クズな王子と麗しの聖女

もちごめ

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「祈りを捧げているのか?」

 突然かけられた声に、思わずビクッとした。

 普段この場所は聖女である私のお気に入りの場所であることを神殿内の皆が知っており、私がこの花壇にいるときには極力人が近づかないようにしてくれている。
 きっと侍女や護衛騎士たちがそのように皆に指示をしてくれているんだと思うけれど。とてもありがたい。

 つまり、今、私に声を掛けてきた誰だか知らない男は、神殿の関係者ではないということだろう。

 せっかくの呪いの儀し……。コホン。神聖なる祈りを中断することとなって、思わず「チッ」 と舌打ちしそうになるのをこらえた。

 すぐさま聖女モードに気持ちを切り替え、後ろを振り返った。

 燃えるような赤い髪と煌めく黄金の目の男がなぜか目を見開いたまま固まっている。

 ?? なんだ、この不審な男。

「? どちら様?」

 すぐさま怪しいこの不審者の名前を聞いて、衛兵に突き出してやろうと思ったのに、逆にこちらの名前を聞かれ、一瞬目を見開いた。

 こいつ、アホなの? しかも上から目線の偉そうな態度にもカチンとくる。

 私のことを知らないということは、やっぱり神殿の関係者ではないわね。
 じゃあ目の前の男はいったい何の用でここにいて、私に話しかけてくるのかしら?

 それにしても、この燃えるような赤い髪に、金の目。
 どこかで見覚えがある気がする。
 どこでだっけ?

 まあいいわ。自分から関わる必要もないし、思い出したところで得はないだろうし。やめておきましょう。

 そういえば、そろそろベリータルトが出来上がるころかしら。
 どうしてもベリータルトが気になってしまい、早く食べに行こうと思い、簡潔に名前を述べて踵を返したら、なぜか引き留めてきた。

 え、なんなのこの男。
 騎士たちが止めに来ないことから不審者ではないのだろうけれど、
 私、時間がないのだけれど。
 タルトが気になってしょうがないから、早くどこかに行ってくれないかしら。

 思わず大きなため息を吐きそうになったが、今は聖女モード継続中なので喉の奥に押し込んだ。
 貼り付けた笑みで「何か用か」、と聞けば、自信たっぷりに流し目を送ってきた目の前の男。
 さして興味もないので、さらっと聞き流してしまったが、確かアレクシスって言った気がする。
 
 男からの流し目を綺麗に横に流しておき、〝暗にお前には興味ない” と言葉を返すと、明らかにショックを受けた顔をしてた。
 大陸1に高いとされているセサタン山よりも、遥かに高そうなプライドが見事に急下山をしたのだろう。

 それにしても、アレクシス、アレクシス……。確か……近所のケバいドレス令嬢がよく噂していたような……。

 !! そうだ、思いだした!

 早くも下山から登山に切り替えたらしいアレクシスがなおも声を掛けてくるが、たった今、あなたがどこの誰で、どんな人物なのかも思いだしたけれども、わざわざ教えてお知り合いになんかなりたくないから、あえて知らないふりをしておこう。

 この下半身の緩い、歩く卑猥物。 
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