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「あの者たちはみんな第三王子派の取り巻きたちです。たいして中身のない、うわべだけを飾る蛾ですので、お気になさらずに。相手にするだけむだですよ」
なるほど、蛾か。
ジークさんの辛辣な物言いに少し可笑しくなり、気分を変えて、飲み物を飲もうとグラスを手に取った。
その時ふと、視界に不自然な動きをする女性を捉えた。近くにあった赤ワインを手に、私を睨み付けたままこちらに早足で向かって歩いてくる姿が。
も、もしかしなくても、そのワイン、私と乾杯しようとしているわけではなく、私にかけようとしてます?!
(えっ、どうしよう!?)
高いヒールを履いているにも関わらず、ものすごい速さでこっちに向かって来ていて、あと少しでこちらに到達する。
(か、かけられたら、私もやり返しちゃっていいかな??)
なんてことを考えていたら、すでに目の前までやってきて、私を蔑んだ目で見下げ、手に持っていたグラスの中身を私に向かって掛けてきた。
(!! かかるっ!!)
”せめて顔は止めて” と思い背けたが、いつまでたっても一向に濡れる気配がしない。
(あれ?? かかってない?? 私、どのタイミングで反撃すればいいの??) と考えていたら、程なくして違う場所でポタポタと水が滴り落ちる音が聞こえた。
エルストがユナをかばい、グラスの中身を受け止めたのだ。
(エルストさん!!)
慌てて近寄ろうとしたら、『大丈夫』 と手で制される。
大広間に変な緊張感が漂い、誰もが固唾をのんで沈黙が落ちた。
グラスの中身をひっかけた女も、予想と大幅に外れて唖然と口を開いたままただ突っ立ているが、自分がワインを掛けた相手を理解したとたん、表情が一変し、身体が震えだす。
「あっ、わ、私……」
「ああ、どこのご令嬢かと思えば、あなた、確かウェルド伯爵のとこの娘さんですね。ワインを持ってふらつかれるほど体調悪くされてるなら、夜会に参加したりせず、領地に帰ってしばらく療養されたらどうですか?」
「ジーク、このご令嬢を送って差し上げろ」
「はっ」
「え、あの、私は、」
まだ何か言い訳をしようとしていたが、ジークに引きずるように連れてかれ、すぐに声が遠くなり聞こえなくなった。
要は、”いますぐ消えろ。一家揃って領地で謹慎してろ”
ってとこだろう。
(はっ、そういえば!!)
エルストさんをみると、上着にワインの色が吸い込まれ、そこだけ色が変わっている。
(直ぐに別の布を充てて色落とししないと)
近くで固まっていた給仕さんから、布巾を数枚頂戴し、グラスの水も持ってエルストさんのところへ行く。
ポンポンと上から叩いて即席の染み抜きを始める。
(裁縫好きの私の知恵がこんなところで役に立つなんて)
しかし何度も叩いても、すでに染み込んでいる赤ワインはなかなか落ちてくれない。
「ユナ様、もういいですよ」
「でも、このままでは目立ちます。私を庇ってくださったことでお洋服を汚してしまったので、もう少しやらせてください」
「では、場所を変えましょう。殿下、少し外します。よろしいですか?」
「もちろんだ。近くの来賓室が空いてるからそこを使うといい」
「ありがとうございます。では失礼します」
エルストさんについて入った来賓室のソファーに上着を脱いで座ってもらい、近くのテーブルで必死に染み抜きをするが、やはりなかなか効果は見られない。
「もういいですよ。あとで、変えの上着を持ってきて貰いますので、それでなんとかなります。」
「それより、あなたは大丈夫なんですか?」
「わ、私は、なんともありません。お礼が遅くなりましたが、庇っていただきありがとうございました」
「ならば、良かったです。」
柔らかく笑った顔に一瞬見とれてしまい、なんだか恥ずかしく感じて顔をそらす。
「ああでも、もしかしたらワインをかけられた際に飛沫が飛んでいるかもしれないので、やはり確認しないと。赤ワインはなかなか落ちないですからね」
そういったとたん急に手首を取られ、ソファーに押し倒された。すぐに私の上に跨り、両手を顔の横で縫い止められる形となった。
「ああ、やっぱり、ここにワインがかかってますよ」
そういい、首すじをペロッと舐められる。
~~っ!!! そんなところ、絶対に掛かってない~~っ!!!
唇は徐々に下にさがっていき、鎖骨、胸の間と順番に唇を落とされる。
その手を優しく取られ、口付けをされた。
薄く唇を開けは戸惑いもなく、スッと入ってくる舌に私も当然とばかりに舌を絡めて応える。
その瞬間、前ははっきりと見えなかった私の胸に咲く白い花びらが見えた。
そしてそっと花びらを撫で、優しげに目を細めて笑う顔に、胸がドクリと音を立てて跳ねた。
(んっ、熱い。はなびらが、熱くて、疼く……)
暫く愛おしげに撫でていたが、ふいに私の上から下りる。
「これ以上はいけませんね。私が耐えられません」
手早く私の服を整えると、いつからいたのか、扉の外で控えていたジークさんを呼んだ。
「私はまた会場に戻らないといけないので、今から行きますが、あなたは今日はもう部屋で休まれた方がいいでしょう。ジーク、部屋へお連れしろ」
それだけ告げるとさっさと夜会の会場へと戻っていった。
なるほど、蛾か。
ジークさんの辛辣な物言いに少し可笑しくなり、気分を変えて、飲み物を飲もうとグラスを手に取った。
その時ふと、視界に不自然な動きをする女性を捉えた。近くにあった赤ワインを手に、私を睨み付けたままこちらに早足で向かって歩いてくる姿が。
も、もしかしなくても、そのワイン、私と乾杯しようとしているわけではなく、私にかけようとしてます?!
(えっ、どうしよう!?)
高いヒールを履いているにも関わらず、ものすごい速さでこっちに向かって来ていて、あと少しでこちらに到達する。
(か、かけられたら、私もやり返しちゃっていいかな??)
なんてことを考えていたら、すでに目の前までやってきて、私を蔑んだ目で見下げ、手に持っていたグラスの中身を私に向かって掛けてきた。
(!! かかるっ!!)
”せめて顔は止めて” と思い背けたが、いつまでたっても一向に濡れる気配がしない。
(あれ?? かかってない?? 私、どのタイミングで反撃すればいいの??) と考えていたら、程なくして違う場所でポタポタと水が滴り落ちる音が聞こえた。
エルストがユナをかばい、グラスの中身を受け止めたのだ。
(エルストさん!!)
慌てて近寄ろうとしたら、『大丈夫』 と手で制される。
大広間に変な緊張感が漂い、誰もが固唾をのんで沈黙が落ちた。
グラスの中身をひっかけた女も、予想と大幅に外れて唖然と口を開いたままただ突っ立ているが、自分がワインを掛けた相手を理解したとたん、表情が一変し、身体が震えだす。
「あっ、わ、私……」
「ああ、どこのご令嬢かと思えば、あなた、確かウェルド伯爵のとこの娘さんですね。ワインを持ってふらつかれるほど体調悪くされてるなら、夜会に参加したりせず、領地に帰ってしばらく療養されたらどうですか?」
「ジーク、このご令嬢を送って差し上げろ」
「はっ」
「え、あの、私は、」
まだ何か言い訳をしようとしていたが、ジークに引きずるように連れてかれ、すぐに声が遠くなり聞こえなくなった。
要は、”いますぐ消えろ。一家揃って領地で謹慎してろ”
ってとこだろう。
(はっ、そういえば!!)
エルストさんをみると、上着にワインの色が吸い込まれ、そこだけ色が変わっている。
(直ぐに別の布を充てて色落とししないと)
近くで固まっていた給仕さんから、布巾を数枚頂戴し、グラスの水も持ってエルストさんのところへ行く。
ポンポンと上から叩いて即席の染み抜きを始める。
(裁縫好きの私の知恵がこんなところで役に立つなんて)
しかし何度も叩いても、すでに染み込んでいる赤ワインはなかなか落ちてくれない。
「ユナ様、もういいですよ」
「でも、このままでは目立ちます。私を庇ってくださったことでお洋服を汚してしまったので、もう少しやらせてください」
「では、場所を変えましょう。殿下、少し外します。よろしいですか?」
「もちろんだ。近くの来賓室が空いてるからそこを使うといい」
「ありがとうございます。では失礼します」
エルストさんについて入った来賓室のソファーに上着を脱いで座ってもらい、近くのテーブルで必死に染み抜きをするが、やはりなかなか効果は見られない。
「もういいですよ。あとで、変えの上着を持ってきて貰いますので、それでなんとかなります。」
「それより、あなたは大丈夫なんですか?」
「わ、私は、なんともありません。お礼が遅くなりましたが、庇っていただきありがとうございました」
「ならば、良かったです。」
柔らかく笑った顔に一瞬見とれてしまい、なんだか恥ずかしく感じて顔をそらす。
「ああでも、もしかしたらワインをかけられた際に飛沫が飛んでいるかもしれないので、やはり確認しないと。赤ワインはなかなか落ちないですからね」
そういったとたん急に手首を取られ、ソファーに押し倒された。すぐに私の上に跨り、両手を顔の横で縫い止められる形となった。
「ああ、やっぱり、ここにワインがかかってますよ」
そういい、首すじをペロッと舐められる。
~~っ!!! そんなところ、絶対に掛かってない~~っ!!!
唇は徐々に下にさがっていき、鎖骨、胸の間と順番に唇を落とされる。
その手を優しく取られ、口付けをされた。
薄く唇を開けは戸惑いもなく、スッと入ってくる舌に私も当然とばかりに舌を絡めて応える。
その瞬間、前ははっきりと見えなかった私の胸に咲く白い花びらが見えた。
そしてそっと花びらを撫で、優しげに目を細めて笑う顔に、胸がドクリと音を立てて跳ねた。
(んっ、熱い。はなびらが、熱くて、疼く……)
暫く愛おしげに撫でていたが、ふいに私の上から下りる。
「これ以上はいけませんね。私が耐えられません」
手早く私の服を整えると、いつからいたのか、扉の外で控えていたジークさんを呼んだ。
「私はまた会場に戻らないといけないので、今から行きますが、あなたは今日はもう部屋で休まれた方がいいでしょう。ジーク、部屋へお連れしろ」
それだけ告げるとさっさと夜会の会場へと戻っていった。
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