46 / 77
46
しおりを挟む
「あの者たちはみんな第三王子派の取り巻きたちです。たいして中身のない、うわべだけを飾る蛾ですので、お気になさらずに。相手にするだけむだですよ」
なるほど、蛾か。
ジークさんの辛辣な物言いに少し可笑しくなり、気分を変えて、飲み物を飲もうとグラスを手に取った。
その時ふと、視界に不自然な動きをする女性を捉えた。近くにあった赤ワインを手に、私を睨み付けたままこちらに早足で向かって歩いてくる姿が。
も、もしかしなくても、そのワイン、私と乾杯しようとしているわけではなく、私にかけようとしてます?!
(えっ、どうしよう!?)
高いヒールを履いているにも関わらず、ものすごい速さでこっちに向かって来ていて、あと少しでこちらに到達する。
(か、かけられたら、私もやり返しちゃっていいかな??)
なんてことを考えていたら、すでに目の前までやってきて、私を蔑んだ目で見下げ、手に持っていたグラスの中身を私に向かって掛けてきた。
(!! かかるっ!!)
”せめて顔は止めて” と思い背けたが、いつまでたっても一向に濡れる気配がしない。
(あれ?? かかってない?? 私、どのタイミングで反撃すればいいの??) と考えていたら、程なくして違う場所でポタポタと水が滴り落ちる音が聞こえた。
エルストがユナをかばい、グラスの中身を受け止めたのだ。
(エルストさん!!)
慌てて近寄ろうとしたら、『大丈夫』 と手で制される。
大広間に変な緊張感が漂い、誰もが固唾をのんで沈黙が落ちた。
グラスの中身をひっかけた女も、予想と大幅に外れて唖然と口を開いたままただ突っ立ているが、自分がワインを掛けた相手を理解したとたん、表情が一変し、身体が震えだす。
「あっ、わ、私……」
「ああ、どこのご令嬢かと思えば、あなた、確かウェルド伯爵のとこの娘さんですね。ワインを持ってふらつかれるほど体調悪くされてるなら、夜会に参加したりせず、領地に帰ってしばらく療養されたらどうですか?」
「ジーク、このご令嬢を送って差し上げろ」
「はっ」
「え、あの、私は、」
まだ何か言い訳をしようとしていたが、ジークに引きずるように連れてかれ、すぐに声が遠くなり聞こえなくなった。
要は、”いますぐ消えろ。一家揃って領地で謹慎してろ”
ってとこだろう。
(はっ、そういえば!!)
エルストさんをみると、上着にワインの色が吸い込まれ、そこだけ色が変わっている。
(直ぐに別の布を充てて色落とししないと)
近くで固まっていた給仕さんから、布巾を数枚頂戴し、グラスの水も持ってエルストさんのところへ行く。
ポンポンと上から叩いて即席の染み抜きを始める。
(裁縫好きの私の知恵がこんなところで役に立つなんて)
しかし何度も叩いても、すでに染み込んでいる赤ワインはなかなか落ちてくれない。
「ユナ様、もういいですよ」
「でも、このままでは目立ちます。私を庇ってくださったことでお洋服を汚してしまったので、もう少しやらせてください」
「では、場所を変えましょう。殿下、少し外します。よろしいですか?」
「もちろんだ。近くの来賓室が空いてるからそこを使うといい」
「ありがとうございます。では失礼します」
エルストさんについて入った来賓室のソファーに上着を脱いで座ってもらい、近くのテーブルで必死に染み抜きをするが、やはりなかなか効果は見られない。
「もういいですよ。あとで、変えの上着を持ってきて貰いますので、それでなんとかなります。」
「それより、あなたは大丈夫なんですか?」
「わ、私は、なんともありません。お礼が遅くなりましたが、庇っていただきありがとうございました」
「ならば、良かったです。」
柔らかく笑った顔に一瞬見とれてしまい、なんだか恥ずかしく感じて顔をそらす。
「ああでも、もしかしたらワインをかけられた際に飛沫が飛んでいるかもしれないので、やはり確認しないと。赤ワインはなかなか落ちないですからね」
そういったとたん急に手首を取られ、ソファーに押し倒された。すぐに私の上に跨り、両手を顔の横で縫い止められる形となった。
「ああ、やっぱり、ここにワインがかかってますよ」
そういい、首すじをペロッと舐められる。
~~っ!!! そんなところ、絶対に掛かってない~~っ!!!
唇は徐々に下にさがっていき、鎖骨、胸の間と順番に唇を落とされる。
その手を優しく取られ、口付けをされた。
薄く唇を開けは戸惑いもなく、スッと入ってくる舌に私も当然とばかりに舌を絡めて応える。
その瞬間、前ははっきりと見えなかった私の胸に咲く白い花びらが見えた。
そしてそっと花びらを撫で、優しげに目を細めて笑う顔に、胸がドクリと音を立てて跳ねた。
(んっ、熱い。はなびらが、熱くて、疼く……)
暫く愛おしげに撫でていたが、ふいに私の上から下りる。
「これ以上はいけませんね。私が耐えられません」
手早く私の服を整えると、いつからいたのか、扉の外で控えていたジークさんを呼んだ。
「私はまた会場に戻らないといけないので、今から行きますが、あなたは今日はもう部屋で休まれた方がいいでしょう。ジーク、部屋へお連れしろ」
それだけ告げるとさっさと夜会の会場へと戻っていった。
なるほど、蛾か。
ジークさんの辛辣な物言いに少し可笑しくなり、気分を変えて、飲み物を飲もうとグラスを手に取った。
その時ふと、視界に不自然な動きをする女性を捉えた。近くにあった赤ワインを手に、私を睨み付けたままこちらに早足で向かって歩いてくる姿が。
も、もしかしなくても、そのワイン、私と乾杯しようとしているわけではなく、私にかけようとしてます?!
(えっ、どうしよう!?)
高いヒールを履いているにも関わらず、ものすごい速さでこっちに向かって来ていて、あと少しでこちらに到達する。
(か、かけられたら、私もやり返しちゃっていいかな??)
なんてことを考えていたら、すでに目の前までやってきて、私を蔑んだ目で見下げ、手に持っていたグラスの中身を私に向かって掛けてきた。
(!! かかるっ!!)
”せめて顔は止めて” と思い背けたが、いつまでたっても一向に濡れる気配がしない。
(あれ?? かかってない?? 私、どのタイミングで反撃すればいいの??) と考えていたら、程なくして違う場所でポタポタと水が滴り落ちる音が聞こえた。
エルストがユナをかばい、グラスの中身を受け止めたのだ。
(エルストさん!!)
慌てて近寄ろうとしたら、『大丈夫』 と手で制される。
大広間に変な緊張感が漂い、誰もが固唾をのんで沈黙が落ちた。
グラスの中身をひっかけた女も、予想と大幅に外れて唖然と口を開いたままただ突っ立ているが、自分がワインを掛けた相手を理解したとたん、表情が一変し、身体が震えだす。
「あっ、わ、私……」
「ああ、どこのご令嬢かと思えば、あなた、確かウェルド伯爵のとこの娘さんですね。ワインを持ってふらつかれるほど体調悪くされてるなら、夜会に参加したりせず、領地に帰ってしばらく療養されたらどうですか?」
「ジーク、このご令嬢を送って差し上げろ」
「はっ」
「え、あの、私は、」
まだ何か言い訳をしようとしていたが、ジークに引きずるように連れてかれ、すぐに声が遠くなり聞こえなくなった。
要は、”いますぐ消えろ。一家揃って領地で謹慎してろ”
ってとこだろう。
(はっ、そういえば!!)
エルストさんをみると、上着にワインの色が吸い込まれ、そこだけ色が変わっている。
(直ぐに別の布を充てて色落とししないと)
近くで固まっていた給仕さんから、布巾を数枚頂戴し、グラスの水も持ってエルストさんのところへ行く。
ポンポンと上から叩いて即席の染み抜きを始める。
(裁縫好きの私の知恵がこんなところで役に立つなんて)
しかし何度も叩いても、すでに染み込んでいる赤ワインはなかなか落ちてくれない。
「ユナ様、もういいですよ」
「でも、このままでは目立ちます。私を庇ってくださったことでお洋服を汚してしまったので、もう少しやらせてください」
「では、場所を変えましょう。殿下、少し外します。よろしいですか?」
「もちろんだ。近くの来賓室が空いてるからそこを使うといい」
「ありがとうございます。では失礼します」
エルストさんについて入った来賓室のソファーに上着を脱いで座ってもらい、近くのテーブルで必死に染み抜きをするが、やはりなかなか効果は見られない。
「もういいですよ。あとで、変えの上着を持ってきて貰いますので、それでなんとかなります。」
「それより、あなたは大丈夫なんですか?」
「わ、私は、なんともありません。お礼が遅くなりましたが、庇っていただきありがとうございました」
「ならば、良かったです。」
柔らかく笑った顔に一瞬見とれてしまい、なんだか恥ずかしく感じて顔をそらす。
「ああでも、もしかしたらワインをかけられた際に飛沫が飛んでいるかもしれないので、やはり確認しないと。赤ワインはなかなか落ちないですからね」
そういったとたん急に手首を取られ、ソファーに押し倒された。すぐに私の上に跨り、両手を顔の横で縫い止められる形となった。
「ああ、やっぱり、ここにワインがかかってますよ」
そういい、首すじをペロッと舐められる。
~~っ!!! そんなところ、絶対に掛かってない~~っ!!!
唇は徐々に下にさがっていき、鎖骨、胸の間と順番に唇を落とされる。
その手を優しく取られ、口付けをされた。
薄く唇を開けは戸惑いもなく、スッと入ってくる舌に私も当然とばかりに舌を絡めて応える。
その瞬間、前ははっきりと見えなかった私の胸に咲く白い花びらが見えた。
そしてそっと花びらを撫で、優しげに目を細めて笑う顔に、胸がドクリと音を立てて跳ねた。
(んっ、熱い。はなびらが、熱くて、疼く……)
暫く愛おしげに撫でていたが、ふいに私の上から下りる。
「これ以上はいけませんね。私が耐えられません」
手早く私の服を整えると、いつからいたのか、扉の外で控えていたジークさんを呼んだ。
「私はまた会場に戻らないといけないので、今から行きますが、あなたは今日はもう部屋で休まれた方がいいでしょう。ジーク、部屋へお連れしろ」
それだけ告げるとさっさと夜会の会場へと戻っていった。
0
お気に入りに追加
25
あなたにおすすめの小説

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
【完結】目覚めたら男爵家令息の騎士に食べられていた件
三谷朱花
恋愛
レイーアが目覚めたら横にクーン男爵家の令息でもある騎士のマットが寝ていた。曰く、クーン男爵家では「初めて契った相手と結婚しなくてはいけない」らしい。
※アルファポリスのみの公開です。
傲慢令嬢は、猫かぶりをやめてみた。お好きなように呼んでくださいませ。愛しいひとが私のことをわかってくださるなら、それで十分ですもの。
石河 翠
恋愛
高飛車で傲慢な令嬢として有名だった侯爵令嬢のダイアナは、婚約者から婚約を破棄される直前、階段から落ちて頭を打ち、記憶喪失になった上、体が不自由になってしまう。
そのまま修道院に身を寄せることになったダイアナだが、彼女はその暮らしを嬉々として受け入れる。妾の子であり、貴族暮らしに馴染めなかったダイアナには、修道院での暮らしこそ理想だったのだ。
新しい婚約者とうまくいかない元婚約者がダイアナに接触してくるが、彼女は突き放す。身勝手な言い分の元婚約者に対し、彼女は怒りを露にし……。
初恋のひとのために貴族教育を頑張っていたヒロインと、健気なヒロインを見守ってきたヒーローの恋物語。
ハッピーエンドです。
この作品は、別サイトにも投稿しております。
表紙絵は写真ACよりチョコラテさまの作品をお借りしております。

淫らな蜜に狂わされ
歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。
全体的に性的表現・性行為あり。
他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。
全3話完結済みです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる