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「えっ、なに? ごめん、聞こえなかった」
もう一度ハンカチを見たまま呟く。
「これ以上、心をかき乱さないでください」
今度は顔を上げて私を見つめながらしかっりとした口調で話し始める。
「貴方は簡単に人を信用しすぎる。簡単に人の心に入ってくる。私が貴方に危害を加える人間だったらどうするんですか? 本当の私は裏切り者の敵の陣営の人間だって言ったらどうします?」
手首をきつくつかまれる。
痛くて顔を上げれば、思いのほか近くにあった視線とぶつかる。その瞳を覗きこめば、何処か不安で揺れているように感じる。
「……だったら、それはそれでしょうがないよね。もしそうなったら運が悪かったなって思うくらいだよ。だって、わざわざヘボナ村まで迎えに来てくれた騎士様は他でもないジークさんだったし、いつも一緒にいてくれたから、私にとっては大切な友人の一人。だから友人を疑ったりはしない。私はいつだってジークさんを信じてるの」
きつく握られていた手を離され、そのまま、スッと指先が首すじに触れる。
ジークさんの顔をみれば、泣きそうに瞳が揺れている。
どうしたの? と声をかけようと口を開き始めたら、それよりも早く腕を引かれて抱きしめられた。
「……っ」
とっさに押し返そうとしたが、さらにキツく抱きしめられる。
それでも抵抗をと試みようと思ったがなにか様子が変なことに気づいた。
首すじに顔を埋めたまま動かないが、身体が微かに震えている。
(もしかして、泣いている?)
自分もこの状況に未だ理解が追いついていないのもあり、なんて声を掛けていいかも分からず、しばらくこのままでいることにした。
震える背中をさすろうかと腕を上げたとき、顔を上げたジークと瞳がぶつかる。
その瞳は弱っていていつものジークさんには思えないくらいだった。でもその奥には微かな熱が灯されているのが見えた。
「ジークさ、ん」
声を掛けると戸惑いに揺れる瞳に囚われ、なぜだか動けなくなる。
ゆっくりと近づき、唇に吐息が触れる。
「ダメ!!!」
という自分の声と、ドサッと重たい音が重なった。
唇に触れていた吐息もなくなり、なぜだか目の前がクリアに開いている。
(えっ、ジークさんは??)
どこに行ったのかと探そうと瞳を動かすと、少し離れたところから怒りを孕んだ低い声が聞こえた。
「頭を冷やせ」
その足元では倒れているジークさん。
そして私の傍に今駆け寄ってきているミルリーさん。
「ユナ様、大丈夫ですか!? 何かされてはいないですか?!」
ひどく慌てて髪を振り乱しながら激しい剣幕で現れたミルリーさんを見て、理解した。
「まっ、待って下さい。ジークさんは何もしていません。むしろここに連れてきてほしいと言った私のワガママを聞いてくれて、おまけに魔物からも守ってくれました。私を庇って怪我までしてしまったんです!」
「ほう。それがどうして抱き合うことになっていたんですか?」
ひいっ!! エルストさんの流し目、なんか怖い!!
「だ! 抱き合う!? そ、そんなことしてません! そ、そうです! 怪我をしたジークさんを支えていたんです! 抱き合ってなんかいません、誤解てす!」
私の言葉を聞き、チラりと足元のジークを見下ろす。
「鍛錬が足りないようだな。鍛え直すか。まあいい、詳しくは城に帰ってから聞くこととする」
「騎士が庇ったくらいで怪我したんじゃ世話ないわね。身も心もたるんでいるのよ。頭を冷やすといいわ!」
(あれ? 私の隣にいるのってミルリーさんで合っているよ、ね?)
見なかったこと、聞かなかったことにしてジークさんを見る。
疲れたように草の上で胡坐をかいて座り込んでいた。
首を垂らして草を見ながらぽつりぽつりと言葉を落とす。
「はは、情けないくらいに弱いですね、自分。頭冷やしてからもう一度鍛えなおします」
もう一度ハンカチを見たまま呟く。
「これ以上、心をかき乱さないでください」
今度は顔を上げて私を見つめながらしかっりとした口調で話し始める。
「貴方は簡単に人を信用しすぎる。簡単に人の心に入ってくる。私が貴方に危害を加える人間だったらどうするんですか? 本当の私は裏切り者の敵の陣営の人間だって言ったらどうします?」
手首をきつくつかまれる。
痛くて顔を上げれば、思いのほか近くにあった視線とぶつかる。その瞳を覗きこめば、何処か不安で揺れているように感じる。
「……だったら、それはそれでしょうがないよね。もしそうなったら運が悪かったなって思うくらいだよ。だって、わざわざヘボナ村まで迎えに来てくれた騎士様は他でもないジークさんだったし、いつも一緒にいてくれたから、私にとっては大切な友人の一人。だから友人を疑ったりはしない。私はいつだってジークさんを信じてるの」
きつく握られていた手を離され、そのまま、スッと指先が首すじに触れる。
ジークさんの顔をみれば、泣きそうに瞳が揺れている。
どうしたの? と声をかけようと口を開き始めたら、それよりも早く腕を引かれて抱きしめられた。
「……っ」
とっさに押し返そうとしたが、さらにキツく抱きしめられる。
それでも抵抗をと試みようと思ったがなにか様子が変なことに気づいた。
首すじに顔を埋めたまま動かないが、身体が微かに震えている。
(もしかして、泣いている?)
自分もこの状況に未だ理解が追いついていないのもあり、なんて声を掛けていいかも分からず、しばらくこのままでいることにした。
震える背中をさすろうかと腕を上げたとき、顔を上げたジークと瞳がぶつかる。
その瞳は弱っていていつものジークさんには思えないくらいだった。でもその奥には微かな熱が灯されているのが見えた。
「ジークさ、ん」
声を掛けると戸惑いに揺れる瞳に囚われ、なぜだか動けなくなる。
ゆっくりと近づき、唇に吐息が触れる。
「ダメ!!!」
という自分の声と、ドサッと重たい音が重なった。
唇に触れていた吐息もなくなり、なぜだか目の前がクリアに開いている。
(えっ、ジークさんは??)
どこに行ったのかと探そうと瞳を動かすと、少し離れたところから怒りを孕んだ低い声が聞こえた。
「頭を冷やせ」
その足元では倒れているジークさん。
そして私の傍に今駆け寄ってきているミルリーさん。
「ユナ様、大丈夫ですか!? 何かされてはいないですか?!」
ひどく慌てて髪を振り乱しながら激しい剣幕で現れたミルリーさんを見て、理解した。
「まっ、待って下さい。ジークさんは何もしていません。むしろここに連れてきてほしいと言った私のワガママを聞いてくれて、おまけに魔物からも守ってくれました。私を庇って怪我までしてしまったんです!」
「ほう。それがどうして抱き合うことになっていたんですか?」
ひいっ!! エルストさんの流し目、なんか怖い!!
「だ! 抱き合う!? そ、そんなことしてません! そ、そうです! 怪我をしたジークさんを支えていたんです! 抱き合ってなんかいません、誤解てす!」
私の言葉を聞き、チラりと足元のジークを見下ろす。
「鍛錬が足りないようだな。鍛え直すか。まあいい、詳しくは城に帰ってから聞くこととする」
「騎士が庇ったくらいで怪我したんじゃ世話ないわね。身も心もたるんでいるのよ。頭を冷やすといいわ!」
(あれ? 私の隣にいるのってミルリーさんで合っているよ、ね?)
見なかったこと、聞かなかったことにしてジークさんを見る。
疲れたように草の上で胡坐をかいて座り込んでいた。
首を垂らして草を見ながらぽつりぽつりと言葉を落とす。
「はは、情けないくらいに弱いですね、自分。頭冷やしてからもう一度鍛えなおします」
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