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十京視点? 夜風があまりにも気持ちよくて

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「で、ぱじゃまで出たってわけですか……」
「うんー♪」

 うんー♪ じゃないですよっ。ぺちぺち柔らかに叩いても、にゃは~♪ とか、えへー♪ だ。なんだかんだ中等部の日常を暮らしていけている四姫ちゃんも、やっぱりまだまだ興味津々な子供。

「だって! おふろあがりの風ってきもちいーんだよー!!」
「それはそうですけどねー」

 秋の夜長の心地よい風は、虫の音色と風の囁きに草木のさんざめきが夜の静寂を彩って。今夜のような日中暑かった日ならば殊更魅力的になったのだろう。三重奏に混ざった、あー♪ とかうー♪ とか、お庭の方で音がすると思えばこれである。お風呂さっぱりしたばかりなのに湯冷めしちゃうじゃないですかー

「シメちゃんはもーちょっとお淑やかさを身に着けましょーねぇー」
「おしとやかー!!」

 わーい、という風に、ぽむっとぺたっとくっつく四姫ちゃん。先生の言う通り出てくる回数が増えていると言うのは事実だった。疑うとかは微塵もなく。ただ、事実なんだなぁと、心にすすっと入ってくる。おしとやかからは未だ程遠い、女の子。裸足でお庭。お風呂上がりですのに。お風呂上がりですのに裸足なのです。だいじなので二回言うのです。なんてことしやがるんですか。

「さー足拭きタイムですよ!」
「きゃーーー!! あしうらくすぐりぷれいはおやめくだされおだいかんさまぁ~んっ!」
「そんなマニアックなお代官さんいませんよっ!」

 いくら悪徳お代官でも幼女のくすぐりプレイとか変な方向は流石に放送してないと思う……というかそんな場面まず創られてないと思う……となると、わたしがこの国で初めての幼女足裏くすぐりプレイ実行代官ということになるんですかね。誰が代官だ。そもそも原因はおふろあがりで泥まみれになった四姫ちゃんでしょうがっ。くすぐられて当然なのです……いやふきふきしてるだけですし決してそんなやましい気持ちはないですけどね!!

「きゃははははっはっはっはなしてくださいませぇ~!!」
「うへへへへ~おとなしくふきふきされてきれいなあんよになるがよいのですー!」

 ……うん。きっと平和な一幕、だと、思う……夜ですけどね。夜のバカな姉妹とでも思ってくださいなのです。こうして四姫ちゃんを普通に相手にしてるだけでバカの評価が一つまた増えていく。いーんです。やけです。

「はいっ、キレイになりましたっ」
「あう~もっと触れてもいーんだよっ?」
「ふふふ、可愛いじゃないですか」
「あうっ♪ えへー♪」

 すりすりにこにこでひっついてくる彼女。やっぱり接触が多くて本当に一二三と二之前に似ていて、それらがもっと強くなった感じで……つまりは、その延長線上にあるのも、同じな気がしてくる。要は、わたしの身体で塗りつぶしたい想い。それが年幼いから直接触れるという手法になってるだけなのかもしれなかった。一二三はあれでも遠慮がちに年相応に思い切った感じのベタベタで、二之前は言動と大人の魅力を混ぜ合わせての籠絡気味、だったけれど、四姫ちゃんはそういうのを知らない年齢なためか、物理的に直接という傾向で。

(あった方がいいのかなぁ……)

 先のやましい気持ちを思い出す。やましさが足りないのか……そんな謎成分求められても困る……そもそも、そのやましさが、彼女をこんな風多重人格者にした原因の一つなんだし。やましい犯罪者A父親がやましい犯罪者Bわたしに変わるだけだ。絶対に行ってはいけない、ハズ、なのだけれど、この求める点が、わたしと高城お義姉ちゃんの悩む一つであるのも事実。


『あれ、何なんだろうなぁってさ。ずっと気になってるよ』


 お義姉ちゃんがずっと気になってる、彼女のこの、お代官様~という一種の親しみの表現。悪徳お代官様宜しく奪って欲しいのか襲って欲しいのかという、彼女の性的な面での欲望の表れなのかもしれない。それも含めて、何なんだろう、だったのだ。あの時のわたしは、此方方面までは気づけなかったけれど、本能的にそっち方面でもわたしやお義姉ちゃんを求めている、一種のシグナルなのかもしれない。と同時に、こういう回りくどい表現は、どうもストレートな四姫ちゃんらしくない、という事になるわけで。序になんでこんな渋い言葉ばかり使うのかという根本的なお話に戻っていく。で、彼女のこの手の話題については堂々巡り。……結局、お義姉ちゃん先生の、何なんだろう、気になってる、という言葉こそが、端的にすべてを表している。

「えへへ、お散歩お散歩ー!」
「今からですか?」

 そんな優れた先生が五ヶ月で十回も見てなかった彼女は、この十月だけで既に三回目。二十日周期、なんて聞いていたけれど、それも狂ってきた。もしかしたらわたしと一緒にいない時も四姫ちゃんが出ている回数、あるのかもしれない。というのも、彼女のお家の玄関がどうも、何時訪ねても汚れている。お掃除好きと思われる四姫ちゃんが放っておくとも思えないので、汚してるのは本人なんじゃないかなぁ。そして、それが常というならば、いる回数が多いという証拠にも繋がるのだし。他の【彼女達】がバタバタ無邪気に暴れて汚すような性格でも年齢でもないし……

「かぜ!! あびたい!!!!」
「もー、ちょっとだけですよ? ささ、戸締まりしてからいきましょう」

 ……そう、この、性格だ。こんな風に、何かと理由をつけて家から出たがるのが四姫ちゃん。最初こそわたしへの興味が強かったためかおとなしかったけれど、回を重ねるごとに家に対する拒絶反応が想像していた以上に凄い事に気付かされる。風を本当に浴びたいだけなら、このまま庭でも良いはずだ。それがこれだ。

「や! 今すぐいくのー!」
「めっ! ですよー」
「うーけちー」

 ケチーと言いながらも、うーうー唸りながらも、わたしを見ると嬉しそうに表情をにゃはー♪ とコロコロ変えるので、わたしに関しては本気でイヤがってない。本気で拒絶する時はもっと激しいし。痛いし。て言うかお出かけの戸締まりすらケチ扱いとかどんだけこのお家はイヤなのだろう……そこを思うと、無碍に叱り飛ばす気も失せるわけで、結果、めっ、なのだ。甘い効き目が薄いロリコンのロリへの甘やかし……何とでも言うが良いのです。焦らずじっくり鍛えるんですぅー。こうして鍵を閉めることまでもが、彼女への、わたしにとってのイベントの一つになっている。おうちに鍵を締めて、一緒にてくてくタイム開始。夜道をてくてく歩いて行く。

「~♪」

 お隣で、ニコニコ笑顔で手を握って寄り添う彼女。十京。四姫。その足取りは軽くて跳ね跳ぶ勢いで。……そう、想っているであろう感情が動きに如実に現れる。そんな彼女だからこそ……


『……その渋さ。マイナスなのかプラスなのか、未だに判別つかなくてね』


 裏表ない、はず、だからこそ、あのお代官さまは誘ってる可能性が高いわけで。肝心のお代官様役がヘタれてる場合ではないはずなのですけど、ここのタイミングも判断も間違えば、からんと壊れる。彼女も。わたしも。

「ごきげんですねぇ」
「うんーっ♪」

 しかし、誘う誘わない無しにしても、四姫ちゃんの年齢を解っていても、もう少し彼女とも先に進みたいなぁと思うのも事実。でも、精々年長で考えても小学一年生な彼女。ロリとかペドとか犯罪とか、四姫ちゃんの性格とかそういうの抜きにしても、その年齢の娘と恋人としてどう付き合えば良いか、なんてわからない。唯でさえ十二歳~三十歳のお相手をし続けているのだからこれ以上手広くは……と同時に、四姫ちゃんだけ今の恋枠から追い出してるように感じるのも事実。尤も、五為もそこら辺りまだだし、九音とも未だ会えてすらいないのですけどね。それでも四姫ちゃんとは、進みたいなぁ、という気持ちはあるわけで。

(……)

 てくてくとことこぴょんぴょんぴょん。けんけんぱっぱ、なんて器用に片脚でぴょんこぴょんこと飛び跳ねて嬉しそうな湯上がり彼女。序にクルッと回って、こっちを向いて、頬を染めてにこにこーとしてくるもんだから攻撃力が高いなんてもんじゃない。此方も当然微笑みにこにこなでなでなで。こんな風に接しつつも、やはりどこかでまだまだ足りていない。一二三、百々、二之前、八重、九十九の五人と、七香と五為に六歌は既にその方向の可能性が年齢的にもあるけれど、初期に遭遇した四姫ちゃんは未だになかなか生まれない。だからこそ、こうして、そっち方面でも気にしてしまうんだろう。お風呂でもお散歩でも公園でもあんなにべたべたすりすりしたというのに。

「おねちゃんといっしょーおねえちゃんといーっしょー♪」
「ふふ、可愛いんだから、もう」

 そして、恋人にせよ違うにせよ、上手く行っているのかどうかという根本が、時折ふっと不安が頭をもたげるのも事実。正解なんて無いのは解っていても、それを言い訳に逃げるのもまた駄目ですしね。正解がないからこのままのんびりでいいや~、と、どこまでも気軽になれないあたり損な性格だと思う。

「すきだよーおねえちゃーん♪」
「……わたしも、すき、ですよ」

 ぽっと出てきたその言葉に、返す言葉は同じ言葉。同じ言葉で違う言葉かもしれない。願わくば、同じであって欲しい。にひっ、と笑う四姫ちゃんは、会った当初よりも、不安げな様子は影を潜めていた。むしろ、わたしの方が不安が増えてしまっている。悔いはないし努力は惜しむつもりはない。……けれど。けれど。この、けれどが消えてくれない。

「へくちっ」
「はい、ちーん」
「ちーんっ」
「ほらー湯冷めしちゃいましたねぇ~」
「えへへ! でもでもおねえちゃんがあったかいもんっ」
「ふふ……四姫ちゃんも、でーすよー」
「えへっ♪ ……あ」

 抱きついたままにこにこしていたと思えば、急にきょろきょろとあたりを見渡し、一点を見つめ始める四姫ちゃん。線を辿ればそこにはにゃんこが二匹。じーっと此方を見つめている。

「おいでおいでー」
「んー来ますかねぇ」

 ちょこんとしゃがんで手招く四姫ちゃん。わたしも倣ってちょこんと座り、首を傾げて眼をぱしぱし。うーん、にゃんここいこい。こいこいこーい。あっ逃げたっ。

「あーん、逃げちゃった~」
「逃げられちゃいました~」

 少しだけ残念そうな彼女の、その髪の毛を少し長めに撫でてやる。わしゃりこわしゃりこと。お風呂上がりの火照った身体に、この夜風は気持ちがいい。けれどそろそろそれもお開き。完全に湯冷めする前に切り上げないとね。今日のお散歩はココまでに。

「そろそろ、戻りましょうか」
「……うんっ」

 残念そうな四姫ちゃんは、感情を押し殺したように頷く。もしかしたら、彼女の明日はわたしの明日ではないことを、感づいているのかもしれないからか。なるべく離れたがらない今の彼女は、殊更そう思えた。

「また、会えますよ」
「うんっ!」

 にゃんこに。わたしに。この世界に。わたしが必ず、閉じさせない。
 ちゃんとまた会えますからね。だから、今は静かに戻りましょうか、わたしの大切な、未だ恋人でない恋人さん。末永く壮健でいて欲しい。秋の夜長の秋風は、虫の音色と風の囁きが夜の静寂を奏でている。今夜のような日中暑かった日ならば、そんな夜は殊更魅力的だったのだろう。わたしにとっても、殊更、ね。

「おねえちゃん」
「なんですかー?」
「……ううん、なんでもないー!」
「……っ、そう ですか」

 彼女が言いかけた、口の動きに少し癒やされ驚いて、わたしはもう一つ微笑みもう一つ頷いて、片手だけ繋いで歩いていく。彼女ともこうして片手だけで歩んでいく。ややともすると攻撃的で排他的、独占欲の強めな少女とも。皆と同じに、皆と同じ様に。


――――――――――――――――――
――――――――――――――――――

 あたしもおなかすいちゃった。そろそろおねえちゃんたべたいなー!
 とにかく、いつもいつも、めっ、されちゃうから、もっといろいろかんがえないとね!
 でもでも、ぜったいにことしじゅうにはおとしてみせるんだもんっ!
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