その花びらが光るとき

もちごめ

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 私のお願い事を聞いてくれた二人は、『そんなのが本当に罰になるのですか……?』 と若干解せないという顔をしていたが、すぐに準備に取り掛かってくれた。


 私の部屋のテーブルに所狭しと並べられたお菓子たち。
 ジークさんは騎士団からチョコを連れてきてくれたので、一緒におやつの時間を楽しむことにした。

 チョコには皿にクッキーとかわいらしいマカロンを乗せておく。
 尻尾をブンブン振りながら食べ始めたから、きっとうれしいのだろう。
 お菓子は至福。よくわかっている聖獣様だ。


 さて、次は私の番。
 まるで夢のようだわ~~! と順番に食べ始めた私を見て、二人は固まっていたが、私のお願いは、”二人も一緒に” とお願いしたのである。

 (私だけ食べて太るのは嫌だわ) と決して思っているわけではない。
 
 二人の皿にもこんもりとお菓子を乗せ、「さあ、食べるんだ!!」 と目に力を込め進める。
 少々戸惑いながらも食べ始めた二人を満足げに眺め七つ目のお菓子を口に運んだ。


 

 一時間後。


 ソファーには、鼻血を出してひっくりかえってしまったジークさんが、氷水をおでこに充て寝込んでいる。

 ミルリーさんは途中から給仕に徹するようになり、私のお皿に何度もお菓子を載せてくれているが、
 三倍に煎じた濃すぎるお茶を時々口に含んでいるのを私は知っている。


 チョコはお腹を膨らませ、フヨフヨと部屋の中を漂っている。
 ああ、一瞬、風船かと思った。


 私は大満足だけど、きっと、ジークさんには罰になった事だろう。


 しかし、そろそろ私も限界……。
 
 残った分はタッパーに入れてもらえないかな? と考えていたら、部屋の扉がノックされた。

 
 「はい! どちら様!?」

 ……。ミルリーさん、その勢い、目が血走っていて、怖いです。



 部屋に入って来たローランス王子とエルストさんは、勢いよく開けたミルリーさんに怪訝な顔をし、部屋に入る。

 甘ったるい匂いが立ち込める部屋に一気に顔を窄め、二人とも手で口を押えた。

「な、んです、か? この匂い」

 一通り部屋を見渡し、テーブルに並ぶお菓子の残骸、屍のごとく横たわる護衛騎士、目を血走らせながら苦いお茶を飲み続ける侍女、そして、満足げな女神をみて、理解したのだろう。



 エルストは無言で部屋の最奥に行き、すべての窓を全開にする。
 ローランスは部屋の惨劇に固まっていたが、部屋の空気が入れ替わったころに我に返り、恐る恐る部屋の中へと足を進めた。

「いつまで寝ているんです?」

 エルストがジークを起こそうと声を掛けているが、私は、二人が何しにここに来たんだろうと思い、王子に声を掛けようとしたが、それよりも早く、王子が私を申し訳なさげに見て、口を開いた。


「体調は大丈夫ですか?」
「はい。こんなにたくさんのお菓子を食べられるほど元気いっぱいです」

 確かに、と思っているのだろう。若干苦笑を浮かべていた。

「あの、第三王子のこと、ですよね?」

 昨日のことを思いだしているのだろう。
 部屋の空気が、重苦しいものに変わり、みんなそれぞれ、悲痛な表情を浮かべている。


「なんであんなことをしてきたんですか?」

 ローランスは困ったような笑いを浮かべている。

 それを見てエルスが近くに寄ってきて答えを話し始めた。

「本来女神の保護が第一王子にあるということで焦ったんでしょう。女神を手に入れることで王位継承権をより確実なものとなると思っているので、自分のほうに来ないのならいっそ女神の証を消せばいいという風に考え至ったのでしょう。なんとも浅はかな考えではありますが」

「女神の証の消滅って?」


 ローランスが答える。

「運命の番を決める前に処女を散らすことだよ。異世界から連れてこられた女神がただ孤独に耐えかねて、心を壊してしまわないように、神様は女神の相手として、運命の番を用意したんだよ。愛し愛された証に女神の花びらが変化することで、生涯でただ一人の番を決めることが出来るんだ。
番になったものは女神の力を分け与えられ、二人で一生涯を生き抜いていく。きっと、この世界を作った神は、異世界から連れてこられた少女にも幸せになってほしかったんだろうね。だから、僕が言うのはおかしいかもしれないけれど、君には全力で幸せになる権利があるんだよ」

 みんなが、優しい目で私を見ている。

 その後も、ローランスさんやジークさんたちが、「二度目はない。私たちが絶対に守るから安心してほしい」 と何度もいい、部屋を後にしていった。

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