茶室のような光を求められても、その存在自体が無い。むしろそういう位置とは距離を置くような建物だろう。同じ場所に位置する書道部も華道部も漫才も、落語も然り。

「……部屋は動かせないから、ならば人、ですか」
「よしよし、さすが恵。飲み込み早い早い」
「うー」
「これでめぐも早い女デビューだね!」
「デビューしねーですよっ!」

 なでなでよしよし軽口投げられ。それにツンツン気味に抵抗しつつも、言われてしまうと、わたしも今の、動き回る茶道部員の一人である。加えて興味もそそられる。変わった格好でお茶を点てる、というのも、経験になる点でも良いかもしれない、という思いに傾きつつある。

(いや、それはそうか)

 というよりも、今更気づいたけれど、わたし一人ゴネたところで今更これは変えられるハズがない。衣装だって取りに行っているということは、既に造ってしまっているのだから。今更キャンセルとかしたらその手のお金、数十万円くらい掛かるんじゃないだろうか。そしてそれをわたしが払った上で、それ以上の新しい案が出るかというと。皆の興味を引くような案があるかと言われると。みんなが決めた案を台無しにした上で、サボっていたわたしが何か案が出せるかというと……

「……解りました」
「やー良かったー!! めぐにゃん大好きーーっ!!」
「ふぅ……良かったよ」

 小さな抗議虚しく、和風コスプレ喫茶のまま進行することになる。……抗議と言うか、なんというか。なんとなくの抵抗、なのかもしれない。そのまま、わたしの中の和室を明け渡すのが嫌だったのかもしれない。その、なんとなくで自然な流れを邪魔された割に、嬉しそうな友人から大好きと言われて抱きつかれまでされて、なんだかすっごく照れくさい。一安心したような島津副部長も、結構心配だったのだろうな。わたし後継者に真正面から反対されるとは思っていなかった様子だったし。

「ふふ、ちょっとびっくりしただけですよ。興味もありますし」
「だよね! でしょー!? ほーら副部長ーどーですか!!」
「なんで沙っ姫ーが自慢するのよっ」

 くすくす可笑しそうに微笑む副部長に、恵は凄いからね! と、付け加える友人。遥かに凄い沙姫にそう言われるとなかなか実感がわかないのだけれど

「まぁ、四方田は確かに凄いわ」

 副部長からもなぜだか褒められる。数日で後を継ぐことになる副部長の座に収まっている、島津先輩に直に褒められると、とても嬉しく誇らしい。

「そ、そうですかね……?」
「そーよー? 何せ吸収早いし成長するしかわいいしぺたんこだし面白いし手は早いしエロいしろりぺどだしー」
「罵倒がいっぱい混じってる気がするんですけど……」
「ふふふっ。だから、四方田なのよ。あなたはそれが、とてもいいの」
「う、うーーーん……」

 続けて褒められはするのだけれど、なんだろ。うん。このままで良いのかなぁ?

「そうそう、意中の彼女さん。ちゃんと口説いて連れてきてね?」
「っ!?  はあっ!?」
「服はあるから」
「いやっ!? ちょっ……」

 そこに追い打ち。今回のサボりの遠因、十も誘えと言わんばかりの副部長の手解き。…‥しまった。わたしの服は煙幕か。本命は彼女、いや、十さん連れ出しも兼ねての、わたし達二人への策謀だったか。前回の部活にもお試しで参加したのだから文化祭もいいだろうという事か。けれど、このタイミングは確かに渡りに船かもしれない。少し前なら全力で断っていた。でも、今なら。外に出たいという彼女の言葉を聞いた今ならば。乗って見せるか断るか。十さんを考えれば、答えは決まっている。

「……解りました!」
「よし、いい答え」

 二つ返事でさほど迷わず受け止め返し。それを心底嬉しそうに聞いて頷く副部長は、より一層強く美しく、キラキラと輝いて見えた。


「あ、二人分のミニスカメイド服確保したから!」
「やっぱけびょうでやすむです」
「めぐにゃんのパンチラですって!?」
「沙姫さんうるせーですよっ!!」
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